【じーじは見た!】前編:政府がアホやから鉄造っとられへんわ ~ 第2回 産業構造審議会 イノベーション・環境分科会 排出量取引制度小委員会 製造業ベンチマーク検討ワーキンググループを見てみた ~
Z世代応援団、未来世代応援のじーじです。
さて、先日、こんな記事を投稿しました。
官僚は、決められたことを実現するために真面目に一生懸命、続けることが役割であり、方向性を決めるのは「政治家」の役割であるという主旨の投稿でした。
今、日本の製造業は歴史の転換点にあります。
製造業の衰退は、国内の鉄需要を低下させてしまいました。
皆さんの地元に、工場新設が相次いだ昭和の時代は、鉄の需要が旺盛だったのですが、令和の今は逆に工場閉鎖の時代です。
工場が閉鎖されれば鉄のスクラップは出てきますが、そこに新たな工場はできないので、鉄の需要は増えません。
これまで鉄需要を支えてきた自動車産業もピンチであり、このままではじり貧です。
その上、CO2排出の少ないグリーン鉄を世界に先駆けて造れと、世界最先端のベンチマーク(無償のCO2排出枠として各企業に割り当てる基準)を作ろうとしており、その議論が進んでいます。
日本は、NDAと呼ばれる自国のGHG(グリーンハウスガス:温室ガス)削減目標を国連に届け出ており、2030年に2013年比GHG 46%削減、2035年 60%、2040年 73%、2050年カーボンニュートラルを目指しています。
これを確実に達成するために考えたのが、CO2多排出企業に無償の排出枠を与え、それを超えてCO2を排出してしまう企業には、マーケットからCO2排出権を買ってこいという制度です。
バカ高くなっていくCO2排出権を買っていたのでは企業の競争力が低下するので、企業自らがCO2排出削減のための設備投資をしてCO2排出を自主的に減らし始めることを狙った制度設計です。
2027年度には多排出企業に無償の排出枠が設定される予定です。
一方、9月12日付日経新聞5面には「温暖化対策 しぼむ気運」と題して米中の動きを見ながら、COP30を11月に控えて提出期限(2025年2月)を過ぎた今でも排出削減目標を届けていない国が、パリ協定加盟国の8割に達するという状況を伝えています。真面目な日本は期限も守りました。
真面目に無償の排出枠の設定を強いられる鉄鋼業界の状況をどのように政治家は考えているのでしょうか?
鉄鋼業界が会議に提供した資料を見ながら一緒に現状を考えてみましょう。
1️⃣ 日本の鉄鋼が置かれている状況
排出量取引制度小委員会 製造業ベンチマーク検討ワーキンググループの第2回会合の対象は、鉄鋼とセメント業界でした。
鉄鋼・化学・紙パルプ・セメントの4分野をHtA(Hard to Abate)産業と呼んでいます。CO2多排出産業であり、排出削減が特に難しい産業です。
つまり、CO2排出削減がとても大変な産業の一つが鉄鋼なんです。
脱炭素に費やす投資は莫大でありながら、CO2をじゃぶじゃぶ吐き出して造る鉄と品質的には何も変わらない、目に見えないところでの環境貢献を強いられている産業分野です。
常識で考えたら政府は、鉄鋼製品の目に見えない環境貢献を可視化して、CO2じゃぶじゃぶの鉄が海外から入ってくる際には関税で応戦して、国内の投資を無駄にさせない戦略を立てる必要(EUはそうしている)があります。
その責任は官僚ではなく、政治家にあるのです。
そう聞くと、政治家のリーダーシップが必要ならちょっと期待できないと思うでしょ、正解です。
そんな厳しい状況の中で、鉄鋼を製造する際に企業に付与する無償のCO2排出枠の基準を決めるための有識者会議が始まっています。

