夏の子どもイベント引率者に大切なこと
夏休みになると、子どもたちを連れてキャンプやスポーツ、野外活動などへ出掛ける機会が増えます。こうした行事で最も重要なのは、楽しいプログラムを作ること以上に「全員を無事に家へ帰すこと」でしょう。
ところが、子どもの引率をしていると、大人側の「昔からこうしている」「自分が子どもの頃はこうだった」という知識が、現在の医学的な常識とは違っているケースがあります。
さらに難しいのは、具合の悪い子どもを目の前にすると、「何かしてあげなければ」と思ってしまうことです。
しかし、子どもの安全管理では、善意で何かをすることが必ずしも正解とは限りません。むしろ重要なのは、以下を事前に決めておくことだと思います。
「自分たちで対応してよい範囲はどこまでなのか」
「どの時点で保護者に連絡するのか」
「どの時点で医療機関や119番に委ねるのか」
そんなわけで、イベント会社スタッフとして心がけている夏の子どもキャンプ留意点をメモ的にまとめてみました。
まず夏の活動で最も注意しなければならないのが熱中症です。ここでよく登場するのがOS-1などの経口補水液です。
OS-1は普通の清涼飲料水ではありません。公式には「軽度から中等度の脱水症」における水分・電解質補給に適した病者用食品とされており、脱水を伴う熱中症に使用できるとされています。
逆に言えば、重度の熱中症になった子どもを「OS-1を飲ませて様子を見よう」と考えるのは危険です。自力で水分を飲めない、意識がおかしいといった状態なら、厚生労働省もすぐに救急車を呼ぶよう案内しています。広告にも「軽度から中等度の脱水症」と書かれています。
よく見るのが、熱中症を疑われるお子さんの「首だけを冷やす」方。厚生労働省は「涼しい場所へ移し」「衣服をゆるめ」「首の周り/脇の下/足の付け根などを冷やす」と案内しています。重要なのは「首だけ冷やして終わり」ではなく、体から熱を逃がしながら状態を観察することです。
また経口補水液は、一般的なスポーツドリンクよりナトリウムやカリウムを多く含んでいます。脱水症でない健康な人が日常の水分補給として飲むことを目的としたものではありません。また、一時に大量に飲むとナトリウムの過剰摂取になる可能性もあります。
子どもは大人より熱中症への注意が必要です。日本小児科学会も、小児は体温調節の特徴などから重篤な熱中症を来しやすいことを指摘しています。環境省も、子どもを熱中症になりやすい人として挙げ、暑さ指数(WBGT)などを確認し、状況によっては運動やイベントそのものを中止/延期/変更する判断を管理者に求めています。
ここが引率者として非常に重要なところです。熱中症対策とは「倒れた子どもをどう助けるか」だけではありません。本当の安全管理は「今日は暑すぎるから中止する」「予定していた活動時間を短くする」「予定より休憩を増やす」という判断を、事故が起こる前にできるかどうかなのです。
次に塩飴です。「夏だから塩飴を配っておけば熱中症対策になる」という考え方も注意が必要です。汗を大量にかく環境では、水分だけでなく塩分も失われるため、水分と塩分の補給自体は重要です。しかし、塩飴を食べれば熱中症にならないわけではありません。
商品によって成分は違いますが、多くは糖類を主体とした飴に食塩などを加えた食品です。したがって、「熱中症対策だから何個でも食べていい」と子どもに自由に渡すような運用は避けた方がよいと思います。
例えばよく見かける「カバヤ塩分チャージ」の成分は「砂糖(国内製造)、ブドウ糖、水飴、食塩、乳糖/クエン酸Na・・・」となっていて、結構な量の糖分も含まれています。
工事や建設現場などでは、熱中症対策として塩飴が用意されていることがあります。しかし、塩飴はあくまで食品です。「熱中症対策だから」と何個も食べればよいものではありませんし、水分補給や休憩、暑さを避ける対策の代わりになるものでもありません。
大切なのは塩飴の数ではなく、水分を取れているか。食事を取れているか。長時間暑い場所にいないか。休憩を取っているか。体調の悪い人はいないか。という全体管理です。ちなみに私のイベント現場では、従事者や参加者の塩分&糖分管理が出来ないため、塩飴の類は一切用意していません。
