59歳の自分から、社会人1年目の君へ伝えたいこと
社会人1年目の自分へ。
あの日、現場で立ったまま少しだけ視界が揺れたな。
あのときの君は、限界に近かった。
それでも顔には出さず、
何事もないように仕事を続けようとしていた。
あの頃、仕事ができなかったのは事実だ。
でも、その「できなさ」が、あとで一番の武器になる。
図面の前で、手が止まっていたな。
線を引いては消して、
「これでいいのか」と何度も迷っていた。
正解を出そうとして、動けなくなっていた。
でもな。
建築の仕事に、最初から正しい答えなんてない。
あるのは、
出して、直して、また出すことだ。
あの現場の朝のことも、覚えている。
コンクリートの匂いと、湿った空気。
メジャーを持つ手に、少しだけ力が入らなかった。
開口の寸法を測る。
図面通りのはずなのに、合わない。
もう一度測る。
やっぱり合わない。
そのとき、後ろから声がした。
「どうした?」
振り返ると、現場監督が立っていた。
監督は何も言わずにメジャーを取り、
同じ場所を測り直した。
そして、静かに言った。
「これ、基準からズレてるな」
その一言で、全部わかっただろう。
自分の測り方じゃない。
自分の“見ている場所”が間違っていた。
あの瞬間、頭が真っ白になった。
言い訳もできず、
ただ立ち尽くすしかなかった。
でもな。
あの一件が、すべてを変えた。
それまでの君は、「測ること」が仕事だと思っていた。
あの日からは、「何を基準にするか」を考えるようになった。
失敗は、消えない。
でもな。
消えないからこそ、残る。
君はこのあと、遠回りをする。
思うようにいかない時間を過ごし、
建築から離れることもある。
でも59歳になって、もう一度学び直すことになる。
そのとき、気づく。
昔わからなかったことが、
驚くほど理解できるようになっている。
なぜか?
遠回りした分だけ、見る力がついたからだ。
若い頃は、「正しくやること」が正しいと思っていた。
でも違った。
本当に大事なのは、“何を基準にするか”だった。
だから今の君に言う。
頑張りすぎるな。
あの日、倒れかけたのは、
努力が足りなかったからじゃない。
力を抜くことを、知らなかったからだ。
君はもう、十分やっている。
最後にひとつだけ。
あの頃の君は、確かに未熟だった。
でも、逃げなかった。
それだけでいい。
安心して進め。
その失敗は、
ちゃんと未来の力になっている。
59歳の今、ようやく分かる。
あの日、立っていられたこと自体が、もう前に進んでいた証拠だった。
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