13兆円のドローン経済圏が動き出す 防衛新興が狙う日本の軸受けとセンサー
英国南部ファンボローで開かれた世界最大級の航空見本市で、今年もっとも人だかりができていたのは旅客機のモックアップではありませんでした。黒い機体を斜めに傾けた無人機の模型と、その周りに立つスーツ姿の政府関係者たちです。ドローンは、もはや「趣味の空飛ぶカメラ」でも「農薬をまく道具」でもなくなりました。国家が有事に備えて自国内で作れるようにしておくべき、戦略物資になったのです。
そして、その供給網をゼロから設計し直そうとしている世界の防衛スタートアップたちが、いま静かに、しかし確実に日本へ触手を伸ばしています。彼らが欲しいのは日本の完成機ではありません。プロペラの軸を支えるベアリング、機体の姿勢を読み取るセンサー、モーターを回す半導体という、日本企業が何十年もかけて磨いてきた「見えない部品」です。
この記事では、日本経済新聞が2026年7月23日に報じた「世界でドローン経済圏 防衛新興が狙う日本技術、ミネベアは軸受け」を出発点に、なぜいま世界でドローンの供給網が組み替わっているのか、その中で日本がどんな位置に立たされているのかを、市場データと個別企業の動きの両面から解きほぐしていきます。ドローンという言葉の裏側で、防衛と製造業と地政学が交差する、きわめて現代的な経済圏の話です。
1. ファンボローで起きていたこと
2026年7月20日から24日まで、英国南部ファンボローで世界最大級の航空機関連展示会が開かれました。パリ航空ショーと隔年で交互に開催される、航空宇宙・防衛産業にとって年間最大の商談の場です。
今年の会場を歩いた人が最初に気づくのは、業界の重心が明確に移動しているという事実でしょう。出展企業はおよそ1,600社。そのうち防衛関連企業の比率は、前回開催時の約40パーセントから約50パーセントへと跳ね上がりました。参加企業のちょうど半分が、民間航空ではなく防衛を主戦場にしている計算になります。
さらに象徴的なのがドローンです。ドローンを出展した企業の数は、前回の36社から53社へ、およそ1.5倍に増えました。ウクライナの企業ブースには実戦で使われている攻撃用ドローンや海上ドローンが並び、各国の軍関係者が列をつくったと報じられています。航空ショーの主役が、有人の巨大な機体から、無人の小さな機体へと入れ替わりつつある光景です。
その中で、ひときわ大きな仮設シャレー、つまり商談用のスペースを構えていたのが、米国の防衛テック新興アンドゥリル・インダストリーズでした。2017年創業のこの会社は、人工知能を搭載したドローンに強みを持ちます。会場では無人戦闘機「Fury」の模型を展示し、各国からの来賓を次々と迎え入れていました。
日本にとって無関係な話ではありません。この展示会には、日英伊が共同開発する次世代戦闘機計画GCAPも大きく打ち出されていました。詳細設計フェーズだけで46億ポンド規模の契約が動いており、その戦闘機は無人機と連携して戦うことを前提に設計されています。有人機の隣を無人機が飛ぶ時代の設計図が、この会場で描かれていたわけです。
2. 13兆円市場の輪郭:なぜ2035年に1.9倍なのか

ドイツの調査会社ドローン・インダストリー・インサイツによれば、世界のドローン市場は2035年に830億ドル、日本円でおよそ13兆円に達する見通しです。2026年時点の445億ドル前後と比べると、およそ1.9倍。年率にすると7パーセント台の成長が10年続く計算になります。
この数字の受け取り方には注意が必要です。半導体やAIサーバーのような、年率30パーセント、40パーセントで跳ね上がる爆発的成長ではありません。しかし、10年間ほぼ途切れずに右肩上がりを続けるという予測は、ブームではなく構造変化が起きていることを示しています。株価が短期間で数倍になる類の話ではなく、産業の土台そのものが少しずつ、しかし不可逆的に置き換わっていく類の話です。
市場の中身も変わりつつあります。ドローン市場は一般にハードウェア、ソフトウェア、サービスの三つに区分されますが、これまで成長を牽引してきたのは測量、点検、農業といった民生サービスでした。ところがここ数年、軍事・防衛用途の比重が急速に高まっています。
理由は単純です。買い手が変わったからです。これまでのドローンの買い手は、農家であり、建設会社であり、映像制作会社でした。彼らは1機を大事に何年も使います。ところが軍が買い手になると、話がまるで違ってきます。ドローンは撃たれて落ちることを前提とした「消耗品」になるのです。1機が数十時間で失われ、翌週にはまた同じ数を補充しなければならない。この需要の性質の違いが、市場規模の絶対値以上に、供給網の設計思想を根本から変えました。
