59歳、もう一度もがく。-#1-
59歳。
少し前の私は、この年齢をどこか遠いもののように感じていた。
けれど気づけば、その場所に立っている。
60代へのカウントダウンが始まった。
その先の未来にも、もう手が届きそうだ。
これからの自分は、どう生きていくのだろう。
何を大切にして、何を手放し、何をもう一度始めるのだろう。
ずっとそんなことを考えている。
私はいつも「自分らしくありたい」と思ってきた。
人に流されず、自分の感覚を大切にしたい。
好きなものを選び、自分のペースで生きていきたい。
無理をしすぎず、心地よく暮らしていきたい。
心ではそう思いながらも、できるだけ周囲から浮かないように、常識の枠からはみ出さないよう、気をつけてきた。
女性らしさの象徴だと思っていたヒールだが、もう二度と履かないと心に決めた。
狭い空間に押し込められていた足指は解放され、自由になり、それぞれが居心地の良い収まりどころを見つけている。
「これからは自分らしく、無理せず楽しもう。」
そう思っていた。
自分らしさとは、つまり無理をしないこと。
気づけば私は、その都合のいい公式を握りしめたまま、コンフォートゾーンにどっぷり浸かっていた。
無理しない自然体は、楽ちん。
楽ちんは快適だけど、その快適さはその場限り。
延長線に未来は見えず、内心ずっとモヤモヤしていた。
「ロールモデルがいないから、わからない」と、誰かのせいにしてみたり。
「アラカンなんて、こんなもの」と、割り切ったふりをして諦めてみたり。
何もしていなかったわけではない。
講演会で話を聞いてみたり、最新のAIのトレーニングに参加してみたり。
パートナーを見つけて、新しいビジネスにも挑戦した。
一歩も動かなかったわけではない。ずっと新しいドアのカギを探して試行錯誤してきた。
そしてその試行錯誤に、少し疲れていたし、飽きてもいた。
だから私は、いつのまにか「楽な自分」に戻っていたのかもしれない。
無理をしない。
傷つかない。
失敗しない。
予定調和の中で、そこそこ心地よく。
それを、自分らしさだと思い込んでいた。
でも本当は、少し違っていた。
59歳の誕生日に、私は小さな挑戦を始めることにした。
自分らしく、もう一度もがいてみようと思ったのだ。
会社を立ち上げた時、社名を「マーブル・パレット」にしたのは、
色が混ざり合い、重なり合い、それぞれの違いを活かしながら、ひとつの景色をつくっていく。
そんなイメージに惹かれていたから。
胡粉を練りながら、岩絵具を混ぜ、色を選ぶ。
光を重ね、石と対話する。
指先から生まれたものが、色や輪郭を持ち始め、ある時、一気につながった。
二十四節気の移ろい。
和色。
季節の記憶。
天然の石色を金で継ぎ、新しい命を吹き込んでいく。
そんな小さな光を生み出す仕事をしてみたい。
初めてだらけで、きっと失敗もする。
思ったように形にならない日もあると思う。
でも、生み出した小さな奇跡たちが、きっと誰かの日常を彩っている。
そう思えたら、それだけで十分。
59歳、もう一度もがく。
居心地のよい場所を手放して、もっと居心地のいい場所を探しに行く。
これは、60代を自分らしく生きるための、小さな挑戦の記録です。
よかったら、この小さな旅に、少しだけお付き合いください。
***
もうひとつのマガジン「色の記憶」では、人生の中で出会ってきた色や、季節、旅、和色、天然石について綴っています。
59歳からの挑戦は、これまで自分の中に残っていた色の記憶を、もう一度拾い集めることでもあるのかもしれません。
よかったら、こちらも読んでみてください。
▼色の記憶
