同じ工場群に、別々のヒューマノイドが入り始める。Schaeffler が担う「関節」の標準化
自動車や産業機械向けの軸受、駆動部品、精密部品を手がけるドイツの大手部品メーカー Schaeffler が、自社の世界生産網に、別々の会社が作ったヒューマノイドを順次導入する計画を進めています。
スイスの Hexagon Robotics が作る AEON が 1,000 台。ロンドンの Humanoid 社が作る HMND 01 が 4 桁台。同じ会社の工場網で、別ブランドのヒューマノイドが並列で動く運用は、ロボットの分野ではこれまであまり見たことがなかった気がします。
その奇妙な絵柄をよく見ると、外形は違っても、中の「関節」だけは共通しています。少なくとも公開されている提携内容を見る限り、AEON と HMND 01 のどちらでも、Schaeffler がアクチュエータ供給側に回っているからです。
5 月 13 日、その共通項のひとつが、実際の展開に向けた契約として表に出ました。
5 月 13 日に何が決まったのか
UK のスタートアップ Humanoid 社(SKL Robotics Ltd、2024 年創業、CEO の Artem Sokolov)と、Schaeffler が、5 月 13 日に実際の展開に向けた段階的な導入・供給契約に署名しました。
骨子を整理すると、次の 5 点になります。
第一に、Humanoid 社の車輪型ヒューマノイドを、2032 年までに 4 桁台、報道によると最大 2,000 台規模で、Schaeffler の世界生産網に展開する内容です。
第二に、初期展開は 2026 年 12 月から 2027 年 6 月にかけて、ドイツ国内のヘルツォーゲンアウラハ(Herzogenaurach)工場とシュヴァインフルト(Schweinfurt)工場の 2 拠点で始まります。ヘルツォーゲンアウラハでは生産現場での箱物搬送を担い、シュヴァインフルトでは能力検証と統合テストを経て、安定運用に向けた検証に入ります。
第三に、展開モデルは Robot-as-a-Service です。これは、ロボット本体だけでなく、保守、ソフトウェア更新、稼働管理なども含めて契約型で提供する仕組みです。Humanoid 社は、機体だけでなく、複数台のロボットをまとめて管理するソフト、保守、24 時間体制の技術サポート、ソフトウェア更新、性能管理までを一括で提供します。
第四に、これとは別に、5 年間のアクチュエータ供給契約も同時に締結しています。Schaeffler が Humanoid 社の車輪型プラットフォーム用アクチュエータの需要の 50% 超を、2031 年まで供給します。総量は 7 桁台、つまり 100 万個を超える見通しです。
第五に、これは突然出てきた話ではなく、2026 年 1 月 13 日に発表していた戦略パートナーシップ、数百台展開とアクチュエータ供給からの拡張版にあたります。
Schaeffler 側では、生産や運営を統括する COO の Dr. Jochen Schröder が、「先進ロボティクスにおける信頼できる技術パートナー」という言い回しで自社の位置づけを語っています。一方、Humanoid 側では、創業者兼 CEO の Artem Sokolov が「PoC で十分な結果が出たので、段階展開に移行する」と述べています。PoC は、実際の現場に近い環境で技術や運用が成り立つかを確認する検証のことです。
この契約を単独で見ると、Humanoid 社との大型提携に見えます。ただ、2025 年 11 月以降の動きを並べると、Schaeffler の狙いがもう少しはっきり見えてきます。
Schaeffler が半年でやったこと
2025 年 11 月以降、Schaeffler はヒューマノイドメーカーとのパートナーシップを次々に積み上げてきました。まとめると以下の表のようになります。

半年で並んだのは、3 メーカー 4 件の提携です。ここで重要なのは、Schaeffler がどの案件でも「自社工場に導入する側」と「関節を供給する側」の両方に回っていることです。
まず、Schaeffler は 3 社それぞれの機体を、自社の世界生産網に展開します。NEURA、Humanoid、Hexagon AEON のいずれも、Schaeffler の工場で実運用する側に回るかたちです。
次に、3 社それぞれの「関節」、つまりアクチュエータを、Schaeffler が供給します。NEURA には遊星歯車アクチュエータ、Humanoid には車輪型用アクチュエータ、Hexagon AEON には高精度な回転式アクチュエータ。共通技術基盤は Schaeffler のアクチュエータプラットフォームです。
Schaeffler の一連の動きは、ヒューマノイド領域における Tier 1 サプライヤー戦略として見ることができます。Tier 1 サプライヤーとは、完成品メーカーに対して主要部品やシステムを直接供給する企業のことです。
2025 年 11 月から 2026 年 5 月までの約半年で、NEURA、Humanoid、Hexagon Robotics との提携が並び、Humanoid とは大型の導入・供給契約にまで進みました。
ここまで来ると、単発の提携ではなく、3 メーカーをまたいで関節側の役割を広げる動きとして見えてきます。
