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ヨロン島ホステス日記〈19〉台風の目

マニュはいつも7時頃にキビ畑の中の小さな十時路にいる。事故が起きた時間に、事故現場でひとりマブイユシをしている。だから店に来られないのだ。マダムもポセイどんも知っていても何も言わない。マニュにしてみれば奥さんと娘さんの体はなくなっても、魂はまだそこにいるのではないか。彷徨っているのではないかと心配で、恋しくてたまらないのだろう。毎日その場所に行かずにはいられないマニュの気持ちが痛いほどわかった。二度と通らないような場所が事故現場ならまだいい。だが、この島では何もかもが近すぎる。忘れてしまうことが難しすぎるのだ。

突然ブレーカーが落ちて真っ暗になった。他の部屋で女の子たちがギャーギャー騒いでいる。ノンさんがすぐにブレーカーをあげるが暗いままだ。「桃鉄ができな〜い!」とトーコが騒ぐ。テレビも見られないし、携帯もやがてバッテリーが切れるだろう。外は暗いがまだ夕方の5時だ。冷房も効かないので室内は蒸し風呂。交代でカニ湯に水を張り、冷たい水風呂に入る。

7時を過ぎるとノンさんが「そろそろ限界だね…」といい、冷凍食品を全部だして調理しはじめた。「溶けたら腐るからね」と片っ端からガンガン炒める。お客さんに貰った伊勢エビやシャコ貝などの豪華食材も登場する。台風の影響を受けないプロパンガスで本当に良かった。ズラリとごちそうが並んだところでマニュとポセイどんが来た。「何、あんたたちいいところで!」と罵られつつ「よく来れたね〜、大丈夫?」と心配もされている。2人ともグショ濡れでゲラゲラ笑っている。ポセイどんが居候していたビルのペントハウスがぶっ飛んだらしい。給水塔ももげて、海までコロコロ転がって行ったそうだ。人は信じがたい事態に遭遇すると混乱のあまり笑ってしまうのだろうか。とりあえず家を失ったポセイどんはマニュに救援を頼み、ありったけの財産を持ち出した。主に海で遊んだ旅人のオネエちゃんの写真や連絡先である。

マニュの車に荷物を乗せるうちになぜかポセイどんは上半身裸になっていた。風でシャツが飛んだのだ。ラフレシアの寮に泊めてもらうというポセイどんに対してマニュは不安を感じた。これまでポセイどんが手を出してきた店の女の子の数…必ずやトラブルになるし、マダムにも怒られる。ウチに来いといっても頑として拒むので、仕方なくついてきたのだ。

「マニュヤカ〜」とクネクネしながらトーコがマニュの体を拭こうとする。マニュはタオルを取り上げ自分で拭きながら「オレはオマエより年下だからヤカじゃなくてガマだ。あと勝手にウチに来るな!」…トーコ、勝手にマニュんちに行ってるんだ、怖。ヤカはよく聞くけど「アニキ」見たいな感じなのかな。「ガマ」は年下に対してだろう。

ポセイどんが異常な数の酒を持って来たので酒盛りとなる。台風の夜はたいがいどこでもやることがないので酒盛りをしている。マニュはカンテラと発電機を持って来てくれた。部屋が明るくなると、少し安心する。

島の不思議な話や風習が話題になる。
ナナが「この間、小学校の裏に行ったら白骨が落ちてたんだよね」と言う。エッ!それは事件ではないか。「でもなんかすごく古そうだし、人間かどうかもわからないから」とそのままにしたそうだ。怖っ…と皆が静まり返った時、あれほど騒がしかった外の音が消えた。「行った?台風通過した?」とトーコが外に出ようとする。「出るな!今、台風の目に入っただけだ。この後吹き返しが来るから危ないぞ!とマニュが注意したが「台風の目?見えるの?」とみんな口ぐちに外へ出た。見上げると島の上空に大きな雲のサークルが出来ている。その真ん中にぽっかりと夜空があり、天の川が流れていた
。神秘的な景色に言葉を失っているとトーコが「痛ッ!」と声を上げた。ガラスの破片か何かがぶつかったようだ。そしてざわざわざわと周りの草木が立ち上がり、揺れ始める。「吹き返しが始まったぞ!みんな中に入れ!」とマニュが叫んだ。


          (つづく)

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