もうひとつ、この予測が保守的である可能性も指摘しておく必要があります。世界のドローン市場全体について、2026年時点で約690億ドル、2036年に1,478億ドルに達するという別の推計もあります。調査会社によって「ドローン市場」に何を含めるかの定義が異なるためです。機体だけを数えるのか、地上管制システムや対ドローン装備、運用サービスまで含めるのか。防衛予算の膨張が続けば、13兆円という数字は上振れする余地のほうが大きいと見るべきでしょう。
3. ウクライナが変えた戦い方:500ドル対数十万ドルの非対称
なぜドローンが「消耗品」になったのか。その転換点は、間違いなくウクライナ戦争です。
ウクライナのドローン生産量の推移は、そのまま戦争の変質を物語っています。2022年には年間1,200機程度だったものが、2023年には41万5,000機、2024年には170万機、そして2025年には450万機から500万機規模へと膨れ上がりました。3年間で3,000倍を超える増産です。これはもはや兵器の調達ではなく、消費財の量産と呼ぶべき規模でしょう。
そして、この大量投入を可能にしたのが価格です。ウクライナが使うFPVドローン、つまり操縦者がゴーグル越しに一人称視点で操る攻撃用の小型機の平均製造コストは、およそ500ドルとされています。日本円で8万円弱。パソコン1台より安い機体が、戦車や装甲車を破壊しうるのです。
ここに、現代の戦場を規定する「コストの非対称性」が生まれます。500ドルのドローンを撃ち落とすために、防衛側は数万ドルから数十万ドルの迎撃ミサイルを撃たなければならない。100機のドローンが同時に飛来したら、防衛側は数百万ドルから数千万ドルを一晩で消費することになります。財布の底が抜けるのは、攻める側ではなく守る側なのです。
この非対称を解消する唯一の方法は、防衛側も安価なドローンで対抗することです。つまり、ドローンをドローンで迎撃する。この発想の転換が、いま世界中で「迎撃ドローン」という新しいカテゴリーの装備を生み出しています。日本の防衛装備庁が2026年に立ち上げた迎撃ドローンの早期取得プログラムも、まさにこの文脈にあります。
さらに、無人機の破壊力は空だけにとどまりません。ウクライナが運用する海上ドローンのMagura V5やSea Babyは、黒海でロシア海軍の艦艇を実際に沈めてきました。揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」の撃沈はその代表例です。2025年には対空型のMagura V7が搭載したサイドワインダーミサイルでSu-30戦闘機2機を撃墜したと報じられました。無人艇が有人戦闘機を撃ち落とした、おそらく史上初の事例です。
日経の記事に出てくる英国のUフォースは、このウクライナ発の海上ドローン技術を英国法人として商業化しようとしている企業です。ロシア艦隊を迎撃した実績を持つ海上ドローンをウクライナで製造し、日本進出を検討しているとされています。実戦で証明された技術が、そのまま輸出商品になる。防衛産業において、これほど強力なセールストークはありません。
4. アンドゥリルという異形の企業

世界のドローン経済圏を語るうえで、アンドゥリル・インダストリーズという会社を避けて通ることはできません。
創業は2017年。創業者のパルマー・ラッキーは、VRヘッドセットのOculus Riftを生み出し、これをフェイスブックに売却した人物です。ペイパル創業者のピーター・ティール系の投資家であるトレイ・スティーブンス、ブライアン・シンプフらとともに、既存の防衛大手とはまったく違う原理で動く会社をつくりました。
その違いを一言でいえば、「先に作ってから売る」ことです。従来の防衛産業は、政府が仕様書を出し、企業が入札し、10年かけて開発する受注生産型でした。アンドゥリルはこれを逆転させ、自己資金でソフトウェアと機体を先に完成させ、できあがった製品を政府に売り込むという、シリコンバレー型のモデルを持ち込みました。
2026年5月、同社は50億ドル、日本円でおよそ8,200億円の増資を完了しました。これにより企業価値は610億ドル、9兆円を超える水準に達しています。非上場企業としては世界最大級の評価額です。防衛セクターの未上場企業に、これほどの資金が流れ込む時代が来るとは、10年前には誰も想像していませんでした。
同社の中核はハードウェアではなくソフトウェアです。「Lattice OS」と呼ばれるAI基盤が、センサーと自律機と操作員をひとつのネットワークに束ねます。2026年3月には、米陸軍がこのLatticeを含む統合能力の調達枠組みとして、10年・上限200億ドルという巨大な企業契約を同社に付与しました。装備を売るのではなく、戦場のOSを売る。これがアンドゥリルの本質です。
そして、ソフトウェアの会社であるはずの同社が、いま猛烈な勢いで工場を建てています。米中西部オハイオ州の巨大製造拠点「Arsenal-1」は2026年3月に生産を開始し、2027年には無人戦闘機Furyや自律型巡航兵器Barracudaの大規模量産に入る計画です。Barracudaについては2027年に7,000発を生産するという見立ても報じられています。
