その怨み、晴らします……第6話
ハラスメントの怨み、晴らす面々⑥
翌日。
仕事が休みだった功佑は、佐山の両親が営む食堂へと向かった。
目的は一つ。佐山のスマホを入手する事。しかしながら、そこまで話をどう持っていくべきか、ましてや見ず知らずの男が友人と称して近づくのも、警戒されるに決まっている。
「よし、ここはひとつ、儂が智慧を貸そう! 旨い飯を作る同志であるならば、きっと話は通じる筈じゃて」
そう言ったのは忍野だった。彼は佐山の両親がネット上で叩かれていることに対して、ひどく憤慨していた。また同じ子を持つ親として、我が子を守れなかったその痛みに共感しているようでもあった。
そして極めつけは自身の発言の通り、彼は二人が営む食堂の料理に強く興味を示した。
それもそのはず、忍野は生前、極道でありながらも、料理に対しても並々ならぬ情熱を燃やしていた。無論その全ては我流ではあるが、彼の作る料理はとにかく『美味し』かった。
まさに食堂や居酒屋で出されてもなんら遜色のない、いや、それ以上に旨い料理ばかり。
そんな忍野はネットの画像で見ただけで、佐山の両親の料理を絶賛した。
「この料理は『善』なる者の作りし一品。優しさと温もりに溢れる味わいに違いない」
一度も口にしていないのにそう言い切る忍野。その写真から、料理を愛する者同士、きっと彼らと懇意になれると踏んだのであろう。率先してその手と声をあげるのだった。
「わ、これ……やってんのかな?」
佐山に教えてもらった住所をスマホで検索しながら、功佑と忍野はその店へと辿り着いた。
しかし、辿り着いたその佇まいは悲惨を通り越して、凄惨な有様だった。
『お食事処 さやま』
と記されていたであろう暖簾はズタズタに切り裂かれ、入口の引き戸や壁面には大量の落書きがなされていた。
『ハラスメント反対』
『潰れろ』
『激マズ』
辛辣な落書きが、あの動画の爪痕を物語っていた。また、壁の至る所がへこんだり、穴が開いてたりもしている。それでも尚、入口の引き戸の引手の近くには『営業中』の札が掛けてある。それが意図されたものか、或いは放置されたものなのかは分からなかったが、功佑は思い切ってその引き戸に手を掛けた。
「いらっしゃいませ!」
開口一番、威勢のいい声と、柔和で温かい声が功佑たちを迎え入れた。
店内は厨房を隔てて四席のカウンターと、三台のテーブル席。そしてその奥に座敷席が二つ設けられていた。その年季の入った店内の様相に、以前は相当の賑わいを誇っていたのが見て取れた。それに加えて壁に掲げられているメニューの豊富さ。焼肉、生姜焼き、ハンバーグ、酢豚など、和洋中の定番メニューの定食と、かつ丼や天丼などの丼もの、うどんやそばの麺類、そして一品料理まで、びっしりとそのメニューたちが壁面を埋め尽くしている。
そして極めつけはその値段。そのほとんどが五百円前後という破格さ。物価が高騰するこのご時世になんと良心的な値段。きっと連日、学生や家族連れがごった返していたに違いない。
「ささ、カウンター席さどうぞ」
佐山の母親らしき女性が功佑を優しく促す。
「あ、すみません」
功佑は言われるがまま、カウンター席に腰を下ろした。
