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ヨロン島ホステス日記〈17〉神秘のイカ

「あらあら、今日もマニュとおデート?」。ナナが煙草をくゆらしながら聞いてくる。「デートォ?全然そんな感じじゃないよ。海行ってマニュのおかあさんのご飯食べて…」。「おかあさんのごはん⁉︎それってもうだいぶアレなんじゃないの?」とみんなが騒ぎ出す。だよなぁ、誤解されるよなぁ。昼休みはみんないちいち家に帰るなんて都会ではありえないし、今日私が見たイカの話も誰にも信じてもらえないだろうし…。

…と諦めかけたその時、「ミワ」という名の男でも女でもない人が「アンタ、見たのね、あのイカを」と言った。え〜、イカってなぁに?とみんながざわめく中、「あの神秘のイカを見た人は幸せに恵まれるわよ。小さなことは気にしなくていい」と告げる。何も話してないのになぜわかるんだろう。続いて「マニュのことは大丈夫。マニュもこの子も全然恋愛に向いてない。むしろ無理」。「よかったー!」と与論島子がつぶやく。島子、マニュが好きだったのか。マニュも大変だな。

カウンターの後ろで寝ていたポセイどんが急に起き上がって「ミワちゃん!オレの恋愛運は?」と聞いている。「ないよ」と答えるとミワちゃんはキッチンに行った。時折り勝手にチャーハンなどを作って客に高く売りつけている。客の気配を感じたようだ。

その日は仕事とはいえ楽しかった。島人の7割ぐらいは指笛が吹けるようでBzにもサザンにも指笛を入れてくる。奄美民謡や徳之島の「ワイド節」を唄う人もいるが、やはり沖縄の曲が多い。盛り上がると「カチャーシ」を総出で踊る。女踊りは手のひらを蝶のようにひらひらさせて、男踊りは拳を固く握る。拳の中には刃物や武器を隠していたという説もある。与論の歴史は搾取の歴史だ。北山王朝が滅びた後も島津藩からの支配は続き、年貢として大量のサトウキビが取り立てられた。

あの与論献奉も島外から来る役人をいい気分にして、少しでも税金を負けてもらおう…という下心があったとか、なかったとか。

盛り上がり過ぎて頭に一升瓶を載せて踊る人もいた。ハラハラするが、まるで吸い付いたように離れない。ホラ貝を吹く人もいる。すごいな、この島。

気がつけばポセイどんもマニュも混ざり合って踊っている。客も従業員もないから働いている気がしない。どのみち酒はよく飲むから売り上げに貢献はしているが、酒はほとんど献奉なので水割りを作ったりする手間が少ない。せめてお客さんの煙草に火をつけようとしたら「ヒィィッ」と怖がられた。火が怖いのか…。ワイルドだなぁ。

そんな感じで日々は過ぎて、店が終わるとマニュのラジオフライヤーに乗せられて堤防で星を見る。時にはうっかり砂浜で寝て、ヤドカリに噛まれたりもした。私たちは周りが不思議に思うほど何もなかったけど、私にしてみればそれはいつものことだった。私には性欲がない。人を好きにはなるが、恋愛とは少し違うように思う。執着や嫉妬、独占欲などがわからない。子供の頃からそうだった。友達同士のエッチな話や恋バナには一応わかったようなフリをしていたが、正直苦手だった。
さすがに自分でも問題かと思い調べてみたら一定の割合でそういうひとはいるようだった。アセクシャルとか、そういう分野らしい。だからといって自分は別に構わないし、鬱陶しいことからひとつ逃れて気楽なだけである。が、不思議ななのはマニュだ。これくらい親しくなると大概の男はフェロモンを出し始めて私を困らせる。それから逃げるために今まで転々としてきたとも言える。マニュは単純に私に興味がないのだろうか。それとも私と同じような体質なのか。そうだといいな。ずっと今のままでいられたら。

           (つづく)

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