オーストラリアではシドニー拠点で海洋ドローンの製造を進めており、大型自律潜水艇の「Ghost Shark」やDive-XLといった海中機を量産しています。米国とオーストラリアという二つの製造ハブを持ち、そこに欧州とアジアを加えようとしている。増資で調達した8,200億円は、この世界同時多発的な工場建設に投じられていくわけです。
5. 世界で同時多発する「供給網の内製化」

アンドゥリルだけではありません。いま世界の防衛ドローン新興は、判で押したように同じ行動を取っています。それは「顧客国の中に工場を作る」ことです。
ポルトガルのTEKEVER、日本語ではテックエバーと表記される企業は、その典型でしょう。NATOイノベーションファンドなどから資金を調達し、企業価値10億ドルを超えるユニコーンに成長しました。主力は海洋監視用の固定翼無人機AR3、AR5シリーズで、英国やフランスなど欧州に複数の製造拠点を持ちます。ファンボローの展示会で新型機を発表した際、リカルド・メンデス最高経営責任者が強調したのは性能ではなく製造地でした。英国で開発・設計したドローンを、英国内で製造する。この一点です。
トルコのバイカルは、無人機輸出の世界的成功例として知られます。主力機のBayraktar TB2は30カ国と輸出契約を結び、確認されているだけで14カ国以上が運用しています。2023年の輸出額は18億ドルに達し、売上の8割以上を輸出が占めるという、トルコ製造業の看板企業です。同社もいま、サウジアラビアでドローン工場を建設中で、2年以内にTB2やTB3の現地生産を始める計画を掲げています。インドネシアではTB2を60機、大型機Akinciを9機供給する契約とあわせて、現地企業と共同工場を設立することで合意しました。イタリアではLeonardoとの無人機合弁に向けた覚書を交わし、Piaggio Aerospaceを買収して欧州の生産基盤も押さえています。
台湾の坤暐科技も2025年、軍用と民間用のドローンをインドで生産するため現地企業と提携しました。人口14億の巨大市場であると同時に、中国製ドローンを排除したい強い政治的動機を持つインドは、非中国系ドローンメーカーにとって垂涎の的です。
なぜ、わざわざコストの高い顧客国内に工場を作るのか。理由は三つあります。
第一に、政治的な理由です。防衛装備の調達は雇用政策とセットで語られます。自国に工場と雇用を持ってくる企業が、入札で優遇されるのは当然のことです。
第二に、供給の途絶リスクです。有事に他国から部品や完成機を輸入しようとしても、そのとき港も空も封鎖されているかもしれません。ドローンが消耗品である以上、国内で作り続けられる体制がなければ、戦い続けることができません。
第三に、輸出の踏み台としての機能です。TEKEVERが日本に拠点を作ろうとしている狙いのひとつは、日本製のドローンをアジア各地へ輸出することだと報じられています。日本が2025年に防衛装備移転三原則を改定して輸出規制を緩和したことが、この構想を可能にしました。日本は市場であると同時に、アジア向けの輸出基地としても見られているのです。
6. なぜ日本なのか:防衛新興が熱視線を送る三つの理由
防衛新興がひときわ熱い視線を送っているのが日本です。ロイター通信は2026年6月25日、アンドゥリルが日産自動車の追浜工場、神奈川県横須賀市にある生産拠点の取得に向けて協議していると報じました。TEKEVERも日本で製造拠点を立ち上げる計画を進めており、立地は数カ月以内に発表される見込みです。ウクライナ発で英国に本社を置くUフォースも日本進出を狙っています。
海外の防衛企業が日本に防衛ドローンの製造拠点を設けるのは、初めてのことだとされています。なぜ、いま日本なのでしょうか。
理由のひとつは、市場としての成長性です。日本政府は防衛力整備計画に基づき、2023年度から2027年度までの5年間で無人アセット防衛能力におよそ1兆円を投じる方針を掲げています。2026年度予算では無人作戦・無人アセット関連だけで約2,773億円が計上され、前年度のおよそ2.5倍に膨らみました。これから買い手として本格的に登場する国が、目の前にあるわけです。
二つ目は、地政学的な位置です。日本は中国、北朝鮮、ロシアという三つの潜在的脅威に囲まれ、6,800を超える島と世界6位の広さの排他的経済水域を抱えています。この地形は、有人機で常時監視することが物理的に不可能な領域です。無人機の需要が構造的に発生し続ける地理だと言い換えてもいいでしょう。アンドゥリルが取得を検討している追浜工場が横須賀にあること、つまり海上自衛隊と米海軍の一大拠点の目と鼻の先にあることも、偶然ではないはずです。
