見出し画像

1000 台導入で見えてきた「関節の標準化」。Schaeffler が描く、ヒューマノイドの勝者を選ばない賭け方

2026 年 4 月 22 日、ハノーバーメッセでドイツの自動車・産業機器向け部品メーカー Schaeffler が、スイス・チューリッヒに本拠を置く Hexagon Robotics のヒューマノイドロボット「AEON」を少なくとも 1,000 台、自社のグローバル生産網に導入すると発表しました。

1,000 台という数字は大きいです。ヒューマノイドの工場導入が、展示会のデモから生産現場の計画に移り始めたことを示す数字でもあります。

ただ、今回の発表で私がより重要だと感じたのは、台数そのものではありません。Schaeffler が、ヒューマノイドを「使う側」であると同時に、ヒューマノイドの関節や駆動部品を「作る側」にも回っていることです。

ヒューマノイドの勝者は、まだ決まっていません。二足型が勝つのか、車輪型が先に広がるのか、用途ごとに分かれるのかも見えきっていません。ですが Schaeffler は、その勝者を一社に絞るのではなく、関節と駆動部品の層から複数の本体メーカーに入り込もうとしているように見えます。

1,000 台導入で見えた、関節側から入る戦略

Schaeffler が狙っているのは、勝ち残るヒューマノイド本体メーカーを見極めることではないと思います。複数の本体メーカーに対して、関節と駆動部品の層から入り、自社工場で使いながら量産に必要な知見を蓄積することにあると考えられます。

今回の Hexagon Robotics との提携は、その流れがかなり分かりやすく出た発表です。Schaeffler は AEON を自社工場に導入するだけでなく、その関節に使われる主要部品の供給にも関わります。

使う側と作る側を同時に担う

Schaeffler が AEON を自社工場で使う意味は、単に人手不足を補うことにとどまりません。

実際の工程で関節にどのくらい負荷がかかるのか、どの動作で精度や耐久性が問われるのか、どこで保全の課題が出るのかを、自社の生産現場で確かめられます。その知見は、同社が供給するロータリーアクチュエータの設計や量産にもフィードバックできます。

つまり Schaeffler は、ヒューマノイドを使いながら、ヒューマノイドを動かす部品の完成度も高められる立場にいます。ここに、ユーザーであり部品サプライヤーでもあることの強みがあります。

アクチュエータとは、電気などのエネルギーを実際の動きに変える部品です。ヒューマノイドでいえば、肩、肘、腕、脚などを動かす関節の中核にあたります。人間でいう筋肉と関節を合わせたような役割と考えると、イメージしやすいかもしれません。

今回 Schaeffler が供給するのは、波動歯車式アクチュエータ(strain wave gear actuator)と遊星歯車式アクチュエータ(planetary gear actuator)の 2 種類です。波動歯車式は、高精度でバックラッシュを小さくしやすい駆動方式です。バックラッシュとは、歯車のすき間によって生じる動きのズレのことです。一方、遊星歯車式は、高いトルクを出しやすく、外から力を受けたときに動きを逃がしやすい特徴があります。人と一緒に働くロボットでは、外力を受けたときに硬く抵抗しすぎないことも安全面で重要になります。

この 2 種類を用途に応じて使い分けることで、ヒューマノイドの関節に必要な精度、力、なめらかさ、安全性を満たそうとしています。Schaeffler は、その関節まわりを単品部品ではなく、モーター、エンコーダ(関節やモーターの位置を測るセンサー)、電力制御、歯車を統合したアクチュエータ・プラットフォームとして提供しようとしています。

複数社提携で広げる、関節・駆動部品の供給網

Schaeffler の動きは、Hexagon Robotics だけを見ると分かりにくいですが、少し視野を広げると、その狙いが見えやすくなります。

同社はすでに、他の複数のヒューマノイド企業とも提携しています。

2025 年 11 月には、ドイツのロボット企業 Neura Robotics と、ヒューマノイド向け主要部品の開発・供給と自社工場への導入で提携しました。2026 年 1 月には、英国のロボット企業 Humanoid と、アクチュエータ供給に加え、Humanoid のヒューマノイドロボットを今後 5 年間で数百台規模、自社のグローバル生産網に導入する提携を発表しています。

さらに 2026 年 3 月には、中国の Leju Robotics と提携し、工場検査、設備操作支援、物流、人協働といった産業用途で、ヒューマノイドロボットを実際の生産現場に適用していく方針を示しました。同じ時期に Schaeffler は、中国・太倉に「Schaeffler Humanoids(Taicang)Co., Ltd.」というヒューマノイド専業の独立子会社も設立しています。

