【SF小説】魔女の背守り(1)〜天使降臨〜
プロローグ
〈背守り〉

太古の昔、「背守り(せまもり)」とは、伝統的な風習のひとつで、主に子どもの健康や安全を願って、着物の背中に縫い付ける守りの印のことを指していた。
2022年、人類は空飛ぶ生命体〃天使🪽〃の襲撃におびえて暮らしていた。
その3年後、2025年に人類は対天使迎撃システムとして、〃魔女🧙♀️〃と、その魔女を守る〃背守り👨🚒〃を開発し、天使🪽への反撃を開始する。
これはノートガルドの街を襲う天使🪽と群れと戦い抜いた、伝説の魔法使いの少女🧙と、その背中を守り抜いた少年👨🚒の物語である。
魔女の背守り
第1話 天使降臨

●登場人物
⚫︎ルラル 本編主人公、14歳の若き背守り
⚫︎リリィ ヒロイン、第三世代の新型魔女
⚫︎ネビュラ 町工場の社長、元背守り
⚫︎リッカ 第二世代の旧型魔女、片腕
カンカンカンカン!
けたたましい金属音が、ノートガルドの街に鳴り響く。
ルラルは、びくっ!としてベッドから跳ね起きた、そしてその勢いのまま、ごろんと床に転げ落ちた。
「いたた‥」
膝の痛みで一瞬で目が覚めて、目覚まし時計を見ると、まだ朝の6:00だった。
「‥ はぁ、またかよ」
ルラルはしこたまぶつけた膝をさすりながら、ひとりごちた。
いつからだろう、ノートガルドの街が天使の群れに襲われるようになったのは‥
「今が2025年だから、ひいふうみい‥」
ルラルは右手の指を折り曲げ、親指から中指まで1、2、3と数えた。
「もう、3年になるのか‥」
ルラルは人より音に敏感なので、カンカンの音にはいつまでたっても慣れないが、警報が鳴り、防空壕に避難する一連の動きには、あきあきしていて、内心またか‥と思っていた。
空襲警報は安全のため、人を襲う天使が、街の上空を通過するだけでも、カンカンと鳴らされる。
そのため、わざわざ防空壕に退避しても、ムダ足になることも多かった。
「はー、めんどくさいな‥」
一瞬、防空壕に逃げずに、もう一度ベッドで寝なおそうかと思った瞬間、ルラルはぞっとし鳥肌が立った。
ルラルは人より音に敏感なので、集中すれば遠くで飛んでいる小鳥の羽音すら聞き逃さず、鳥の数をいい当てることができた。
「おいおい‥ マジかよ‥」
遠くから迫る天使の羽音は尋常ではなかった。
100‥、いや‥そんなレベルじゃない、二層、三層と、輪になって、おびただしい数の天使の羽音がせまっていた。
「たいへんだ、街のみんなに知らせなきゃ‥」
ルラルはパジャマのまま駆け出し、白いパーカーを羽織り、🪖ヘルメットをつかんで、アパートを飛び出した。
駐輪場のバイク🛵にまたがり、エンジンをかけ、とりあえず、勤め先の町工場に急いだ。
オヤジに伝えれば、街のみんなに知らせてくれるハズだ‥
ルラルが勤める町工場は、バイクで15分くらいの田んぼのど真ん中にある、田舎の町工場だ。
オヤジは朝早いから、もう出勤してるハズ
ルラルは迫りくる天使の羽音🪽におびえながら、町工場へ急いだ。
🏭町工場に着くと、キキィーと、バイクを町工場のシャッター前につけ、ころげ落ちるようにバイクから降りて、ルラルはシャッターをバンバンと勢いよく叩いた。
「たのむ‥オヤジ、いてくれ」
祈るようなきもちで、ルラルは呼吸を整えると、シャッターの向こうから、のっしのっしとオヤジが歩いてくる足音が聞こえた。
ルラルはホッ💨として、その場で膝をついた。
シャッターがゆっくり、バリバリと金属音をたてながら上がっていく。
ルラルは人が入れる隙間ができると、ひょいとシャッターをくぐって、工場の中に入った。