そして三つ目、これが日経の記事がもっとも強調している点ですが、ドローンの性能を高める要素技術を持つ日本企業の取り込みです。防衛新興にとって、日本は売り先であると同時に、部品の調達先でもあります。むしろ、こちらのほうが隠れた本命かもしれません。
7. ミネベアミツミの軸受け:世界シェア6割が意味するもの
ドローンの性能を決めるのは、突き詰めればモーターの回転精度です。プロペラが高速で回るとき、わずかなブレが振動を生み、振動が電力を無駄に食い、姿勢制御を狂わせ、カメラ映像を揺らします。逆にいえば、回転を滑らかにできれば、同じバッテリーでより長く飛べ、より安定した映像が撮れる。この「回転の滑らかさ」を担うのがベアリング、日本語で言う軸受けです。
ミネベアミツミは、この分野で世界の頂点に立っています。外径22ミリメートル以下のミニチュア・小径ボールベアリングにおける世界シェアは、およそ60パーセント。世界最小級となる外径1.5ミリメートルのボールベアリングを量産できる超精密加工技術を持ち、その量産能力と安定供給でこの地位を維持してきました。ハードディスク用のピボットアッセンブリーに至っては世界シェア約80パーセントに達します。
シェア60パーセントという数字が持つ意味を、少し噛み砕いておきましょう。市場の6割を1社が押さえているということは、残りの企業が束になっても4割にしかならないということです。ドローンメーカーがベアリングの調達先を「中国以外」に切り替えようとしたとき、選択肢のリストの一番上に、必然的にミネベアミツミの名前が来ます。代替がききにくい部品を握っている企業は、業界の構造変化が起きたときに最初に恩恵を受けるポジションにいます。
ファンボローの展示会に出展した同社の担当者は、「西側のドローンメーカーからベアリングへの引き合いがある」と明かしています。「西側の」という限定が付いていることが重要です。これは技術的な引き合いというより、地政学的な引き合いだからです。
同社にとって、ドローン向けの売上高そのものは、当面はまだ小さいでしょう。ミニチュアベアリングは主にスマートフォン、家電、産業機器、自動車向けに供給されており、ドローンはその一角にすぎません。しかし、単価が高く、認定に時間がかかり、いったん採用されると簡単には切り替えられない防衛用途の顧客が増えることは、事業の質を変えていきます。営業利益率が20パーセントを超える高収益セグメントに、さらに粘着性の高い顧客が加わるという構図です。
8. 村田、ニデック、パナソニック:ドローンの五感と筋肉と血液

ミネベアミツミだけではありません。ドローンを構成する主要な機能ごとに、日本企業が要所を押さえています。
姿勢を読む「三半規管」:村田製作所
ドローンが空中で静止していられるのは、機体が自分の傾きと回転を毎秒何百回も計測し、四つのプロペラの回転数を微調整し続けているからです。この計測を担うのが慣性計測装置、いわゆるIMUです。人間でいえば三半規管にあたります。
村田製作所は、MEMS技術を用いた高精度の6軸慣性力センサーで世界トップクラスの位置にあります。3軸の加速度と3軸の角速度を同時に計測するSCH16Tシリーズは、マイナス40度からプラス110度という広い温度範囲で安定して動き、激しい振動や衝撃のもとでも姿勢推定がぶれません。最新のSCH16T-K10では、前世代品に比べてジャイロのダイナミックレンジを10倍に拡大し、検出ノイズを従来比4分の1に低減したモジュールも投入しています。SCH16T-K20は2026年初頭にサンプル出荷され、同年上期の量産を予定しています。
この分野には、スマートフォンや民生用ドローン向けで強いTDK傘下のInvenSenseという強力な競合がいます。村田が差別化しているのは、建設機械や農業機械、産業ロボットのように、振動と衝撃がはるかに過酷な環境での安定性です。戦場を飛ぶドローンが求める要件は、まさにこちら側にあります。
回す「筋肉」:ニデック
モーターの回転数を制御する装置をESC、電子速度制御装置と呼びます。ドローンの筋肉に電気信号を送る神経のような部品です。
ニデックは2025年4月、次世代素材である窒化ガリウム、いわゆるGaN製のパワー半導体を搭載したドローン用ESCを開発したと発表しました。GaNは従来のシリコン半導体に比べて電力損失と発熱が小さく、電力変換部を大幅に小型軽量化できます。ニデックのESCは従来品のおよそ3分の1という軽さを実現しました。ドローンにおいて重量の削減は、そのまま飛行時間の延長と積載量の増加に直結します。
さらにこのESCには、STマイクロエレクトロニクスのエッジAI技術が組み込まれており、電流や温度のデータから異常を自ら判定します。ESC同士が通信して、異常が起きたモーターを切り離すといった自律的な故障対応も可能です。出力1キロワット、5キロワット、10キロワットの3モデルが開発され、2026年1月の製品化が予定されていました。