「お兄さん、何にするかえ? どれも美味しいでよ」
グラスいっぱいに麦茶を注ぐと、母親は注文の態勢に入った。
「え……と……」
そもそも食事をするつもりではなかったが、佐山の母親の勢いにどうも断れない状況に陥った。
「儂に任せい」
背後に立っていた忍野が、すっと功佑の中に入り込む。そしてメニューを一通り眺めると、
「生姜焼き定食を一つ」
少し低めの声でそう呟いた。
「はい! 生姜焼き一丁!」
母親の元気な声が店内にこだますると、それに合わせて厨房の父親が威勢よく連呼する。
その嬉しそうな声の響きに、功佑と忍野は頬を緩めた。入口が辛辣な状況だっただけに、両親の対応に、功佑たちは少しだけその胸を撫で下ろすのだった。
「はい、お待たせしました。生姜焼き定食です。ごゆっくりどうそ」
待つ事十分もせずに、生姜焼き定食は運ばれてきた。
「こ、これで五百円ですか?」
それを目の前にして、驚愕したのは功佑よりもむしろ忍野のほうだった。目にした途端に、料理を愛する者としてのスイッチが入ってしまったようだ。
カレーライスを思わせる、大皿いっぱいに盛られた生姜焼き。その隣には繊細に刻まれたキャベツと人参の千切りが添えられ、濃厚な中にも一服の清涼感を演出している。そして付け合わせの胡瓜と春雨の酢の物、具沢山の豚汁、山盛りのご飯、もはや利益度外視の大盤振る舞いである。
「いただきます……」
忍野は手を合わせ、目の前の生姜焼きと対峙する。そして箸を取りいざ実食。
「はっ! これは、このコクはきっとカルピスバター! なんとも奥深い! 素人ではこのコクは出せん! そして豚肉の味の染み込み具合はきっと一晩寝かせとるな! 更にはこの辛みのアクセントは山椒か? なんともはや、いい仕事しておる!」
忍野は功佑の中に入っている事を忘れて、あまりもの美味しさに悦に入り、声をあげる。
「お! お客さん、よう分かったね! そこまでうちの味を言い当てる人は初めてだて」
厨房から佐山の父親が嬉しそうに声をあげた。
「これはこれはマスター、素晴らしい味わいですな! ほんとにいい仕事をなさってある! ここまで旨い生姜焼きは初めて食べましたぞ!」
「嬉しい事言ってくれるねえ!」
料理を愛する漢二人は互いの言葉に、ある種の繋がりを感じ合った。そしてそのまま熱い料理談議へと突入するのだった。
「お客さん、あんた若いのにえらい歳喰った喋り方するんやね」
母親が、忍野と父親の止まらぬ会話に茶々を入れる。と、その途端、忍野は功佑の中から飛び出した。
「あ、いや、耳年増というか、若年寄りというか……」
急に会話のバトンを忍野から渡された功佑は、途端に言葉を詰まらせる。
『話が入りやすいようにお膳立てはしたでな。後はこうじーの仕事じゃて。料理に関する話になれば出てくるけ安心せい。ほだら後は任せたぞ』
確かに忍野の料理愛のおかげで、佐山の両親とは幸先のいいスタートを切れた。きっとこちらの話も聞いてくれそうな雰囲気ではある。とは言え、バトンタッチがあまりに急過ぎた。
当の忍野は後ろのテーブル席に座って、食べ終わっていっぱいになった腹をさすりながら、楊枝で歯の隙間を突いていた。
もしかして、食べたかっただけ?