さらに私が子どもの引率で特に重要だと思うのが「薬」の扱いです。
例えば、「頭が痛いから鎮痛剤を飲ませよう」「お腹が痛いから胃腸薬を飲ませよう」「虫に刺されたから、この薬を塗っておこう」といった判断を、引率者が自分の判断だけで行ってよいのでしょうか。
子どもには持病があるかもしれません。アレルギーがあるかもしれません。すでに別の薬を飲んでいるかもしれません。薬の飲み合わせの問題もあります。
したがって、引率者が常備薬を持って行くことと、引率者の判断で子どもに薬を飲ませることは別問題です。
私自身は、原則として常備薬は最終手段と考えています。まず本人が薬を持参しているか確認し、次に保護者へ連絡する。市販薬などを使用する必要がある場合も、可能な限り保護者や医療関係者に確認する。これを自分なりのルールにしています。
傷薬/虫よけ/虫刺され薬についても、常備薬を引率者独自の判断で使用することは原則として行っていません。
もちろん、実施前に保護者から持病/アレルギー/服薬状況などを確認し、子ども本人が持参する薬についても、誰が、どのタイミングで、どのように使用するのかを事前に決めておくべきだと思っています。
生命や身体に関わる緊急事態では119番、事件や行方不明など警察の対応が必要な場合には110番への通報を優先させるのは当然です。
あと子どもの搬送について。
例えば活動中に子どもの体調が悪くなった場合、「病院まで車で送ってあげよう」というのは引率者としての善意です。しかし、ここでも一度立ち止まる必要があります。
その子どもは本当に自家用車で運んでよい状態なのでしょうか。移動中に急変したらどうするのでしょうか。運転している引率者が子どもの状態を観察できるのでしょうか。そして、病院へ向かう途中で交通事故が起きたらどうなるのでしょうか。
これは単純に「事故を起こしたら引率者が必ず全責任を負う」と一律に言える問題ではありません。事故の状況、運転者の過失、団体との関係、加入している自動車保険や行事保険などによって責任関係は変わります。
だからこそ、事故が起きてから責任論を考えるのではなく、「子どもの個人搬送を認めるのか」「誰の車を使うのか」「保護者の同意をどうするのか」「緊急時は119番を優先するのか」「団体としてどの保険に加入しているのか」を行事の前に決めておく必要があると思います。
特に重症の可能性がある子どもを「救急車を呼ぶほどではないだろう」と自己判断して自家用車に乗せることには慎重であるべきです。
ただし、どんなイベントでも緊急時に使用できる車両を用意しておくことは重要です。病人やけが人を搬送するリスクがあるから運ばないという話ではありません。常に必要な移動手段を確保した状態にしておき、その子どもの状態や緊急性に応じて、救急車を要請するのか、保護者に迎えを依頼するのか、車両で医療機関へ向かうのかを判断するという話です。
子どもの引率で一番怖い言葉は「これくらいなら大丈夫だろう」、そしてもう一つ怖いのが「昔はこれで大丈夫だった」です。
医学も救急対応も安全管理も変わっています。「今まではこうだった」「昔はそうだった」は、それを続ける理由にはなりません。
子どもの安全を守るために必要なのは、何でも自分たちで解決できる引率者になることではないと思います。自分たちで対応できること。保護者に確認すべきこと。医療関係者に委ねること。119番を呼ぶべきこと。その境界線を理解していることの方が、はるかに重要です。
夏休みの行事では、事故が起きないことが一番です。しかし「事故を絶対に起こさない」ことはできません。海やプールでは溺水事故が起こる可能性があります。山では転倒や滑落の危険があります。地域によっては熊やイノシシなど野生動物と遭遇する可能性もあります。
どれだけ対策をしてもリスクを完全にゼロにすることはできませんが、その可能性をできる限り小さくするのが安全管理です。
だからこそ、事故を予防する仕組みを作り、それでも何か起きたときには、引率者個人の経験や勘に頼らず、事前に決めたルールに従って行動する。「善意で何とかする」のではなく「組織として安全を管理する」。多くの子どもを預かる活動ほど、この考え方が必要なのではないでしょうか。
ちょっとだけメモ書きしてみました。もっと思い出したらまた書きたいと思います。
