決算発表直前に1株ずつ買った ヒートフレーション時代の「熱い」ペロブスカイト株
最高気温35度の日、私はスーパー銭湯へ仕事をしに行きました。
自宅で昼食を済ませ、午後1時に出発。最初に風呂で眠気を飛ばし、メールを返し、集中力が上がったところでインタビュー原稿に取りかかりました。
館内にいたのは約6時間。そのうち約5時間を仕事に使いました。
最も暑い時間帯を冷房の効いた館内で過ごし、仕事を終えた時には風呂も済んでいる。
スーパー銭湯は、酷暑の午後を乗り切る仕事場として成立しました。
しかし、猛暑が変えるのは、働く場所だけではありません。
農作物の収量が減れば、野菜や果物の価格が上がります。冷房を使う時間が増えれば、電気代がかさみます。食品を冷蔵し、輸送するためにも、より多くのエネルギーが必要になります。
暑さを意味する「ヒート」と、物価上昇を意味する「インフレーション」を組み合わせた言葉が、「ヒートフレーション」です。
日本ではまだ耳慣れません。
しかし、これからは夏になるたびに意識する言葉になるかもしれません。
ヒートフレーションは一時的なのか
猛暑による値上がりは、今年だけの特殊事情なのでしょうか。
2024年に科学誌『Communications Earth & Environment』へ掲載された研究では、世界各地の2万7000件を超える月次物価データを分析し、気温上昇が食料品だけでなく、物価全体を押し上げる傾向を確認しています。その影響は一時的なものではなく、最長で12か月ほど続くとしています。
研究によれば、2035年までに予想される気温上昇によって、世界の年間食料インフレ率が0.92~3.23ポイント、物価全体では0.32~1.18ポイント押し上げられる可能性があります。幅のある推計ですが、暑さが物価を動かす要因になることを示しています。(Nature)
毎年、同じ食品が同じように値上がりするわけではありません。
ある年は野菜。
ある年は米や果物。
別の年はコーヒーやカカオかもしれません。
それでも、猛暑や干ばつが繰り返されれば、暑さによる値上がりは「異常事態」ではなくなります。
ヒートフレーションが常態化する。
そんな未来を前提に、これから必要になる企業を考えてみました。
空調株は高かった
最初に思い浮かんだのは、エアコン大手のダイキン工業です。
気温が上がれば、冷房需要は増えます。
欧州では、室外機の小型化や静音化が進めば、さらに市場を広げられるかもしれません。
ただ、ダイキンは良い会社であることを、多くの投資家が知っています。
株価には成長期待が乗り、配当利回りも私が求める水準ではありませんでした。
空調設備やメンテナンスを手がける会社も調べましたが、今すぐ飛びつきたいと思えるほどの割安感はありません。
そこで、エアコンを作る会社から、空調管理、エアコンを動かすエネルギーへ視線を移しました。
その先で行き着いたのが、ペロブスカイト太陽電池です。
「太陽電池」ですが、電気はためません
ペロブスカイト太陽電池は、簡単に言えば、次世代の太陽光発電技術です。
「電池」という名前が紛らわしいのですが、電気をためる蓄電池ではありません。
光を受けて電気をつくる発電装置です。
発電した電気を夜間や停電時に使うには、別に蓄電池が必要です。積水化学が大阪本社で行った実証でも、ペロブスカイト太陽電池に蓄電池ユニットとパワーコンディショナーを追加し、発電した電気を館内で使う仕組みにしています。(セキスイ)
現在、住宅や工場の屋根でよく見かける太陽光パネルの多くは、シリコンを材料にしています。
「単結晶型」「多結晶型」という呼び方は、そのシリコン結晶の構造や作り方の違いです。
一方、ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト型と呼ばれる結晶構造を持つ材料を、光を電気に変える発電層に使います。従来のシリコン型とは、材料の系統が違うのです。(エネルギー庁)
ペロブスカイト太陽電池にはガラス型などもありますが、今回注目したのはフィルム型です。
フィルム型は薄く、抜群に軽く、曲げることができます。
従来のシリコン型パネルは、ガラスやアルミ枠を含む硬い板状の設備です。重量があるため、建物の強度によっては屋根へ載せられません。壁や曲面への設置にも制約があります。
軽いフィルム型なら、耐荷重の小さい工場や倉庫の屋根、ビルの外壁、バルコニー、曲面など、これまで設置が難しかった場所にも太陽光発電を広げられる可能性があります。(エネルギー庁)
ここが最大の利点です。
発電効率の競争だけではありません。
太陽光発電を置ける面積そのものを増やせるのです。
日当たりがよく、十分な強度がある屋根には、実績のあるシリコン型。
軽い屋根や壁、曲面にはフィルム型。
窓には光を通すタイプ。
すべてを一つの方式へ置き換えるのではなく、建物や設置場所によって使い分けられていくのでしょう。
私はいずれ、ほとんどの建物が、屋根、壁、窓のどこかに発電機能を持つようになるのではないかと思っています。
ペロブスカイトは、太陽光パネルを置き換えるだけの技術ではありません。
これまで発電に使えなかった場所を、新しい市場に変える技術なのです。
100万キロワット規模の産業へ
政府は、2030年までの早い時期に、ペロブスカイト太陽電池のGW級の生産体制を整え、2040年までに国内へ約20GWを導入する目標を掲げています。(エネルギー庁)
GWは「ギガワット」と読みます。
1GWは100万kWです。
ここでいう数字は、家庭や建物が一年間に使う電力量ではなく、製造・設置される太陽電池の最大出力を合計した規模を表します。
ただし、国が目標を掲げたからといって、必ず普及するわけではありません。
