【小説】燃えろ氷河〜第3話 なれそめの珈琲〜
この物語は、氷河期を乗り越え、熱く生きた3人のエンジニアの物語である。
前回までのお話
第一話
会社の先輩が亡くなり、意気消沈する練とその仲間たち、沈む夕日をみて涙する。
第二話
兄の葬式を終え、緊張の糸が切れたように倒れた六花、目が覚めると、目の前に花音があらわれる。
第三話
なれそめの珈琲
20:00頃、練が研究所のSECOMをセットし、正面玄関のゲートを閉めようと、シャッターのボタンを押そうとした瞬間、人の気配を感じ、年甲斐もなくビクッとした。
練は自分を落ちつかせる意味で、深く深呼吸してから、人の気配をするほうに声をかけた。
「あのーすみません。どちら様ですか?もう業務終了でして‥」
「夜遅くにごめんなさい、武の妹の六花です。」
練はホッとして、声の元に歩みよる。たしか、今日はお葬式でバタバタだったはずだ‥
これは只事ではないなと、覚悟を決めた。そして、できるだけ六花ちゃんに、緊縛した空気が伝わらないように、つとめて明るく声をかけた。
「はじめまして、武さんからは、六花さんのことお聞きしています。」
月明かりに照らされた、黒いワンピースをまとった、高校生が腕を組んで仁王立ちしている。
「練さんですよね、わたしもお兄ちゃんからあなたのことは聞いています。」
そうか‥、聞いているか、まぁ聞いているよな
「へー、どこまで聞いているかわからないけど、俺も武さんからは、六花さんの安全を最優先にと言われています。」
六花が、明らかに不服そうな表情を見せた。
「練さん、わたしのことはお気遣いなく、これでも武の妹です。こうなることは覚悟していました。」
練はあらためて、六花の目を見た。
なるほど‥たしかにコイツは武さんの妹さんだ、テコでも動かないタイプだ。
「練さん、立ち話もなんですので、とりあえずすぐそこの、コメダでお話を聞かせて頂けませんか?」
練は、一瞬えっ?先輩の妹さんとはいえ、今から初対面の高校生とコメダ?と思ったが、有無を言わさぬ雰囲気に、さすがの練も折れた。
「わかりました。車を正面まで持ってくるので、ここで待っていてください。」
今度は、練が有無を言わせぬ雰囲気で、六花を見た。相手もムムッとにらんでいる。
たしかに、こりゃ武さんの妹さんだ、だまっていたら、一人で走ってでもコメダに行きそうな勢いだ。
練が、愛車のシエンタを正面玄関のお客様駐車場に、すばやく入れて、六花を乗せて夜のコメダに向かう。
たしか、長浜のコメダは23:00までやってたはずと、練は念のためGoogleマップで、営業時間を確認した。
六花が助手席に座り、シートベルトをカチャと着けた音を確認して、練は車を走らせた。
カーナビから音楽が流れる
六花が、あっ!この曲知ってると、つぶやき、好きなんですか?と聞かれる、まぁ、はいと答える。
練は助手席に女性が乗ることに慣れておらず、思わずゴクリと、唾を飲み込んだ。
普通に考えて、会社帰りの42歳のおっさんが知り合いの妹さんとはいえ、初対面の女性を乗せて、車を走らせるのは、どのていど普通なのか、練はぼんやりと考えていると、右手にコメダのオレンジ色の看板が見えた。
練はいつもよりゆっくりと、駐車場の段差を乗り越えて、車をていねいに、白線と白線の中におさめる。
「運転じょうずですね」
と、六花にいわれ、どう答えたものかと、ああはいと、あいまいに答える。
「行きましょうと、リュック式のパソコンバッグを背負って、車を降りる」
練はすばやく助手席にまわると、六花をこっちからと、足元が歩きやすいほうに手招きをした。
あらためて六花をみると、喪服なのか、仕立てのよさそうな黒のワンピースを着ている。
高校生とは思えない、貫禄いうか、不思議な落ち着きがあり、練は思わずハッとした。
「どうかしました?」
いや、喪服のままなんですねと、練はなんとも決まりが悪く、にょもにょと言いながら、お店に入ると、カランカランと、のどかな音が響いた。
2名ですと指でピースの形をすると、お好きな席どうぞと案内された。
練は六花をソファ席の奥に座ってもらい、コーヒーでいいですか?と聞くとはい、ブレンドでと答えが返ってきたので、ボタンを押し、店員さんにブレンドふたつをお願いする。
六花は練の前に座ると、あらためて真剣な表情になり、「まず、練さんが兄からどこまで聞いているか、確認したい」と切り出してきた。
ああ、そういう感じねと、練はのっぴきならない雰囲気をあらためて確信し、バックから、武さんのノートパソコンを取り出した。
六花の表情が固くなる。
「いや、さすがに中は見ていません。というか、指紋認証で電源が入るヤツなんで、わたしでは中を確認できません。」
「ですよね‥」
練は、ハッとしてその場で立ち上がって、頭を下げた。
「六花さん、あいさつが遅れました、あらためてまして、武さんの直属の部下の練と申します。お兄さんの武さんには、わたしが高卒で入社してからのお付き合いで、たいへん可愛がってもらってました。」
六花は、思わず表情がくずれ、サムライかよっと、思わず口にした。
「そういうカタイのはいいから、練さんはお兄ちゃんから、この後のことどうするか聞いているの?」
練は念のため、周囲をうかがったあと「お兄さんからは、自分にもし何にかが起きたら、研究所のパソコンを完全にデータを消してしょぶかしてほしいとお願いされています。」
「あと‥、えーとこれは、完全に意味不明なんですが‥」
「え?何?、他にも何か言われているの?」
「どういう意味か、そのとき確認しなかったのでが、あなたのことをよろしくと」
「はあ?、なにそれわけわかんない」
「ですよね‥」
「わたしはお兄ちゃんから、オレに何かあったら、真っ先にあなたに会いにいけと、あいつにはオレたちの全てを話していると、どーせ研究所に住み込んでるから、いつ行っても会えるからと」
「はあ‥」
「全てって、何よ?大雑把すぎんでしょ」
「ですよね」
確かに武さんらしいと、言えばらしいが、なんだか、えらいことになったなぁと、今手元に運ばれた、コーヒーを手にしながら、練はゆっくりとコーヒーの香りを飲み込んだ。
開発コード No.6
推論型AIにしては、本当に高校生の女の子みたいだ‥
あらためて、とんでもないモノを生み出してしまったと、練は感動を通り越して、ぞっとするような恐怖を感じた。
(つづく)