今回は、日本鉄鋼連盟と普通鋼電炉工業会の資料3、資料4、資料5を確認して、彼らが何を有識者や官僚に訴えているのかを確認していきましょう。
ちなみに、鉄鋼とひとまとめにしていますが、鉄と鋼は違いがあり、私たちが鉄と呼んでいるものは鋼なんですよ。
高炉の上から、焼結鉱(固めた鉄鉱石)とコークスを交互に層状に入れていき、約1000~1200℃の熱風でコークスを燃やすと、一酸化炭素などの還元ガスが発生し、鉄鉱石から酸素を奪い、鉄分を取り出して溶けた銑鉄になります。
炉の下部からドロドロの銑鉄を取り出して、次は転炉で高純度の酸素を勢いよく吹き込むと、炭素やケイ素、マンガンなどが酸化して高熱を発生します。酸化した不純物は石灰と反応して「スラグ(転炉滓)」になり、分離される工程を経て鋼が完成します。
原料に鉄鉱石を使う高炉に対して、鉄のスクラップを原料に使うのが電炉です。
日本は、高炉、転炉、電炉の中でも転炉の省エネ技術が特に優れているみたいですよ。

2️⃣ 世界の粗鋼生産量と日本
鉄鋼業界の専門用語は分かりづらいですね。
粗鋼というのは、鉄鉱石を原料としたバージン鉄(バージンって表現もよくないか)に電炉鋼というリサイクル鉄(再生鉄)を合算したものです。
下記データを見ると面白いですよ。
製造業を国内から追い出してきた米国ですが、国内で出てくる鉄のスクラップを原料とした電炉だけは日本の3倍弱の規模で存在するんですね。

日韓は、粗鋼生産の4分の3がバージン鉄、再生鉄が4分の1です。
一方、中国は粗鋼生産の9割がバージン鉄で、再生鉄を圧倒しており、CO2吐きまくりで、世界の圧倒的な粗鋼生産シェアを握っている訳です。
下記グラフは1990年以降の粗鋼生産量(転炉+電炉特殊鋼+電炉普通鋼)と電炉比率の推移です。

1990年の粗鋼生産量は1億1千万トン、2024年は8千4百万トンなので3千万トン近く国内の粗鋼生産は減りました。
このグラフに欠けているのは、輸出量なのですが、1990年の時には2千万トン程度だった輸出量を差し引くと、当時は国内に9千万トン近い鉄鋼需要があったんですよね。
それが今(2024年)は輸出量が3千万トン程度なので、国内需要は5千4百万トン程度になりました。(輸入量を考慮していなので正確ではないです)
バブル崩壊後の過去30年間、国内需要はずっと右肩下がりでしたが、コロナ禍までは、輸出を4千万トン超まで増やすことで国内での1億トンの粗鋼生産を維持してきました。しかし、とうとうその輸出量も減って1億トンのラインが維持できなくなり、国内の粗鋼生産量のラインは8千万トンに低下しました。
つまり国内の鉄鋼の工場維持が難しくなってきています。日鉄のUSスチール買収の背景には、政治が何もしてくれない日本からの脱出が必要だったのです。
3️⃣ 日本は何が強かったの?
普通鋼に特殊鋼、鉄(Fe)は、ほぼ純粋な金属で、そのままだともろくて酸化しやすいのですが、鋼(はがね)は鉄に炭素を0.02〜2%ほど加えた合金で、これによって強度・硬さ・靭性(粘り強さ)がアップして加工しやすくなります。
一方特殊鋼は、普通鋼にマンガン・クロム・ニッケル・モリブデンなどの元素を加えて、特定の性能を強化した合金鋼で、これが日本の自動車産業他の製造業の強みを支えてきたとも言える訳です。

この日本が得意としてきた特殊鋼の分野でも中国が追い上げてきており、国内需要が減っている中で、日本メーカーが国際競争に勝つために安い輸入鋼を調達しようとするので、日本の粗鋼生産は更にピンチな訳です。
このような状況を理解した上で、更にコスト競争力を弱める無償のCO2排出枠を課される鉄鋼連盟が、有識者や官僚に何を訴えていたのかについては、後編で見ていきましょう。
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