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第3話:「分からない」と言えたとき

「どう思ってるん?」
そう聞かれて、
少し間が空いたあと、
思ってもいなかった言葉が出た。
「……分からへん」
自分でも意外やった。
何かしら、
それっぽい答えを用意していると
思っていたから。
考えていなかったわけじゃない。

むしろ、
考えすぎるほど考えていた。
でも、そのどれもが
今の自分の実感とは
少しずつずれていて、
口に出す気にはなれなかった。
「分からない」は、
逃げの言葉やと思っていた。
ちゃんと考えていないときに
使う言葉。
判断を先延ばしにするときの
便利な表現。

そう思っていたから、
できるだけ使わないように
してきた気がする。

それでも、
あのとき出てきた「分からない」は、
今までのそれとは
少し違っていた。
何も考えていないから
分からないのではなくて、
考えた末に、
まだ形になっていなかった。
言葉にするには、
早すぎた。

でも、
黙ったままでいるのも、
少し違う気がした。
だから、
「分からない」と言った。
それは、
説明を放棄した言葉ではなくて、
今の自分の位置を
正直に示しただけやった。

相手は、
少しだけ驚いた顔をして、
それ以上、
問いを重ねてこなかった。
その沈黙が、
ありがたかった。
「分からない」と言えたことで、
自分の中の何かが
少しだけ緩んだ気がした。
ちゃんと分かってから
話さなくてもいい。
整理できてから
言葉にしなくてもいい。
そう思えたこと自体が、
ひとつの前進やったのかもしれない。

この連載では、
はっきり言えることより、
こういう
「まだ途中の声」を
大事にしたいと思っている。
分からないまま、
立っている場所。
そこからしか
生まれない言葉も、
きっとある。



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