発電効率。
雨や風に耐える耐久性。
量産コスト。
施工方法。
防火や安全基準。
交換やリサイクルの仕組み。
研究室で発電できることと、建材として長期間使えることは別です。耐久性、大型化、量産技術の確立は、社会実装に向けた大きな課題として残っています。(エネルギー庁)
そこで私は、すでに量産へ踏み出した会社と、実証を重ねている会社を1社ずつ追うことにしました。
積水化学は「夢から事業へ」
一つ目は、積水化学工業〈4204〉です。
同社は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を「SOLAFIL」と名付け、テレビCMでもアピールしています。(セキスイ)
2026年3月には事業開始を発表し、自治体や事業者への供給に向けた具体的な協議を始めました。
2026年度は既存設備による限定生産ですが、2027年度には10万kW、つまり100MW規模の生産ラインを立ち上げる計画です。2030年度には100万kW、1GW級への拡大を目指しています。(セキスイ)
まだ大きな利益を生んでいる事業ではありません。
しかし、「発電できるか」を研究する段階から、「どう作り、どこへ売るか」を考える段階へ進みました。
積水化学はペロブスカイト専業ではありません。
住宅、配管材、高機能プラスチック、医療など、複数の事業を持っています。
新事業が成長するまで、既存事業の利益と配当を受け取りながら待てる。
ペロブスカイトを追う本命として、まず1株持ってみたいと考えました。
アイシンは割安株に付いた成長オプション
二つ目は、アイシン〈7259〉です。
自動車部品大手なので、現時点でペロブスカイト事業が業績の中心になるわけではありません。
一方で、同社は1998年に有機系太陽電池の開発へ着手し、その技術をペロブスカイトへ発展させてきました。
自動車部品で培った塗布技術や量産技術を持ち、薄いガラスを使うことで、軽さ、曲げやすさ、耐久性の両立を目指しています。将来は建物だけでなく、車両の曲面への搭載も視野に入れています。(AISIN CORPORATION Global Website)
2026年2月には、愛知県庁西庁舎のバルコニーへ30枚のパネルを設置しました。2028年2月ごろまで、発電量、発電効率、経年変化を調べます。さらに、愛知県が選んだ9か所の施設でも実証を進めています。(AISIN CORPORATION Global Website)
積水化学が量産へ進む本命なら、アイシンは本業を持ちながら新技術の可能性を追う会社です。
ペロブスカイトの事業化に時間がかかっても、自動車部品会社としての土台があります。
実用化できれば、新たな評価材料が加わる。
既存事業に付いた成長オプションと考えました。
5035円で株主になった
2026年7月27日の朝、楽天証券の単元未満株で、両社を1株ずつ成り行き注文しました。
単元未満株とは、通常は100株単位で売買する日本株を、1株から買える仕組みです。
積水化学工業は2685円。
アイシンは2350円。
どちらもNISAの成長投資枠で買いました。
投資額は合計5035円です。
積水化学の2027年3月期の年間配当予想は81円。購入価格に対する予想配当利回りは約3.02%です。(セキスイ)
アイシンの年間配当予想は75円で、購入価格に対する予想配当利回りは約3.19%です。(AISIN CORPORATION Global Website)
話題の技術だけを頼りにした、無配の夢物語ではありません。
本業があり、配当を受け取りながら、新技術の進展を待てる2社を選びました。
夏枯れを待たなかった理由
夏休みの時期は市場参加者が減り、売買が細りやすくなります。
いわゆる「夏枯れ相場」です。
もう少し株価が下がるのを待つ手もありました。
しかし、この記事を公開する7月31日、両社は第1四半期決算を発表します。アイシンは午後1時、積水化学も同日に発表する予定です。(セキスイ)
決算後、株価は上がるかもしれません。下がるかもしれません。
結果を確認してから買えば安全、というわけでもありません。好決算なら、確認した時にはすでに高くなっている可能性があります。
そこで、決算前に1株ずつ買いました。
決算を当てるためではありません。
株主になって、決算を自分事として読むためです。
1株なら、値下がりしても損失は限られます。
本格的な買い増しは、決算内容と今後の株価を見てから考えればいい。
5035円は、未来の技術を追うための監視料です。
今年の猛暑ではなく、暑さが続く未来を買う
ペロブスカイト太陽電池が、ヒートフレーションを直接解決するわけではありません。
太陽光で発電しても、農作物の不作がすぐになくなるわけではないからです。
それでも、冷房を使う建物が、自分の屋根や壁で電力の一部をつくれるようになれば、増え続ける電力需要を和らげる助けになります。
さらに蓄電池と組み合わせれば、発電した電気を夜間に使ったり、停電時の非常用電源にしたりする道も開けます。
暑さで儲かる会社を探すだけなら、空調株を買えばいいのかもしれません。
私が追いたいのは、暑さが生む問題を小さくしようとする技術です。
今年の猛暑に賭けたのではありません。
暑さが毎年の経済条件となり、ヒートフレーションが常態化するかもしれない未来を、5035円で観察し始めました。
この記事が公開される数時間後、2社の決算が発表されます。
買った1株が上がるのか、下がるのか。
それ以上に見たいのは、これまで発電できなかった場所を発電面に変える未来へ、積水化学とアイシンがどこまで近づいたのかです。
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