LOVE PHANTOM Ⅻ【ホラー恋愛連続小説】完
恭介の思考はついに停止した。
ご当地アイドルなら聞いたこともあるが
地縛霊アイドルだって?
いい加減、バカバカしくなってきた。
もし隆史が本当に「霊のアイドルの追っかけ」なんて狂った趣味に目覚めてしまったら、今度こそ本当に隆史は、あの世まで「追っかけ」するハメになるだろう。
(……だが、今はこれでいい)
理由はどうあれ、この場を乗り切れるなら儲けものだ。一旦ここから逃げ出してから、対策を練ればいい。
骨はカラカラと不気味に笑い、満足そうに口を開いた。
「よーし、決まりだ。柿ピーに会わせると約束しよう。
とはいえ、さすがに坊やたちも、今夜は疲れたろ? 柿田ピーに、会う前に死んじゃうなんて冗談じゃねえよな?
今夜はこれで消えてやるよ。霊化とじっくりお別れでもするんだな。じゃあな。」
骨オタクの周りを暗闇が包み始めた。
恭介は安堵した。
ついに、長かった夜が終わるのか。
一瞬、このまま一晩で『3体目の霊』と遭遇するハメになるのかと、文字通り冷や冷やしたがなんとか助かった。
これ以上異常な事態に巻き込まれたら、俺も無事じゃ済まないだろう。
恭介は今度は気が抜けて、またもその場に座り込んだ。
その時だった。
ここまで静観し、まるで背景の一部のように沈黙を守っていた霊化が、ゆっくりと口を開いた。急激に、存在感が増していく。
「……なんですって?」
その声は冷たく、そして鋭く、部屋にいた全員の鼓膜をハッキリと揺らした。
どういうことだ? 1人にしか聞こえないはずの彼女の声が、なぜ今になって――。
暗闇に溶けかけていた骨オタクさえも再び姿を現し、きょとんとした様子で霊化を見つめた。
「隆史くん…そんなの…絶対に許さないわ!」
霊化の瞳に、凄まじい業火が宿っていた。
恭介は力なく霊化を見上げた。今度はなんだよ…寒気もポルターガイストも、もう勘弁してくれ。
霊化はまるで人が、いや霊が違ったかのような迫力で言った。
「隆史くん、私と別れるっていうのね?」
「れ、霊化ちゃん…いや、違うんだ。この場合は近くの恋人より遠くのアイドルを選んだというか…」
「なんだよその例え!そのままじゃないか!」
しかし、隆史と恭介の言葉など聞こえないかのように霊化は続けた。
「私たちが別れるとして、あんたが私をあきらめるのはいいわ。あんたが私を高嶺の花だと諦めて引き下がるのは理解できる!
でもね! そんなどこの霊の骨ともわからない『地縛霊アイドル』なんかとアタシを比べて、アタシを振るなんて絶対に許さないわよ!!!」
恭介は唖然とした。これが霊化の本性だったのか。恋愛において、振ったり振られたりはよくあるだろう。
しかし、この霊化は、その理由にこだわっている。誰かに比べられて、振られることに納得がいかないのだ。隆史への気持ちも嫉妬もない。
ただ、負けるのが嫌なのだ。この彼氏にしてこの彼女あり、といったところか。
そんな激昂する元カノを見て、骨は感心したように言い放った。
「さすがは霊化。元・新進気鋭の女優。
競争心とプライドの高さは並じゃないな……くぅ~!惚れ直したぜ!霊化!」
何言ってんだこの骨野郎。いや、そんなことより隆史は大丈夫か?傷ついてないか?
心配して隆史を見ると震える声で隆史は言った。
「霊化ちゃん…
そこまで俺のことを!
…愛してるよ!」
「話が終わらねぇぇぇぇぇ!!!」
隆史の告白は恭介の絶叫にかき消された。
(おわり完)