そして 2026 年 4 月 22 日には、Hexagon Robotics に加え、ベトナム Vingroup 傘下の VinDynamics との戦略提携も発表しています。VinDynamics との提携では、ヒューマノイド向け遊星歯車の開発・供給に加え、アクチュエータ最適化、状態監視、予知保全に向けたデータ活用を進めるとされています。中国の Leju Robotics に続き、Schaeffler がアジア側でもヒューマノイド関連の提携網を広げていることが分かります。

並べると、Schaeffler は特定のヒューマノイド本体メーカーに一点張りしていません。欧州、英国、中国、アジア側の複数のプレーヤーと関係を作っています。

ここで重要なのは、提携先の数そのものではありません。Schaeffler が、それぞれの提携で単なる部品供給にとどまらず、自社工場への導入、共同開発、量産化、データ活用まで含めて関わっていることです。

同社は「どのヒューマノイド本体が勝つか」を見極めに行っているのではなく、ヒューマノイドが工場に入っていく流れそのものに賭け、その中で関節と駆動部品の供給者になろうとしているように見えます。

本体の形が変わっても、関節は必要です。二足型でも、車輪型でも、腕を動かし、肩を回し、肘を曲げる以上、精密な駆動部品は欠かせません。Schaeffler は、そこに自社の勝ち筋を置いているように見えます。


関節は、ヒューマノイドの原価と性能を左右する

Schaeffler が関節に力を入れる理由は、技術的にも分かりやすいです。

Schaeffler は、ヒューマノイド向けの高集積アクチュエータ・プラットフォームで、ハノーバーメッセ 2026 の Hermes Award を受賞しました。Hermes Award は、ドイツメッセが主催する産業技術分野の賞です。

同社の発表では、アクチュエータはヒューマノイドの総コストの約 50% を占めると説明されています。つまり、関節まわりはヒューマノイドの価格、性能、量産性を大きく左右する部位です。

ロボット本体の AI が賢くなっても、関節が高すぎれば量産できません。関節の耐久性が弱ければ、工場の連続稼働には耐えられません。精度が足りなければ、部品を持つ、差し込む、検査位置に合わせるといった作業が安定しません。

工場で使うロボットは、1 回だけ動けばよいわけではありません。何千回、何万回と同じ動きを繰り返し、熱、粉じん、振動、設備停止リスクのある環境で使われます。そこで必要になるのは、デモ映えする動きではなく、量産品質で作れる関節です。

Schaeffler は、自動車や産業機械向け部品で長く培ってきた量産、品質、供給網の力を、この関節レイヤーに持ち込もうとしています。これは、ヒューマノイド本体メーカーとは違う戦い方です。Schaeffler は 2026 年内に、ヒューマノイド向けアクチュエータ部品の量産を開始すると公表しています。


砂時計の下端を押さえにいく動き


以前、製造業のソフトウェアと自動化の利益構造が「砂時計型」になりつつあるという Bain の分析を紹介しました。砂時計の上端は AI や基本ソフトウェアの層、下端は標準化された部品層、中央は薄くなる、という構図です。

ヒューマノイドの話になると、どうしても上端に目が向きがちです。AI モデル、ロボットの頭脳、シミュレーション、言語指示、ロボット基盤モデル。どれも重要です。

ただ、Schaeffler の動きを見ると、下端の争いも同じくらい重要になっています。

ヒューマノイド本体メーカーが何社に分かれても、関節と駆動部品が共通化されていくなら、価値はそこにも集まります。本体メーカーがロボットのブランドを持ち、AI 企業が知能を持つ。その裏側で、実際に動く関節を押さえる企業が、産業構造の中で強い立場を占める可能性があります。

Schaeffler は、部品サプライヤーとして関節を供給するだけでなく、量産化や保全まで含めた領域に入り込もうとしています。ヒューマノイドが工場で安定して使われるための条件を、関節と駆動部品の側から押さえようとしているように見えます。

日本の精密駆動部品メーカーにも関係する

この動きは、日本の製造業にとっても対岸の話ではありません。

ロボットの関節や直線運動を支える精密部品の分野では、日本企業も長く強みを持ってきました。たとえば、ハーモニック・ドライブ・システムズは、ロボット関節などに使われる波動歯車装置に強い企業です。THK は、機械の直線運動を滑らかに支える直動案内やボールねじなどに強みを持つ企業です。波動歯車、直動部品、ガイド、ねじ、軸受といった要素は、日本の機械産業が積み上げてきた強い領域です。

ヒューマノイドが量産フェーズに入ると、この領域の意味が変わります。産業用ロボットや半導体製造装置向けの精密部品だけでなく、人型ロボットの関節、腕、手首、指、腰、脚に向けた量産部品の市場が立ち上がる可能性があります。