同社のドローン用モーターは、すでに米Skydioの自律飛行ドローン「Skydio X10」の推進用およびジンバルカメラ制御用として採用されています。Skydioは米国防総省の認定を受けた数少ない非中国系ドローンメーカーであり、そこに日本製モーターが入っているという事実は、日本企業の位置を象徴しています。国内でもリベラウェアの狭所点検用ドローン「IBIS」シリーズに採用されています。
補給する「血液」:パナソニックホールディングス
ドローンの最大の制約は、いまも昔もバッテリーです。小型機の飛行時間はせいぜい30分前後。監視任務でも攻撃任務でも、この制約が作戦の形を規定してしまいます。
パナソニックホールディングスは、電波を飛ばして無線で充電する技術を2028年度にも実用化する方針を打ち出しています。京都大学の篠原真毅教授と共同開発した「Enesphere」と呼ばれるシステムは、920メガヘルツ帯の電波を使い、最大10メートル離れた複数の機器へ同時に電力を送ることができます。比較的低い周波数を使うため、人がいる場所でも使用可能とされています。
第一段階の用途は、工場でロボットアームに取り付けられたセンサーなど、消費電力の小さい機器への給電です。飛行中のドローンに直接給電するには、まださらなる高効率化が必要です。それでも、この技術が完成したとき、ドローンの運用形態は根本から変わります。着陸せずに充電できるということは、24時間態勢の監視が可能になるということだからです。
そして機体を作る素材
このほかにも、ソニーのCMOSイメージセンサーはドローンの「目」として世界市場を押さえていますし、東レをはじめとする炭素繊維メーカーは、軽量かつ高強度な機体フレームとブレードの素材を供給しています。JTEKTがフライトコントローラーやリチウムイオンキャパシタ、エクセディがプロペラとモーター、三井化学グループのアークが独自素材のプロペラを手がけるなど、日本の製造業大手のドローン部品への参入も相次いでいます。
日本には、世界に通用するドローンの完成機メーカーは、正直なところ育っていません。しかし、ドローンを構成する要素技術で見れば、日本は依然として一級の産業国なのです。防衛新興が日本を見つめる理由は、ここにあります。
9. 中国依存という巨大な壁

ここまで日本企業の強さを見てきましたが、世界のドローン供給網を俯瞰すると、まったく別の風景が広がっています。圧倒的な中国依存です。
完成機の市場を見ると、中国のDJIは世界の商用ドローン市場でおよそ7割のシェアを握っています。競合のAutelを合わせると、中国2社で世界シェアが約9割に達するという指摘もあります。米国市場に限っても、中国メーカー全体で75パーセント超、ホビー用に至っては90パーセント超です。
しかし本当に深刻なのは、完成機ではなく部品と素材の依存度です。公開されている分析によれば、ドローン用モーターの中国依存率はおよそ90パーセント以上、バッテリーは80パーセント以上、カメラは約70パーセント。フライトコントローラーやESC、各種センサーの多くも中国製に依存しています。
素材まで遡ると、状況はさらに厳しくなります。モーターに不可欠なネオジム磁石については、中国が世界のネオジム生産のおよそ90パーセントを占め、NdFeB永久磁石の供給をほぼ支配しています。米国のレアアース化合物・金属の輸入は、2019年から2022年にかけて72パーセントが中国由来でした。韓国の調査では、2023年のドローン部品輸入額6,268万ドルのうち、中国からの輸入が5,077万ドル、実に81.1パーセントを占めています。
米国防総省の認定を受けたドローンメーカーでさえ、中国製のセンサーやモーター、プリント基板実装に依存しているという指摘があります。軍需向けのリン酸鉄リチウム電池を国内生産で賄えるようにするには、少なくとも5年はかかるという分析もあります。
各国はこの構造からの脱却を急いでいます。米国では2025年12月、連邦通信委員会が中国DJIなどの外国製ドローンと重要部品を規制対象リストに追加しました。対象は完成機だけでなく、センサー、カメラ、バッテリー管理システム、モーター、制御ソフトウェアまで広く及ぶ方向です。欧州連合も2025年10月、ドローン対策と東部国境防衛を含む四つの旗艦防衛プロジェクトを提案しました。いわゆる「ドローンウォール」構想です。
ここに、日本企業にとっての決定的な機会があります。西側諸国が中国製部品を排除しようとしたとき、同等以上の品質で、しかも十分な量を供給できる非中国のサプライヤーは、世界中を探してもごくわずかしか存在しません。ミネベアミツミのベアリング、村田のセンサー、ニデックのモーターとESCは、まさにその「わずかな選択肢」に該当します。
