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第2話:言葉にしなかった夜のこと

あの夜、
言葉にしようと思えば、できた気もする。
頭の中では、
それなりに整った文章が浮かんでいたし、
相手に伝えるための言い回しも
いくつか候補があった。

でも、
それを口に出す直前で、
ふと立ち止まってしまった。
「今、言うことやろか」
そう自分に問いかけたとき、
胸の奥に、
ほんのわずかな引っかかりが残った。
言葉が間違っているわけじゃない。

むしろ、
“正しい”部類の言葉やったと思う。
それでも、
その夜の自分には、
少しだけ硬すぎた。
沈黙が流れた。
気まずさ、と言えば
そう見えたかもしれない。

けれど、
その沈黙の中で、
自分の内側は案外、静かやった。
無理に言葉を出さなくても、
何かが壊れていく感じはしなかった。
むしろ、
守られている感覚のほうが近かった。
あとから振り返ると、
あの夜に言葉を選ばなかったことは、
逃げでも、
諦めでもなかったと思っている。
「まだやな」
そう判断しただけやった。

言葉には、
タイミングがある。
早すぎると、
相手に届かないだけやなく、
自分の中でも
居場所を失ってしまう。
あの夜、
言葉は外に出なかったけれど、
消えたわけではなかった。
むしろ、
内側に残ったまま、
少し形を変えながら、
静かに居続けていた。
言葉にしなかった夜は、
何も生まなかった夜ではない。

ただ、
外に出さなかっただけで、
内側では、
ちゃんと時間が流れていた。
この連載では、
そういう夜のことも、
置いていきたいと思っている。
語らなかった時間。
言葉にしなかった選択。
それらがあったからこそ、
今もまだ、
言葉が“生きたまま”
残っている気がするから。


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