そのとき、競争軸は「良い部品を作れるか」だけでは足りなくなります。どの本体メーカーと組むか。どの地域で実証データを取るか。関節だけを売るのか、アクチュエータ・モジュールとして売るのか。保全、診断、予知保全まで含めてサービスにするのか。

Schaeffler は、この組み合わせをかなり早い段階から取りに来ています。しかも、自社工場を実証の場として使いながら、本体メーカーとの関係を広げている。日本企業が同じ土俵で戦うなら、部品単体の精度だけでなく、量産、データ、保全、ロボットメーカーとの共同開発まで含めた設計が必要になっていく気がしています。

勝者を選ばない賭け方

ヒューマノイドのニュースを追っていると、つい「どの本体メーカーが勝つか」に関心が向かいます。Figure AI なのか、Agility Robotics なのか、Tesla なのか、Neura なのか、Hexagon なのか。そこは当然気になります。

ただ、Schaeffler の今回の動きは、その見方だけでは捉えにくいものです。

これは、勝ち残る本体メーカーを見極めるというより、どの本体メーカーが伸びても関節と駆動部品の層で関われる位置を取りにいくものだと考えられます。

ヒューマノイドの勝者が決まる前に、誰の関節を経由するかが決まり始めている。今回の 1,000 台という数字が重要なのは、そのためです。

工場でヒューマノイドが定着するかどうかは、派手なデモだけでは決まりません。どれだけ安く、壊れにくく、安定して動き、保全できるかで決まります。その条件を支えるのが、関節と駆動部品です。

Schaeffler は、ヒューマノイドの頭脳ではなく、動きの土台を押さえに行っています。ハノーバーメッセ 2026 では、ロボット本体の競争に加えて、関節、駆動部品、量産、保全まで含めた、ヒューマノイド産業の下側の競争も見えてきました。


このテーマに近い記事

・Schaeffler はヒューマノイド版 Tier 1 になれるか。見えてきた「使う側と作る側」戦略

・ヒューマノイドはどこまで工場に入れたのか― BMWとトヨタで見えた、2026年の実装の境界線

・工場の中心は残る。でも、いちばん儲かる場所は変わり始めた


ご相談について

製造業向け AI 導入前の論点整理、AI ベンダーに相談する前の整理、社内勉強会・壁打ち等のご相談を、個人活動としてお受けしています。詳細は自己紹介記事をご覧ください。

X をお使いの方は、DM でもお受けしています。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この note では、工場 AI、ロボット、スマートファクトリーの動向を、経営、技術、現場実装の 3 つをつなぎながら整理しています。

個別ニュースの紹介だけでなく、どの企業がどの入口から工場 DX に入り、どこで現場実装の難しさが出るのかまで追っています。

今後もこのテーマを継続して読みたい方は、フォローしていただけるとうれしいです。


出典・参考リンク

Schaeffler Group|“Humanoid robotics: Schaeffler enters into strategic partnership with Hexagon Robotics”|
https://www.schaeffler.com/en/media/press-releases/press-releases-detail.jsp?id=88184987

Schaeffler Group|“Humanoid robotics: Schaeffler wins Hermes Award for innovative actuator platform”|
https://www.schaeffler.com/en/media/press-releases/press-releases-detail.jsp?id=88184513

Schaeffler Group|“Schaeffler partners with Vietnamese humanoid robot manufacturer VinDynamics”|
https://www.schaeffler.com/en/media/press-releases/press-releases-detail.jsp?id=88184966

Schaeffler Group|“Schaeffler and Humanoid enter strategic technology partnership”|
https://www.schaeffler.com/en/media/press-releases/press-releases-detail.jsp?id=88159744

Schaeffler Group|“Humanoid robotics: Schaeffler expands global partner network and cooperates with Leju Robotics in China”|
https://www.schaeffler.com/en/media/press-releases/press-releases-detail.jsp?id=88174976

Schaeffler Group|“Schaeffler and Neura Robotics launch future-oriented technology partnership”|
https://www.schaeffler.com/en/media/press-releases/press-releases-detail.jsp?id=88136515

BMW Group|“BMW Group to deploy humanoid robots in production in Germany for the first time”|
https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0455864EN/bmw-group-to-deploy-humanoid-robots-in-production-in-germany-for-the-first-time

Hexagon Robotics|“AEON Product”|
https://robotics.hexagon.com/product/

Hexagon|“Hexagon launches AEON, a humanoid built for industry”|
https://hexagon.com/company/newsroom/press-releases/2025/hexagon-launches-aeon-a-humanoid-built-for-industry

NVIDIA Blog|“NVIDIA and Partners Showcase the Future of AI-Driven Manufacturing at Hannover Messe 2026”|
https://blogs.nvidia.com/blog/ai-manufacturing-hannover-messe/

いいなと思ったら応援しよう!