そう疑わざるを得ないその満腹気な顔に、功佑は少しだけ呆れるのだった。
「ところでお客さん、あんた見ない顔じゃね。旅行かなんかかい?」
母親が話題を切り替えた。
「旅行ではないんですが、こちらに少し用がありまして……」
功佑は佐山の顔を思い浮かべ、拳を強く握りしめた。
「実はこのお店……というか、お二人に会う為に、こちらに伺いました」
「うちらに?」
佐山の両親は目を丸くした。
「はい……申し遅れました、僕はエッジの河東と申します」
功佑は隣の椅子に置いていた鞄の中から、職場の名刺を取り出すと、恭しく二人に手渡した。そして単刀直入に彼は切り出した。
「実は僕、お二人のお子さんの佐山健司さんと友達というか、生前に懇意にさせていただいてました」
佐山の名前を出した途端に両親の顔色が変わった。今まで柔和で朗らかだった二人は、警戒するような眼差しを功佑に向けた。
「あんたみたいな人、何人も来とるで。息子について話を聞かせろだとか、どんな育て方したんじゃ! とか、訳の分からん言いがかりを付けて、うちらの事を、なんじゃ? 動画とかいうもんであることない事、悪う言うとるんじゃろ? もう、うんざりじゃて! あんたもその口じゃろう? なーんも話す事はありません! さっさとお引き取り願えませんかねえ!」
口火を切ったのは父親だった。先程までの温厚な面持ちとは打って変わって、鬼の形相でそう言い放つ。
「お父さん、僕は違うんです! 健司さんの無念を晴らしたくて、今日ここに伺ったんです! あの動画は全くの嘘で、僕はそれを証明するために、お二人にお願いをしに来たんです! お父さん、お母さん、どうか、僕の話を聞いて貰えませんか? 今回のこの騒動の一切をお話しします。協力をしていただくかどうかは、話を聞いた後で決めていただいて構いません! 少なくとも僕は健司さん、そしてお父さん、お母さん、お二人の味方です!」
恨めしそうな目を向ける二人に信じてもらえるように、功佑は溢れ出る熱意を言葉に託した
「ほな、話だけ聞いちゃるけえ」
功佑の申し出に、佐山の両親は座敷席に場所を変えるように促した。
「ありがとうございます!」
その計らいに感謝し、功佑は佐山から聞いていた話を、順を追って丁寧に二人に説明し始めた。しかしながら小林についての詳細は敢えて触れなかった。たとえ肉親であったとしても、彼女が裏切った真相を話すのは、彼の小林を守ろうとする気持ちに反するように思えて、そこに関しての言及はしなかった。兎角、彼が彼女を守ろうとして三船に陥れられた事を、二人に丁寧に伝えるのだった。
功佑の話を聞きながら、両親の表情は目まぐるしく変化した。自分たちが知らなかった息子の苦渋と辛酸の日々。父親は歯を食いしばり、母親は嗚咽を堪えきれなかった。そして捏造され、息子に擦り付けられた不貞の罪。そして彼が人知れず選択した『死』という逃げ道。
息子が逃げ帰るべき場所として、自分たちを選ばなかった事に二人は嘆き悲しんだ。
『なんで言ってくれなかった……』
二人とも、涙ながらにその言葉を連呼する。佐山が一言も漏らさなかったとは言え、親として息子を救えなかった、延いてはその窮状に気付いてさえあげれなかった事、そして息子の死に対して、真相を究明しなかった自分達を、二人は責め立てた。
しかし無理もない。
息子の死後もSNSだ、動画だ、ハラスメント等々、聞きなれない言葉が彼の死につきまとい、二人は困惑を極めた。その曖昧模糊とした状況と、相次ぐ非難に心は疲弊し、いつしか二人は『よく分からない』という事を盾にして口を噤む。その結果、二人はその『死』に対して何も動けなかった。いや、動かなかったというのが本音だろう。とは言え、日々周囲を取り巻く心無い声に、二人は耐え忍ぶことだけで、正直精一杯だったはず。
さらにその誹謗中傷に牙を剥くには、二人とも歳を取り過ぎていた。それに盾突く余力と情報があまりに少なすぎた。唯一彼らが出来る事、それは、よく分からないままに急逝した息子の亡骸を前にひたすらに悲嘆に暮れ、行き場の無い憤りを胸に秘める事だけ。それが二人にとって息子に出来る唯一の鎮魂歌。そしてまた、その誹謗中傷の中、利益度外視で敢えて店を開ける事も、息子に対しての免罪符。死んだとしてもいつでも息子が帰って来れるよう、店の灯りは消さずに彼らは努めて明るく振る舞うのだった。
そして今、彼らの前に息子の存在を司る功佑が現れた。彼の登場で、二人の今までの日々はそれこそ『言い訳』と化す。しかし、どんなに悔やんだとて、息子はもう戻ってこない。ならばせめて息子が生きた証を、その爪痕を残す事が、残された二人に出来ることではないのか?
