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ヨロン島ホステス日記〈16〉パイプとマダム

パイプは同級生なだけあってママにくわしい。かつては物凄い美人で隣島のミス・ハイビスカスだったそうだ。高校時代の先生と早々に結婚し、鹿児島のあちこちを回った。結婚して間も無く、婦人科系の病気になってマダムの体型は変わったが、先生は病前と変わらず優しく妻に接した。もしもからかうような人がいたら先生は許さなかっただろう。先生はボクシング部の顧問で、かつては自らもフライ級の選手だったらしい。では、なぜマダム一人でラフレシアをやっているのか?

「悲しい話なんだけどねぇ」とパイプが言う。「40才の頃に先生が病気になってね、一番好きだった与論に戻ってきたのよ。無理してボクシング部をやって、その時不良で先生に迷惑かけたのがトゥラ」。「ポセイどん?」。「うん、そうそう。だからあいつはママに頭が上がらないわけ」。

なるほどなぁ。そして先生亡き後、マダム一人で店を始めたのか…と思ったが、パイプによるとお膳立てしたのはすべて先生だったらしい。人をもてなすのが好きなマダムが寂しくならないように、と、内装から、原価計算から従業員の手配まで。島内はもちろん、鹿児島から沖縄のボクシング仲間や友人に声をかけて「彼女を頼む」と言い残して死んで行った。「男の鏡だよねぇ」とパイプは言うが、私にはよくわからない。突然店を残されても…。確かに忙しくなって気は紛れるかもしれないけど。

「あっ‼︎」。「どうしたサトちゃん⁈」。急に頭の中でアハ体験が起きた。ゆうべマダムが熊ちゃんに向かって「ヨウコさんはホントに強いのよぅ」とか「熊ちゃんだってヨウコさんには敵わないんだからぁ」としつこく言っていたのだ。熊ちゃんでも敵わない女、ヨウコとは一体…と思ったが、それって…「具志堅用高⁉︎」。「ウワッ!何よ一体⁉︎」「マダムって具志堅と知り合い?」、「ああ、先生の縁で飲んだことがあるみたいよ」。やっと合点が行った。熊ちゃんより強い女がいたらとても怖い。ちょっちゅねーで良かった。

パイプたちは沖永良部へ帰ったので茶花の町をぶらぶらしながら寮へと向かう。背後からズザザザザ〜と何かをひきずる音がした。道の端によけて待つとイカが…軽トラの荷台よりはみだしたイカが運ばれて行った。あれは…まさかダイオウイカ⁉︎

「落ち着け」。受話器の向こうでマニュは言った。「オマエが見たのはソデイカだ。ダイオウイカなんて滅多に獲れん。俺だって見たことない」。「え〜、でも軽トラの荷台からはみ出てたんだよ〜」。「ソデイカは平均で1メートル以上あるから、特にデカいのをみたのかもな。それよりオマエ、遅刻するぞ」。と言われハッとした。ヤバい、7時近い。この島はいつまでも明るいから時間を忘れてしまう。雑に着替えて雑に化粧したら猛ダッシュだ。階段を駆け上ったらジャスト7時。「ヤッター!」と快哉を叫んだが、なぜか皆さんの視線が痛い。間に合ったのに?私何かしましたでしょうか?

         (つづく)


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