ただし、ここには冷静な留保も必要です。日本企業が押さえているのは、精密・高付加価値の領域です。500ドルのFPVドローンに、日本製の高精度ベアリングや高級IMUを載せることは経済的に成り立ちません。日本企業が入り込めるのは、監視用の中型機、艦上運用される迎撃ドローン、有人機と連携する高価な無人僚機といった、精度と信頼性が価格より優先される領域です。消耗品としての大量投入型ドローンの供給網から、日本がすぐに中国を置き換えられるわけではありません。
10. 日産追浜工場という象徴
アンドゥリルが取得を検討していると報じられた日産自動車の追浜工場は、この構造変化を象徴する場所です。
追浜は、日産にとって特別な工場でした。1961年に稼働を開始し、日本の自動車産業の高度成長を支え、電気自動車リーフの生産拠点でもありました。その工場が生産終了を迎え、いま海外の防衛スタートアップが取得を検討している。日本の製造業の看板が自動車から防衛へと架け替えられる可能性を、これほど分かりやすく示す出来事はありません。
もっとも、現時点で売買契約は成立していません。取得価格も、面積も、設備投資額も、生産機種も、生産開始時期も未公表です。日産側は他の買い手候補も含めて検討中で決定事項はないとの立場を取り、アンドゥリル側は市場の憶測にはコメントしないとしています。報道はあくまで協議段階のものであり、実現するかどうかは未確定であることは押さえておくべきでしょう。
それでも、この協議が持つ意味は小さくありません。アンドゥリルは2025年12月にすでに日本法人を設立しており、日本市場への参入は既定路線です。自動車工場は、量産技術、品質管理、熟練した技能者、そして広大な敷地と電力インフラをまとめて備えています。ドローンの量産拠点に転用するうえで、これ以上ない資産です。日本の自動車産業が電動化と中国メーカーの台頭で再編を迫られる中、余剰となった生産設備が防衛産業に流れ込むという構図は、今後も繰り返される可能性があります。
11. 日本政府の反転攻勢:2,773億円と38社の公募
各国に劣らず、日本政府も国内でドローンを大量調達できる生産基盤の整備に動き出しています。その本気度は予算に表れています。
2026年度の防衛関係費はおよそ8.81兆円、関連経費を含めると約9.04兆円に達し、GDP比2パーセント水準に接近しました。このうち無人作戦・無人アセット関連には約2,773億円が計上され、前年度のおよそ2.5倍に膨らんでいます。
主な内訳を見ると、無人機とセンサーを組み合わせた多層的な沿岸防衛体制を築く「SHIELD」構想に1,001億円。長距離・広域監視用の大型無人機の取得に111億円で5機。有人機と連携する無人僚機の研究開発に48億円。陸上自衛隊が導入する小型攻撃用UAVⅠ型については、豪州DefendTex社のDrone40を約32億円で約310機導入し、運用ノウハウを蓄積しながら、2026年度から高度研究試作に着手して2032年頃までに国産機の本格配備完了を目指すとされています。
なかでも異例なのが、防衛装備庁が2026年に立ち上げた「迎撃ドローン早期取得プログラム」です。公募から実証、量産契約までをわずか3カ月程度で駆け抜ける、日本の防衛調達としては前例のない超短期スキームです。
このプログラムには38社が提案し、防衛装備庁は7月15日、実証試験に用いる4機種を選定したと発表しました。選ばれたのは、テラドローンのTerraB1、ポルトガルのBeyond Vision社のBVQ404、ドイツ製のQS INTERCEPTOR、米国製のIonStrikeとされています。4機種のうち3機種が海外メーカー製で、純国産は1機種のみという構成です。実証試験は7月下旬から8月上旬にかけて行われ、部隊運用に適すると判断された機体については8月下旬にも量産契約が結ばれる予定です。
3カ月で調達を完結させるという速度は、従来の防衛省の常識からすれば異常事態と言っていいでしょう。それだけ、ドローン迎撃能力の欠如が差し迫った課題だと認識されているということです。同時に、4機種中3機種が海外製という結果は、国内メーカーの現状の実力を冷徹に示してもいます。
政府の姿勢は調達だけでなく、産業政策の側面にも及んでいます。武器関連事業への投融資制限を見直し、国内スタートアップの防衛産業参入を後押しする方針が示され、技術力のある国内企業の量産体制構築を支援するとされています。丸紅のような商社も、海外の有力防衛ドローン企業を日本に誘致して国内に製造拠点を立ち上げるプロジェクトを推進しており、TEKEVERとは販売代理店契約を結んで日本市場での顧客開拓を全面的に支援する構えです。DefendTexのDrone40についても、丸紅エアロスペースが国内代理店として関与しています。
12. 三つの壁:周波数、航空法、そして工場の外側
ここまで景気のいい話が続きましたが、日本でドローンの供給網を築くには、まだ相当な数の障害が残っています。
第一の壁:周波数