両親はそう、気持ちを整理する。そして二人の心の内はいつしか、息子への贖いと共に、三船に対する怒りでいっぱいになった。
「三船という男をどこまで追い込めるか分かりませんが、健司さんへ降りかかった疑惑を晴らして、その罪を被せた事を認めさせ、それ以外の余罪も追及するつもりです。その為には動かぬ証拠が必要なんです。そこでお願いなんですが、数日で結構です。遺留品として受け取られた、健司さんのスマホをお借りすることは出来ませんか? その中には、三船とのやり取りが残っており、証拠としての価値が存分に見込めます。どうかお願いします!」
功佑はテーブルにぶつける勢いで頭を下げた。ここは絶対に引けない。何の収穫も無いままでは佐山に合わせる顔が無い。功佑は二人が首を縦に振るまでは頭を上げない覚悟だった。
「兄ちゃんの話を信じるよ。健司らしいじゃないか。あの子はいつも誰かの為に色んなことを背負って、潰れてばかりやったで。あんたはそんな健司の事をちゃんと理解してくれとるようで逆に安心したで。うちらが何もあの子にしてやれんかった分、こちらからもお願いするで。その……三船? とかいう男をどうか懲らしめてやってください!」
少し置いて父親はそう言うと、功佑に倣って深々と頭を下げた。
「え! 本当ですか? あ、ありがとうございます!」
勢いよく頭をあげる功佑。
「お願いします! お願いします!」
父親は頭を下げたまま、しきりにそう連呼する。
「ほら、お父さん、いつまで頭下げとるで」
頭を上げない父親に、涙で少し震えた声で母親が茶々を入れる。
徐に顔をあげた父親の目は熱く潤んでいた。その目を見て、功佑は佐山の小林を想うあの目を思い出した。
「お母さん、健司の電話、どこに置いとったで?」
「仏壇の引き出しの中に入れとったで、取ってくるで待っちょき」
母親はそう言うと座敷席を飛び出して、厨房の奥の引き戸を開けて、自宅部分へと走っていった。
「河東さん、どうか健司の無念を晴らしてやってください。うちらがあの子に何もしてやれんかった分、あんたに賭ける事にするで、他に何か必要なもんあったらなんでも言いや」
父親はまだ少し目を潤ませながら、まるで息子を見つめるような眼差しを功佑に向けた。
「はい、ありがとうございます!」
功佑はその想いに応えるように、満面の笑みで彼らを見つめ返した。
「まじで最低なんですけど!」
功佑と忍野が自宅に帰りついたのは十九時過ぎ。玄関のドアを開けた途端、杏奈のヒステリックな声が二人の耳を貫いた。
「どうしたの? いきなり」
肩にかけていたバッグを下ろすと、功佑は杏奈の元に駆け寄った。
「ちょっと見てよ!」
杏奈は勝手に開いていた功佑のパソコンを指さした。そのデスクトップには、なにやら車内の映像らしいものが映し出されていた。
「なんだこれ?」
功佑はパソコンの前に座り込むと、再生ボタンをクリックした。
「確かに最低だわ……」
その動画を見て、功佑も杏奈と同様に嫌悪感を露わにした。
その動画は、興亜物産の社用車に搭載されている、ドライブレコーダーの映像だった。
佐山からの情報を元に、杏奈と春氏は功佑たちとは別行動で、今日はその回収にあたっていた。そして中身を確認した二人は、その内容に呆れ果てた。
「これ、ガッツリ犯罪じゃん!」
功佑は溜め息をついた。
その動画には車内での三船の蛮行の様子が克明に映し出されていた。昼夜問わず女性社員を車内に連れ込んでは、淫らな行為にふけこむ三船。それをまるで敢えて『撮影』するかのように配置されたカメラアングル。そこにはあからさまに邪な『意図』が存在していた。
「若林だったっけ? 三船の不倫相手。あの女がやっぱり裏で手を引いてて、三船が気に入った社内の女性社員を、次から次へと横流ししてんのよ。それで三船から小遣い貰ってて、この動画を逆手にとって被害者に口止めと、お気に入りの子には何度も関係を迫ってるって仕組み。憑依したこっちが気持ち悪くなるくらいに若林って女、マジで下衆で鬼畜だわ!」
