ヨロン島ホステス日記〈21〉トゥンガモーキャー
1999年9月24日・旧暦8月15日
赤い糸トンボが低く飛ぶようになった。秋の訪れらしいが、相変わらず気温は高い。与論では年に3回「十五夜踊り」という祭がある。屋台とか出るのかと思って行ったら「島中安寧」と「五穀豊穣」を祈るガチなやつだった。
白い衣装に奇妙な面をつけた一番組と藍色の着物に覆面をした二番組がそれぞれ踊る。見たことのない光景だ。恐ろしいことに酒が「一対」で回ってくる。しなされる。このままでは店にも出られなくなるのでマニュを呼び出してウサギ号で脱出した。ほかの女の子は献奉に巻き込まれている。いつのまにかマダムも飲んでいる。こりゃ今日はお休みかな?
町へ降りて行くとやたらと子供達が走り回っていた。トゥンガトゥンガ!と謎の呪文を叫びながら、お菓子の入った袋をふりまわしている。「何?あれ?」とマニュに聞くと「そうだ!今日は餅盗みの日だ!こうしちゃいられない」とバイクを停めて「オマエなんか袋もってるか?」と言う。そんなこと急に言われても、祭りを縁日と間違えて着込んだ浴衣のたもとぐらいしか…。「それだ!右は俺、左はオマエな」と勝手に決められた。「行くぞ!」と漲ったマニュは私の手をつかみ、真っ暗な路地へと入り込んだ。「ちょっと屈め!」と言うので中腰になる。路地の突き当たりにはロウソクが揺れていて、ものすごく怖い。
マニュの動きが早くなった。「トゥンガトゥンガ!」と叫ぶと玄関前に置いてあったサータアンダギーに手を伸ばし、盗んだ!「ちょっとアンタ、何してんのよ!」と私が叫ぶのと、その家の玄関がガラッと開くのが同時だった。「オマエら〜、大人じゃないか!菓子はワラビンチャーのために置いてるのにぃ!」とおじさんが怒っている。マニュは笑って「走れ!」と言うと私の手を引っ張ってビーチまで走った。
へとへとになって砂に座ると、マニュが「ほれ、オマエの分」とサータアンダギーを左のたもとにいれた。「美味いぞ。シーチキンが入ってる。天才的だなあのおっさん」と満足そうだ。しかしイマイチ私は合点がいかなかったので「あのー、それ泥棒したよね?」と聞いてみる。「うん、したね。だって今日は十五夜でトゥンガモーキャーの日だから」。何それ?マニュによると十五夜はお供えの餅を盗んでも怒られない。特別に神が許しているそうだ。だから餅だけでなく駄菓子や饅頭を置く家もある。これは子供時代の楽しい思い出になるだろう。「でもさ」、
「ワラビンチャーって子供達のことだよね」。「うん」。「私たちって大人だよね。お菓子盗んじゃダメだよね」と言うがマニュは「神様はそんな細かいこと言わないだろ。もしもいれば、の話だけど」と言う。毎日マブイユシしている人が神を信じないのだろうか、と思うが、神の存在を疑いたくなるような目に遭っているわけだから、その辺りの複雑な気持ちもわからなくはない。
マニュの携帯が鳴って「誰もいなーい‼︎」と叫んでいるポセイどんの声が聞こえた。みんな十五夜でやられたか。今店にはポセイどん一人なのに、なぜか団体が入ったらしい。「ヨシ、行くか!」とマニュが立ち上がり砂を払う。急に照れくさそうに手を差し伸べてきたので私も笑いながらマニュの手を握って立ち上がった。店の隣の家にもトゥンガの飴玉が置いてあったのでコッソリたもとに入れた。帰りに堤防で一緒に食べよう。今日もラジオフライヤーで送ってくれるのかな。
(つづき)
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