日本でドローン用に割り当てられた周波数帯は、干渉を受けやすく、長距離飛行に適していません。民生用・商用ドローンの多くは2.4ギガヘルツ帯や5.7ギガヘルツ帯といったISMバンドを使っていますが、これらはWi-Fiをはじめとする無数の機器と共用する帯域です。市街地や工場地帯では電波が混雑し、操縦信号や映像伝送が途切れるリスクが常につきまといます。
軍事用途では、専用の周波数帯と暗号化通信を使うのが一般的ですが、その調整と割り当てには時間がかかります。産業用途ではローカル5Gや専用無線局免許で干渉リスクを下げる動きが広がりつつあるものの、まだ限定的です。ドローンが本格的な戦力になるためには、電波という見えないインフラの整備が不可欠なのです。
第二の壁:航空法
攻撃力のあるドローンを国内で実証しようとすると、危険物輸送を規制する航空法に抵触する恐れがあります。日本の航空法では、機体とバッテリーの総重量が100グラム以上のドローンが規制対象となり、危険物の輸送と物件の投下は「特定飛行」に分類されて国土交通省への事前申請と許可が必要になります。
さらに2026年6月17日に成立し7月14日に施行された改正小型無人機等飛行禁止法により、国会議事堂、皇居、自衛隊施設、米軍基地、原発などの重要施設周辺の飛行禁止エリアが、従来の約300メートルから約1,000メートルへと大幅に拡大されました。100グラム未満を含むすべての小型無人機が対象で、警告なしに処罰できる直罰化も導入されています。
安全保障上の必要から規制を強化する動きと、防衛ドローンを国内で開発・実証したいという要請は、放っておけば正面から衝突します。攻撃型ドローンを開発したい企業が、その試験を国内で行えず海外に持ち出さざるをえないという事態は、すでに一部で起きています。制度設計をどう両立させるかが問われています。
第三の壁:工場の外側にある供給網
工場を国内に建てただけでは、供給網を握ったことにはなりません。その工場に流れ込む部品と素材が、依然として中国から来るのであれば、有事における脆弱性は何も解消されていないからです。
ネオジム磁石の90パーセント、バッテリー素材の大半を中国が押さえている現実の前では、「国内生産」という言葉は半分しか意味を持ちません。日本が本当に取り組むべきは、完成機の組み立てを国内に呼び込むことよりも、その一段深い層、素材と基幹部品の供給源を分散させることかもしれません。ミネベアミツミや村田製作所が持つ技術は、まさにその層にあります。
13. 投資家はどこを見るべきか
この構造変化を投資の観点から見た場合、いくつか押さえておくべき視点があります。
第一に、完成機メーカーよりも部品メーカーのほうが、収益の確度が高いという点です。ドローンの完成機市場は、価格競争が激しく、政治的な事情で調達先が突然変わるリスクを抱えています。一方、ベアリングやセンサーのような要素部品は、いったん設計に組み込まれると簡単には切り替えられません。防衛用途では認定手続きが厳格なぶん、その粘着性はさらに高まります。どの完成機メーカーが勝っても、部品メーカーには注文が入るという構図です。
第二に、業績への寄与は当面小さいという冷静な認識も必要です。ミネベアミツミにとってのドローン向け売上は、現時点では全体のごく一部にすぎません。無人アセット関連の日本の予算2,773億円は、金額としては大きいものの、その大部分は機体本体とシステム統合に向かい、部品メーカーの手元に届く金額はさらに限られます。「ドローン関連銘柄」という文脈だけで株価を評価するのは危険です。
第三に、それでも注視すべきなのは、事業構造の変化が起きるスピードです。防衛需要が民生需要と決定的に異なるのは、価格弾力性がほとんどないことです。1機を確実に飛ばすためなら、部品の単価が2倍になっても顧客は買います。これは、コスト削減圧力に長年さらされてきた日本の部品メーカーにとって、久しぶりに訪れた「値決めができる市場」です。数量ではなく利益率の面で、じわりと効いてくる可能性があります。
第四に、地政学リスクの裏返しとしての機会です。米国が中国製ドローンと部品の排除を進めれば進めるほど、非中国系サプライヤーの希少価値が上がります。この流れは、政権が変わっても大きく逆行することは考えにくいでしょう。米中対立という不確実性は、日本の精密部品メーカーにとっては、むしろ確実性の高い追い風なのです。
14. 消耗品を作れる国になれるか
日経の記事は、最後にこう問いかけています。消耗品であるドローンを間断なく調達できる体制をいかに構築するか。安全保障の新しい定石を押さえるには、海外の防衛新興を誘引するような魅力的なビジネス環境を整える必要がある、と。
この「消耗品」という言葉に、すべてが凝縮されているように思います。
