遊侠奇談草紙(25)
二
深川猿江町の差配源兵衛は、茶を出して、巳之吉が落ち着くのを待って話し始めた。
紀左衛門と同じくらいの年齢だろうか、髷に白いものが混じっている。丸顔の温厚そうな人物だった。
「佐吉が亡くなったのは、先月の五日のことでねえ」
そのとき身寄りのない佐吉の死に水をとったのが、差配の源兵衛だったという。死ぬ間際に、
「お盆に迎え火だけを焚いて欲しい」
と遺言したと、寂しく言った。
「昔はねえ。若くして京へ修行に行ったほどの腕の良い菓子職人だったらしい。幼なじみの娘と夫婦になる約束をしていたらしくてね」
「おゆうという女ですね」
「そうだよ。よく知っているね」
と、源兵衛は頷いて、
「修行が終わって、年が明けたら江戸へ帰ろうとしていた矢先、仲間に誘われた博奕で借金をこしらえてしまったらしい。京で博奕の味を覚えてしまったのだろう」
やや湿った声で続けた。
「その借金を返すために、もう一年、そこで働かなければならなかったようだ」
「何という……」
身勝手な男だ、といったんは思った巳之吉だったが、
「佐吉さんは、修行を伸ばすことをおゆうさんには知らせなかったのでしょうか?」
一年延びるということをである。その知らせが届いていれば、おゆうが無駄に待つ必要はなかったし、まして死ぬこともなかったのだ。
「ううん……」
唸るように頭を抱えた源兵衛は、
「あたしも詳しくは知らないよ。だがねえ。今思い出すと……」
そこで言い淀んだ。
「推量でも構いません。お聞かせください。決して、佐吉さんや京の奉公先を恨むものじゃありません。なぜ、おゆうさんが死なねばならなかったのかを知りたいのです」
巳之吉は何度も頭を下げた。
「お願いです」
「分かった。これはあくまでも、佐吉の話の端々から、あたしが推量したことだ」
と、源兵衛はくどいほどに断って、
「佐吉は腕の良い菓子職人だった。京の奉公先で学んだ技術(こと)も一年ほどで、あらかた身に着けたようだ……」
と話し始めた。
ここから先は
¥ 100
よろしければ応援をお願いします! いただいたチップは、クリエイターとしての活動費に使わせていただきます。
