市役所職員のひとりごと(あいだに立つ仕事編)⑨
不動産事業者は、何に不安を感じているのかー居住支援に関わるということの「重さ」
居住支援の取り組みを進める中で、不動産事業者の方々に勉強会などの参加をお願いすると、多くの方が前向きな関心を示してくださいます。
一方で、表には出にくいものの、いくつかの共通した不安を感じていることも、少しずつ見えてきました。
これらの不安を見ないふりをしたままでは、本当の意味での協力関係は築けないと思っています。
◾️「善意を求められているのではないか」という不安
最もよく聞くのは、次のような戸惑いです。
居住支援は大事だと思う。
でも、それはボランティアになってしまうのではないだろうか。
不動産事業者は、営利事業として日々の業務を行っています。
そこに「支援」という言葉が重なると、
• 無償での対応を期待されるのではないか
• 手間のかかる案件ばかり回ってくる
のではないか
• 採算が取れないのではないか
そのように感じるのは、自然なことだと思います。
この不安に答えないまま、「地域のために」と呼びかけるだけでは、関係は長続きしません。
◾️「責任を一手に引き受けることになるのでは」という不安
もう一つ大きいのが、責任に対する不安です。
• 入居後にトラブルが起きたら
どうするのか
• 家賃滞納や近隣トラブルが起きた場合
の対応
• 行政や福祉との役割分担はどうなるのか
居住支援の案件は、通常の賃貸仲介よりも、調整やフォローが必要になることが多いのが実情です。
不動産事業者としては、最終的に、すべてこちらに押し付けられるのではないか
という不安を、どうしても抱いてしまいます。
◾️「何が正解か分からない」という不安
制度や法律に関する不安も、非常に大きなものです。
• 住宅セーフティネット法
• 高齢者、障害者、生活困窮者への配慮
• 差別にならない対応とは何か
善意で行った対応が、後から「不適切だった」と言われるのではないか。
この「正解が分からない」という不安は、行動を止める大きな要因になります。
◾️「一度引き受けたら、断れなくなるのでは」という不安
居住支援に関わることで、
• 断りづらくなる
• 常に協力を求められる
• 特定の案件ばかり回ってくる
のではないか、という懸念もあります。
これは、「協力したい気持ち」と「事業としての限界」のあいだで揺れる、とても現実的な不安です。
◾️不安の正体は「情報不足」ではなく「関係性の不足」
こうした不安を並べてみると、ある共通点が見えてきます。
それは、不安の多くが、制度そのものよりも、関係性が見えないことから生まれているという点です。
• 困ったときに、誰に相談できるのか
• 行政はどこまで関わってくれるのか
• 一緒に考える場はあるのか
これらが見えていないと、不安は消えません。
◾️だから「登録制度」と「日常的な対話」が必要になる
不動産事業者の登録制度を考えるとき、重要なのは、「参加してください」とお願いすることではありません。
• 何を期待しているのか
• 何を期待していないのか
• どこまでが役割で、どこからが違うのか
これらを、最初から明確にすることだと思います。
そして、制度だけでなく、
• 定期的な意見交換
• 法改正や制度の勉強会
• 失敗事例も共有できる場
を通じて、不安を言葉にできる関係をつくること。
これがなければ、登録制度は形骸化してしまいます。実際に、すでに形骸化してしまった自治体の話はよく耳にします。
◾️居住支援は、不動産事業者を「変えよう」とするものではない
最後に、はっきり書いておきたいことがあります。
居住支援は、不動産事業者を福祉の担い手に変えようとするものではありません。
不動産事業者は、不動産の専門家であり、その専門性こそが、居住支援に必要です。
行政や福祉がすべきことと、不動産事業者が担うこと。
その境界を曖昧にしないことが、結果として、協力関係を長く続けることにつながると感じています。
◾️結びにかえて
不動産事業者が感じている不安は、協力を拒むための言い訳ではありません。
むしろ、真剣に関わろうとしているからこそ出てくる不安なのだと思います。
その不安に、行政としてどう向き合うのか。
そこに、居住支援の本気度が問われているのではないでしょうか。
