真夏に根腐れが増える理由を、数字で説明できますか。
「梅雨より真夏のほうが根腐れが怖い」と、感覚的に思っている育成者は多いと思う。私もそうだった。
でも、なぜそうなるのかを、数字で説明できるかと聞かれると、答えに詰まっていた。今日は、そこを調べて分かったことを、根拠となる研究とあわせて書いておきたい。
気温が10℃上がると、根の呼吸はどれくらい変わるのか
根の呼吸速度が気温によってどう変わるかを表す指標に、Q10というものがある。気温が10℃上がるごとに、呼吸速度が何倍になるかを示す数値だ。
森林生態系を対象にした複数の研究をまとめたレビュー(Wang et al., 2006)では、根の呼吸のQ10は中央値で2.40だったと報告されている。分布の中心は2.5〜3.0の範囲にあり、全体の33%がこの範囲に集中していた。気温が10℃上がると、根の呼吸速度はおよそ2.4倍になる、という計算になる。
呼吸速度が上がるということは、それだけ酸素の消費量も増えるということだ。真夏、鉢の中の温度が上がれば上がるほど、根はより多くの酸素を欲しがっている。
ちなみに同じレビューでは、土壌呼吸(微生物活動を含む)のQ10は中央値2.74、幹の呼吸のQ10は中央値1.91だったことも報告されている。幹<根<土壌の順に温度への感受性が高くなる、という傾向だ。根が、幹よりも気温の変化に敏感に反応する部位だということは、鉢という狭い空間で温度変化の影響を受けやすい育成環境では、なおさら意識しておきたい点だと思う。
一方で、暖かい水ほど、酸素を溶かし込めない
ここに、もう一つの事実が重なってくる。水温が高いほど、水に溶け込める酸素の量(溶存酸素量)は少なくなる、という性質だ。これは水の物理的な性質としてよく知られている。
つまり、真夏は「根が酸素をたくさん欲しがる季節」であると同時に、「水やりで与える水自体が、酸素を運ぶ力を落としている季節」でもある。需要が増えて、供給が落ちる。両方が同時に起きているのが、真夏という季節なのだと思う。「蒸れやすいから」という感覚的な説明の裏に、こういう仕組みがあったのかと、調べていて腑に落ちた。
そもそも、根はなぜ酸素を必要とするのか
少し基本に戻りたい。根は、糖を分解してエネルギーを作り出しており、そのプロセスに酸素を使っている。葉の光合成とは、まったく別の話だ。
この呼吸で作られたエネルギーが、水分や養分を吸収する力になる。根が水を吸えているのは、根自身がきちんと呼吸できているからだ、と言い換えることもできる。
土が水で満たされ、隙間の空気が押し出されると、根の周りの酸素濃度は下がっていく。酸素が足りなくなると、通常のエネルギー生産経路(酸化的リン酸化)が働かなくなり、根は解糖という非効率な経路に頼るしかなくなる。この状態が続くと、乳酸が蓄積して細胞内が酸性に傾き、細胞そのものが壊れていくことが報告されている(Soil Science, 1992)。根は「溺れる」というより、「窒息する」のだと思う。
酸素不足は、何時間で後戻りできなくなるのか
酸素不足がどれくらい続くと、根に回復できないダメージが残るのか。これについて、具体的な時間のデータがある(Ben-Noah et al., 2018)。
バナナの根を対象にした研究では、無酸素状態が2時間なら、酸素を戻したあと根の成長速度は元に戻った。4時間続くと、成長速度は元の半分にしか回復せず、6.5時間続いた場合には、根の成長が完全に、かつ不可逆的に止まってしまったことが報告されている。
これはバナナのデータで、アガベにそのまま当てはまるとは言えない。それでも、酸素不足が「少しの間なら大丈夫」で終わる問題ではなく、時間とともに後戻りできなくなる問題だということは、はっきり示されていると思う。
用土の粒の大きさが、通気性の数字をどう変えるか
ここから先は
¥ 980
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