「使う側として導入する」と「供給する側として関節を支える」を同時にできる会社は、世界でも限られます。Schaeffler は、自社工場を NEURA、Humanoid、Hexagon Robotics など複数メーカーのヒューマノイドを試す場にしながら、関節まわりの部品を共通基盤にしていこうとしている、という構図が見えてきます。
Humanoid 社という、もう一人のプレーヤー
次に、もう一方の当事者である Humanoid 社を見ていきます。
Humanoid 社は、2024 年に Artem Sokolov が創業した、英国ロンドン本社の AI・ロボティクス企業です。創業から間もない企業が、Schaeffler との数千台級の契約に進んだこと自体、ヒューマノイド業界の動きの速さを示しています。
Humanoid 社の HMND 01 Alpha は、Siemens のドイツ・エアランゲン工場でも実地検証されています。ここでは、部品や資材を入れる箱状の容器の搬送を自律的に行い、スループット 60 件/時、稼働時間 8 時間超、ピックアンドプレース成功率 90% 超という結果が示されました。
その実地検証の後、Humanoid 社は Schaeffler との大型の導入・供給契約に進みました。ここで重要なのは、ヒューマノイドの検証が、単なるデモで終わらず、実際の工場展開に向けた契約へつながり始めていることです。
これまでヒューマノイドは、展示会や実証環境で「動くこと」を見せる段階が中心でした。今回の契約では、箱物搬送のような限られた作業から入り、実際の生産拠点で継続的に使えるかを確認する段階に進んでいます。
問われ始めているのは、搬送や供給のような実際の工程に組み込まれ、保守や更新も含めて使い続けられるかどうかです。
2026 年末から Schaeffler の生産拠点で始まる初期展開では、まず箱物搬送を担い、後段で組立や梱包のような、より器用さが求められる作業に広げていく、と Schaeffler は説明しています。
Humanoid 社のような新興企業が Schaeffler のような大手部品メーカーと組むとき、提供しているのはロボット本体だけではありません。現場で動かすためのソフトウェア、複数台を管理する仕組み、保守や更新まで含めた運用基盤までです。
Schaeffler はアクチュエータの製造能力を持っていますが、ロボットを現場で使い続けるためのソフトウェアや運用データは、外部パートナーと組んで補う必要があります。
ロボット本体を作れても、実際の工場で安定して動かすには、現場ごとのデータと運用知識が必要です。搬送対象、通路、人の動き、作業の順番、停止時の対応は、工場ごとに違います。
Humanoid 社のような新興企業は、機体そのものだけでなく、実地検証を通じて集めた運用データや、保守・更新まで含めた使い続ける仕組みを提供しているのだと思います。
「頭脳」と「関節」が、同時に標準化されている
ヒューマノイドの競争は、本体そのものだけでは決まりにくくなっています。動きを決めるソフトウェアや AI モデルと、実際に動きを支える関節や駆動部品の重要性が増しているからです。
Schaeffler が役割を広げようとしているのは、このうち関節側です。自社ブランドのヒューマノイド本体を前面に出すのではなく、複数メーカーの機体に使われるアクチュエータを供給することで、ヒューマノイドの実装を支える側に回っています。
本体メーカーに求められる差別化も、機体を作ることだけではなくなります。どのソフトウェアを使い、どの関節部品を組み込み、実際の工場で保守や更新まで含めて使い続けられる形にするかが重要になります。Schaeffler の動きは、その中で関節や駆動部品を担う会社の役割が大きくなっていることを示しています。
日本の工場と、日本のロボット産業にとっての論点
この変化は、海外企業だけの話ではありません。日本の工場と日本のロボット産業にも、いくつかの論点を投げかけています。
論点はおそらく 3 つあります。
第一に、日本のロボットメーカー、たとえば FANUC、安川電機、川崎重工業、不二越などは、ヒューマノイド本体の競争に正面から出ていません。これは、慎重に市場を見ている段階なのかもしれませんし、産業ロボットというすでに収益のある事業とのバランスを見ながらの判断なのかもしれません。ただ、ヒューマノイドの価値が本体だけで決まりにくくなるなら、無理に本体側へ出ていく必然性は、最初から強くないのかもしれません。
第二に、日本の関節と精密部品メーカー、たとえば HARMONIC DRIVE SYSTEMS、ナブテスコ、THK などは、ヒューマノイドの関節や駆動部品を支える領域で、Schaeffler と近い場所にいます。とくに HARMONIC DRIVE の波動歯車減速機は、ヒューマノイドや精密ロボットの関節で重要になりやすい部品です。Schaeffler がアクチュエータをまとめて提供する側に広がってきたとき、日本の部品メーカーにも、単体部品を供給するだけでよいのか、関節まわりの機能をまとめて担うのか、という判断が求められます。
第三に、日本の工場現場にとっての論点です。これから日本国内の工場でヒューマノイドの導入が始まるとき、どのブランドを選ぶか、という議論は、たぶん本質的な問いではなくなります。Schaeffler の工場網で起きているように、同じ会社の生産拠点群に複数ブランドの機体が並列で入る運用が、現実の選択肢になり得ます。むしろ問うべきは、自社のラインの工程ごとに、どの「頭脳」と「関節」の組み合わせが向くのか、という、層単位の設計の話になる可能性があります。