日本の製造業が世界で強かったのは、長く使える耐久財を、高い品質で作る領域でした。自動車も、工作機械も、精密機器も、10年20年と壊れずに動き続けることが価値の源泉でした。ミネベアミツミのベアリングが世界シェア6割を取れたのも、まさにその文化の産物です。
ところが、いま世界が求めているドローンは、その対極にあります。安く、大量に、失われることを前提に作る。壊れないことより、明日また同じ数を補充できることのほうが重要なのです。この転換に、日本の製造業がどこまで適応できるのか。それは技術の問題ではなく、思想と制度の問題です。
もっとも、悲観する必要はないのかもしれません。ドローン経済圏は単一ではなく、二層構造になりつつあるからです。500ドルの使い捨て層と、精度と信頼性が問われる高付加価値層。日本が競うべきは後者であり、そこには日本企業がすでに世界の頂点に立っている技術がいくつも存在します。ミネベアミツミの1.5ミリメートルのベアリング、村田のノイズを4分の1に抑えたセンサー、ニデックの3分の1に軽くなったESC、パナソニックの空間を飛ぶ電力。これらは一朝一夕には模倣できません。
ファンボローの会場で、ミネベアミツミのベアリングを搭載したドローンが展示されていました。黒い筒状のモーターが四つ、透明なフレームに支えられた、それ自体は地味な試作機です。しかし、そのプロペラの軸には、外径数ミリの日本製の球が静かに回っています。世界のドローン経済圏が13兆円へと膨らんでいくとき、その中心で回り続けるのが日本製の小さな球であるという未来は、決して荒唐無稽な話ではありません。
問われているのは、その球を作る技術ではなく、それを世界の供給網に組み込ませる制度と交渉力のほうです。工場を誘致することではなく、誘致された工場の中で、日本の部品がどれだけの比率を占めるか。そこにこそ、この経済圏における日本の本当の取り分があります。
参考文献・出典
日本経済新聞「世界でドローン経済圏 防衛新興が狙う日本技術、ミネベアは軸受け」2026年7月23日 電子版
Drone Industry Insights(ドローン・インダストリー・インサイツ)世界ドローン市場予測
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ITmedia NEWS「米防衛企業アンドゥリル、日産追浜工場の取得へ協議」2026年6月25日 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2606/25/news120.html
innovatopia「ポルトガルTEKEVER、日本に防衛用ドローン製造拠点」2026年6月 https://innovatopia.jp/drones/drones-news/110814/
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ITmedia BUILT「ニデックのドローン用モーターとAI搭載ESC」2025年7月 https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2507/11/news068.html
PR TIMES「パナソニック、マイクロ波ワイヤレス電力供給システム Enesphere」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000004622.000003442.html
ドローンジャーナル「2026年度防衛予算と無人アセット関連」https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1188632.html
ドローンジャーナル「日本の製造業大手のドローン部品参入」https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1187727.html
ミリレポ「ドローンでドローンを撃墜する時代へ 防衛省が異例の速さで選んだ4機種」https://milirepo.jp/entering-the-era-of-using-drones-to-shoot-down-drones-the-four-interceptor-drones-selected-by-the-ministry-of-defense-with-unprecedented-speed/
FDDI「改正小型無人機等飛行禁止法の施行」https://www.fddi.jp/7041
xpert.digital「ウクライナの500ドルのドローン」https://xpert.digital/ja/ウクライナの500ドルのドローン/
東洋経済オンライン「DJIの世界シェアと規制」https://toyokeizai.net/articles/-/938771
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