杏奈は今日、若林に憑依し、彼女の頭の中を覗き見た。
彼女は贅と享楽に生きる女だった。
小林と同様に彼女は、洋服やブランド品、旅行や食事などの派手な買い物や浪費、併せてホスト通いや男遊びも自由奔放で、享楽に溺れる日々を生きてきた。小林のストレスやプレッシャーに起因するそれとは似て非なるもので、その享楽を貪る事こそが、彼女の人生そのもの。それが無くなるなどはあり得ない、その欲望を満たすためなら手段は選ばない、若林はそんな女だった。
そこに現れたのが三船。小柄でコケティッシュな容姿の若林を、三船は勿論放ってはおかなかった。わずか入社後数か月で彼女と関係を持ち、若林もそれを拒否するどころか、自らそこへ飛び込んだ。そして互いに『一人』では物足りない二人は、密かに密約を交わす。それは若林が、三船の気に入った女性社員を斡旋することで、遊び惚ける為の対価を得るという図式。そんな関係が二人の間にいつの間にか定着していった。
それはあらゆるシチュエーションで横行され、社用車の中はその氷山の一角。
そして更に浅ましい事に、被害者女性への脅迫用、はたまたいざとなった時は三船を裏切る、或いは彼からもっと大きなものを引き出すための材料として、若林はドラレコで撮影された映像をつぶさに管理していたのだった。その為、彼女のデスクの施錠付きの引き出しの奥には、無数のマイクロSDカードが眠っていた。そしてその中の一部を、杏奈と春氏は持ち帰ったのである。
「思い出しただけでも気持ち悪い! ほんと、この女大嫌い! こいつ、もし死んだら手の付けられないような悪霊になるよ!」
本当に不潔なものに触ったかのように、杏奈は吐き捨てる。憑依された側ではなく、憑依した方が毛嫌いするとはよほどの事だったのだろう。
「いやあ、時代が変わればおなごもしたたかでござるな! 拙者もびっくりというか、呆れて開いた口が塞がらなかったでござる」
春氏も杏奈と揃って、苦虫を噛み潰したような表情をして見せる。
「それは解せん。せっかくうまい飯を食べてきたのに、口の中が不味くなる。これはどうにも成敗せんと、腐敗の一途じゃて」
忍野も同様に、その動画に難色を示した。
「うちらが言うのもなんだけど、マジ死んで! って思ったもん」
さらに毒づく杏奈。功佑は立ち上がって彼女の目を見据えた。
「ごめんね、あんじー。嫌な思いさせたよね……」
功佑はそう言うと杏奈の頭をそっと撫でた。その途端、彼女の顔は憑き物が落ちたかのように穏やかになり、そして少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。
「ってお坊ちゃん、いつから私を慰められる程大人になったのかしら? あんたが私を慰めようだなんて十年早えんだよ!」
恥じらいを誤魔化すように、杏奈は功佑のその手を取り、捻りあげた。
「痛いです! ごめんなさい! 僕が全部悪いです……」
手を関節と逆方向に捻じ曲げられた功佑は、その痛みにギブアップの白いタオルを投げる。
「はい! あんじー殿の勝ち!」
春氏はすかさず杏奈の右手を取って勝利のポーズを取らせる。それを見た忍野が、高らかに笑い声をあげる。そして杏奈も、春氏も、そして功佑も笑みを零す。
三船の猥雑さを打ち消すように、四人は笑い声をあげるのだった。
「さてさて、どんな事実が眠っていますか?」
功佑は充電ケーブルに繋いだ佐山のスマホを手に取った。春氏ら三人も、夕食後の飲みかけの缶チューハイを片手に、功佑の背後に集まった
功佑は電源ボタンを長押しする。
四人は固唾を飲んでその起動を見守る。
スマホはまばゆい光を放ちながら、復活の産声を上げるのだった。
そして……
そこに綴られた三船と佐山のやり取り。その醜悪さに、功佑たちが怒りと嫌悪を抱いたのは言うまでもない。支離滅裂、罵詈雑言、誹謗中傷、更には脅迫と、二人のやり取りはまさに辛辣を極めていたのだった。