複数メーカーのヒューマノイドを同じ工場網で使う場合、難しくなるのは機体の選定だけではありません。故障対応、予備部品、操作教育、ソフトウェア更新、データ管理が、メーカーごとに分かれやすくなります。
そのため日本の工場では、どの機体を選ぶかだけでなく、更新後の動作確認、運用データの管理、停止時の責任分担まで含めて設計する必要があります。
まとめ
5 月 13 日の Schaeffler × Humanoid 契約は、単体で見ればサプライヤー契約の一つです。ただ、半年で 3 社 4 件の提携・供給契約が並ぶと、見え方は変わります。ヒューマノイドの競争軸は、本体そのものから、頭脳と関節という両端の層へ移り始めています。
日本の工場やロボット産業にとって重要なのは、動きを決めるソフトウェア、関節や駆動部品、現場への組み込み、運用データの管理を、誰がどこまで担うのかを決めることです。Schaeffler の動きは、その分担を考える必要性を示しています。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。この note では、工場 AI、ロボット、スマートファクトリーの動向を、経営、技術、現場実装の 3 つをつなぎながら整理しています。個別ニュースの紹介だけでなく、どの企業がどの入口から工場 DX に入り、どこで現場実装の難しさが出るのかまで追っています。今後もこのテーマを継続して読みたい方は、フォローしていただけるとうれしいです。
出典・参考リンク
Reuters|“Humanoid to deploy up to 2,000 robots at Schaeffler plants”|
https://www.reuters.com/business/humanoid-deploy-up-2000-robots-schaeffler-plants-2026-05-13/
Schaeffler Group|“Schaeffler and Humanoid enter strategic technology partnership”|
https://www.schaeffler.com/en/media/press-releases/press-releases-detail.jsp?id=88159744
Schaeffler Group|“Humanoid robotics: Schaeffler enters into strategic partnership with Hexagon Robotics”|
https://www.schaeffler.com/en/media/press-releases/press-releases-detail.jsp?id=88184987
Schaeffler Group|“Schaeffler and Neura Robotics launch future-oriented technology partnership”|
https://www.schaeffler.com/en/media/press-releases/press-releases-detail.jsp?id=88136515
Robotics Tomorrow|“Humanoid Secures Landmark Deal with Schaeffler to Deploy Thousands of Humanoid Robots”|
https://www.roboticstomorrow.com/news/2026/05/13/humanoid-secures-landmark-deal-with-schaeffler-to-deploy-thousands-of-humanoid-robots/26562/
The Robot Report|“Schaeffler to deploy hundreds of Humanoid robots in its factories”|
https://www.therobotreport.com/schaeffler-humanoid-partner-build-deploy-hundreds-robots/
Robotics and Automation News|“Humanoid and Schaeffler strike deal to deploy thousands of humanoid robots in factories”|
https://roboticsandautomationnews.com/2026/05/13/humanoid-secures-landmark-deal-to-deploy-thousands-of-humanoid-robots/101411/
TheHumanoid.ai|“Siemens and Humanoid Bring Physical AI to the Factory Floor”|
https://thehumanoid.ai/siemens-and-humanoid-bring-physical-ai-to-the-factory-floor-deploying-humanoids-in-industrial-operations-with-nvidia/
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