テクニトーンの恩恵
前回の記事で、Twitterは音楽だらけになって楽しかった。でも、思い出話だと読む方はつまんないでしょ? 「ええーっ、そうだったのか」的なことだけまとめてみますね。
電子オルガン前夜
もともとは人並み程度にクラシックをやっていて、童謡弾いたり「みんなのうた」弾いたりのほうが好き――というところに、冨田勲ショックがやってきたわけだ。
もちろん聞く専で、ただ近代音楽のエッセンスや音の異様な(ほめてます)使い方がほんとうにショックで、弾く方もジャズに行ってしまった。
テンションコード(ちょっと不協和音的な音が入る複雑な和音)が好きなんです。
楽器のほうとしては、ヤマハの名器 DX7 が流行し、いやいやでも難波弘之さんが使ってるから KORG もいいな、などと思いつつ、手は出しませんでした。
だって、波形が判んないんだもん。いきあたりばったりでいろいろ触ってみるのが好きなタイプは楽しかったでしょうが、私はとてもとても慎重で、取説全部読んで全部理解して使いたいという面倒臭い性格。
波形、組み合わせ、効果、などなど、音の作り方が星の数ほどあると、どれからどうしたらいいのか怖くなってしまう。
ニンテンドーDSがKORGのソフトを出した時に、買った人から相談を受けたことがあるんだけど、「すみません。ぜんぜん判ってません」と丁重にお断りした悔しさは忘れない。
あのときちゃんと勉強していたら、いま、DTM(デスクトップミュージック)で音を作る役にも立ったのになあ。老後の楽しみにするか……。
テクニトーン
エレクトーンはヤマハ。テクニトーンというのは今はなきナショナル電子オルガン事業部の製品です。テクニクスだからテクニトーンね。
他にもカワイのドリマトーン、ビクターのビクトロン、老舗すぎて一緒に括るのは申し訳ないハモンドのハモンドオルガンなどございました。
私はテクニトーンの講師だったわけですが、なぜそのメーカーかというと、友達に誘われたから。おそろしいことに半年で講師資格が得られるというオーディションがあり、たまたま受かってしまった。
電子オルガンというのは脚鍵盤や右膝なども使うので、かなり特殊な身体能力が必要。しかもピアノと違って減衰しない持続音。これが最初は怖かった。押してるあいだずーっと音が鳴っているってことに慣れなくて。
異文化をたった半年で先生クラスにもっていくなんて、無茶もいいところだと今では思うのですが、たぶん、勢力絶大だったヤマハに対抗するためにはこれくらいしないと人が集まらなかったのではなかろうかと。
で、プリンスやらマイケルジャクソンやら好きだった気の若い私の母親がポンと買ってくれたのが、この最新機。SX-U90 。
あれっ、と思った人、いませんでしょうか。
そうなんです。ハモンドのレスリースピーカー的効果がかかるんです! あと、実在楽器音のよさ、お判りでしょうか。当時ヤマハはFM音源だったのですが、テクニトーンはPCM音源。生音を立体波形として保存し、再生するといういかにも電気屋さんらしい音作りだったんです。
ただ、当時のこと。シーケンサー(メロディのメモリのようなもの)はなく、バッキングやウォーキングベースのためのコードも、いっこいっこ手打ちで入力。間違えたら最初からやり直し。なんせモニタ画面もない。
それでも楽しかった。もう十時間ぶっつづけで弾いたりしてた。とにかく音がよかった。楽器屋さんの店先などでしきりにデモ演奏している他社の音を鼻先で笑ってしまうくらい、音色が自慢だった。
これまでバンドを組むこともなく孤独に音楽をやっていた私が、自分で、自分の好きなように、ドラムやベースと一緒に弾ける。
これぞ究極の独り遊びです。
この楽器がいかに開発されたかは、入手困難ですがとっても興味深い書籍になっています。プロジェクトXが好きだった人は、ぜひ読んでみてください。
U90 、G7 時代の恩恵
バブル期だったので、こんな大きなオルガンがバンバン売れた。それはどこのメーカーも同じ。
そして、ピアノと違って機種変更が頻繁にある。しかも講師資格を更新しようとすると、その時の最新機種でオーディションを受けなければならない。度胸も技術もある人は、楽器店の時間貸しで練習すればいいだろうけど、普通は買い換えということに。
なので、U90 の次は SX-G7 に乗り替えました。
ちょうどソノラマ文庫版『ゆらぎの森のシエラ』を出した頃。あとがきにもこの機種が出てきます。
私の記憶では、前回のKBS曲を作ったのもこの機種でした。音、同じでしょ?