ラグビー選手🏃♂️のような、がっしりとした体格のオヤジがヌッとあらわれた。
「お!ルラル、今日は早いじゃねぇか」
朝寝坊が多いルラルは、工事でも有名な遅刻魔だ、ニカっと笑うオヤジの笑顔には、皮肉がたっぷりと込められていた。
「オヤジたいへんだ!天使が、天使が!」
ルラルのただならぬ表情に、何かを感じたオヤジは、膝をついて、ルラルの目線に顔を近づけてきた。
「ルラル、落ち着け、敵の数と配置は?」
「ざっくりとしか数えてないけど、待機してるヤツらも含め、ざっくり1000いる、ノートガルドの街を中心に、半径約20kmの三層構造の円陣で囲まれてる」
オヤジはギョッとして、それは本当か?と聞き直さずに、「きたか‥」と、小さくつぶやいた。
「ルラル悪いが、急いで昨日オレ宛に届いた積荷そいつを連れて街から逃げてくれ」
「は?」
状況が飲み込めず、ぼんやりしているルラルに、オヤジがゆっくりと語りかける。
さすがに1000の天使🪽をこの町工場だけで、対処するのはムリだ。
オヤジが膝をついたまま、ルラルの頭をぐしゃぐしゃと、やさしくなでまわした。
「オマエのキモチはうれしいが、片腕の六花じゃ危険すぎる」
「逃げ切れるかわからねぇが、そいつを連れて、今すぐノートガルドの街を出ろ」
「それはどういう‥」
ルラル、昨日、オレ宛に届いた新品の積荷積荷⚰️があっただろ?と語りかけるオヤジに、ルラルはうんとうなずいた。
中身は開発中の新型の魔女だ。おそらく天使はそれを狙っていると思う。
ルラルが、えっ‥という顔をすると、オヤジはつづけた。
「そいつとオマエは最後の希望だ、時間がない必要な部材を至急準備して、会社の軽トラで逃げろ、新型の積荷は、今朝オレが軽トラに積んである」
オヤジの準備の良さに驚いたルラルだが、おそらく今の状況を事前に予想していたんだなと理解したルラルは、うんと小さくうなずいた。
「‥でもオヤジは?」
「オレは六花と出撃する」
「ムリだよオヤジ、六花は先週の従来で左腕が損傷して動かせない」
ふふんと、オヤジが鼻の下を右手の人差し指でぴんとはねて、自慢げに徹夜で動かせるようにしたぜと、胸を張った。
「いや‥だとしても、失った左腕は直せない、片腕で戦うつもりなの?」
「任せとけ、オレも元背守りだ、時間稼ぎくらいにはなる」
「そんな‥」
「バーカ、なに深刻そうな顔してやがる、オレはまだこんなところてくたばる気はねえよ、あるていど時間稼いだら、オマエらを追いかけるよ」
それを聞いてルラルは少し安堵した。
「ほら、ムダ話してる時間はねぇぞ、準備できたらすぐ出発しろ、北北西にあるの青の防空壕で落ち合おう、オレもテキトーに時間かせいでから、そっちに向かう」
わかったと、ルラルはうなずき、ぜったい来てねと念をおす。
「わかってるって、もし最悪、夕方までもどらなかったら、日が沈む前に隣町のカクヨム村に避難しろ」
わかった、日が沈むの早いから遅くとも17:00までには来てねと、ルラルはすばやく自分の作業台に行き、ヘルメット🪖をかぶり、工具箱🛠️を持って、シャッター前の軽トラ🛻に乗り込んだ。
その日、オヤジと六花は帰ってこなかった。六花の最終魔法、千の光が放たれた時、天使🪽の反応の消失と共に、オヤジと六花《リッカ》も消えた。
ルラルはその光を、防空壕の丘から見た瞬間、瞼に巨大な光が花火のように焼きついた。
オヤジと六花が戻らないと悟ったルラルは、魔女と歩き出す。
ぶっきらぼうなその背中に、ときおり光を受けキラキラ光る刺繍を、ルラルはそっと眺めた。

(つづく)