電子オルガンをやってよかったと思うのは、コード進行やアレンジを勉強しなければならなかったことです。
クラシックは基本的に楽譜通り弾くので、それまでコード進行は気にしませんでした。テンションコードってなにをぶらさげてんの? イチロクニーゴーっておいしいの? ダブルドミナントはお得なセット? てな感じ。
けれど、電子オルガンは、コード譜のみでいきなり弾くのは当たり前なので、コードの知識とアレンジ能力がなければ使えない。
講師ともなると、生徒の技術に合わせてアレンジを変えてやらないといけないのでさらなり。
私は小学生時代に金澤礼子先生という、日本でも最初期にリトミックを取り入れた方が担任だったため、授業中に早くも作曲やリトミックをやっていました。このご縁、とっても大事。どうしてらっしゃるかなあ。まだお元気だといいなあ。
それでも、半年でセンセーという速成コースで講師になっちゃった私は、とても困難な目に遭いました。
それがよかった。
この時代に苦労していなければ、音楽はもっと遠い世界になっていたと思います。
不満だったこと
テクニトーンは、いいことばかりではありませんでした。
まず、養成力が弱かった。
ヤマハだと、大量の学習講座や合歓の郷の合宿などで理論を培えますが、テクニクスは(当時はもうハモンドと提携していたとはいえ)、講座も少なく、自力で勉強するしかなかった。
電子楽器らしく、レジストレーションと呼ばれる、音色やドラムパートの設定をフロッピーで売る時代にだんだんなってきたのですが、これも市場弱者にとっては数が足りない。ガリバーであるヤマハが出している豊富なデータをとても羨ましく思っていました。
楽譜はどの楽器でも弾けるけど、データは対応機種しか使えないもんね。
そして自慢だったPCM音が、G7 ではちょっとFM寄りになった気がしました。
これはどうやら「生音すぎてセッションに向かない」という意見もあったそうで。
私はそれらしい音が好きだったので、とても残念でした。
この原稿を書くためにいろいろと調べ直したけれど、演奏動画はほとんどがハモンド代替機のように使ってますね。バンドやオーケストラ系音源で壮大な演奏を、というよりは、オルガンはオルガンらしく、という使い方をされているようです。
まだ未練はあるけれど
F1のテーマ(電子オルガンで弾きやすい音とアレンジ)がどこの街角でも流れていた時代が過ぎると、テクニトーンにも影が射してきました。
まず、ビクターと合併してVTMという名前に変わった。
講師だけでなく生徒も全員、レッスン用テキスト総入れ替え。
機種変更はせずにそれぞれのメーカーのを持っていてよかったけれど、さして何かメリットがあったわけではありません。
新しいシステムで講師免許の更新をする時期になってしまい、そろそろ両脚で足鍵盤を弾く(パイプオルガン演奏を参照してください)経験が必要になってきました。
すでにブライダルプレイヤーもやっていたので、まだまだ音楽はやると思って、清水の舞台から飛び降りて掴んだのが、この機種。SX-FN3K。
これ、すげーんですぜ? なんせ、
cocom(対共産圏輸出統制)マーク
がついてた! 楽器なのに!
すでにG7でも身体能力の限界に挑むような演奏状況でした。
左脚……脚鍵盤演奏 フットスイッチ
右脚……音量調節 サステインなどの操作(膝) フットスイッチ(左右)
曲が難しく表現力も求められるようになり、脚鍵盤は爪先だけではなく踵まで使うようになっていました。音楽的にいうと、これまで使っていた爪先はアウフタクトや刻みに使い、アクセントのある音は踵でガンと踏むように、というわけ。
その上に、右脚を音量ペダルから離して脚鍵盤操作にも使う……。無理。無理ゲー。
これはちょっと、と、思いながら受けたオーディションは、実技が1点差で受かり、なんと筆記が1点差で落ちるという予想外の結果でした。
いや、難しかったんだよ、筆記。聞き取りなんか、訓練してないと無理。
かしゅーん、と気を落とした私は、なんとなくオルガンから離れてしまいました。
清水の舞台から落ち損。
あとから担当楽器店に「相談してくれればなんとかリカバリー対策したのに」と言われたけど、あとの祭です。
受け直しさせてもらったとしても、私の能力はギリギリで受かるくらいでしかなく、それ以上の高みを目指すなら、本腰を入れて音楽にどっぷり浸からないといけないということで。
もう小説家デビューもしていたので、二足のわらじは難しいと判断したのです。
本当は、まだオルガンやりたい。
今はローランドと一緒になってアトリエという機種だそうですが、一度くらいは触ってみたい。
ヤマハも音がよくなっている(私的には)ので、エレクトーンでもいい。
真夜中にヘッドホンかけて、好きにリズム組んで、難しいテンションコードの響きに酔いしれて、だらんとしたいいメロディを身体揺らしながら弾いて、またはキビキビッと入る左手のバッキングに自己満足し、脚鍵盤を踏み鳴らし、そんでもってついでにマシンを使いこなすという征服欲も満たし――そんなことを、またやってみたい。
結論。お金と時間がほしいです。
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