見出し画像

【映画レビュー】『黄金泥棒』

平凡な主婦が犯罪によって「特別な人」に。田中麗奈の魅力が炸裂する犯罪コメディ

TOHOシネマズの会員システムが変わって、「TOHO-ONE」とやらに統合された。今までの会員は自動的に移行されるらしい。しかし、「どうせ世知辛い世の中だし損するに決まっている」と思っていた吾輩が会員ページを覗いてみると、いつのまにやら映画が無料鑑賞できるほどのポイントがたまっているではないか。これってもしかして得したのか!? 移行時の仕組みがよくわからんので確証はないが、とにもかくにも嬉しくなってしまった吾輩は、夕方から取材があるにもかかわらず、午前中にTOHOシネマズ池袋に駆け込んだのだった。

というわけで映画「黄金泥棒」を鑑賞。「夜を越える旅」「断捨離パラダイス」「津田寛治に撮休はない」などのオリジナル作品を手がける萱野孝幸監督が、監督・脚本を担当した作品だ。


あらすじ
人生に退屈していた専業主婦の美香子(田中麗奈)は、ある日立ち寄った百貨店の黄金展で純金のおりんを盗んでしまう。夫に付き添われて返還し、謝罪に行き、何とか示談で済ませてもらった美香子。そんな美香子を営業担当の金城(森崎ウィン)が北海道旅行に誘う。そこで、時価100億円の「秀吉の金茶碗」の存在を知った彼女は、夫とその浮気相手と共に金茶碗を盗み出す計画を立てるのだが……。



映画の序盤、福岡の百貨店で行われている黄金展の模様が映る。SGCという会社が製造する金の工芸品の展示、販売会だった。いかにもお金持ちらしき人が集まる中、普通の格好の老夫婦がガラガラと大きな荷物を引きながら訪れる。そして金の工芸品を指差して係員に「これをくださいな」。価格は1000万円! 老夫婦は荷物の中に入った大量のクシャクシャの1万円札を示す。その1万円札を数えている最中、係員たちに連絡が入る。「金のおりんがない!」。

何とも愉快なオープニングである。ちなみに、おりんは仏具。チーンと鳴らすやつだ。金には税金がかかるが、おりんは、あくまでも仏具なので税金がかからないらしい。うーむ、勉強になるなぁ。この映画は、私のような貧乏人には縁のない金のあれこれを知ることもできるのだ。SGCというのも本物の会社で、同社が協力しているので、劇中に登場する金の工芸品はすべて本物だという。これもすごい話。

さて、場面は変わって主婦の藤根美香子が映る。彼女は夢の中でスポットライトを浴びている。しかし、夢が覚めるとそこは現実。彼女は平凡な主婦のまま。夫の路範は優しいが優柔不断。日常にときめくような出来事はなかった。

そんな時、美香子が目にしたのが地元の百貨店の黄金展のチラシ。興味を引かれて出かけた彼女は、つい出来心で金のおりんを盗んでしまう。ここで冒頭のエピソードにつながるわけだ。

美香子が金のおりんを家に持ち帰っても、特にどうということもない日常が続きそうだった。だが、テレビのニュースで盗難現場を撮影した映像を見た彼女は、慌てておりんをバーナーで焼いて穴を開けてしまう。結局、夫にもバレて、夫婦ともどもSGCに返還、謝罪しに行く。担当の金城は穴が開いてしまったので、別の工芸品に作り替える手間がかかると言い、その費用だけ払ってもらえれば示談で済ますと語る。

その後、藤根夫妻のもとに金城と女性社員の土岡が訪ねてくる。そこで美香子と金城が2人きりになった場面で、金城は言う。「あなたのことを聞かせてください」。

そこで美香子のこれまでの人生を、テレビの再現ドラマで綴るというハジケっぷり。しかもナレーションは立木冬彦ときたもんだ。これはもう笑うしかない。

その再現ドラマで、幼い美香子は「特別な人になりたい」「私にしかできないことをする」という夢を語る。しかし、実際は大学時代に知り合った夫と結婚し、平凡な主婦の座に収まってしまった。幸せではあるが、「特別な人」になったとは言い難い。何か物足りない。金のおりんを盗んだのもそのせいだろうか。

そんな美香子に金城は言う。「一緒に北海道に行きませんか?」。別に不倫の誘いではない。仕事で出かけるが、一緒に行く予定だった社員が行けなくなったという。しかし、見た目はバリバリのイケメンの金城が、にこやかに誘いかけるものだから、美香子は心穏やかではなかった。この金城、かなりのクセモノらしく、何かと美香子を利用しようとする。

金城に誘われるままに出かけた北海道で美香子は、見るからに怪しげな日吉という男が、豊臣秀吉の金茶碗を持っていると知る。それが彼女の運命を変える。これまで夫や金城らに主導権を握られ、あまりパッとしない存在の美香子だったが、それが一変するのだ。

美香子が予定より早めに帰宅すると、なんと夫がSGC社員の土岡と浮気している現場を目撃。それをネタに美香子は夫に迫る。「離婚するか、秀吉の金茶碗を盗むのに協力するか選べ」と。さらに弱みを握った土岡も仲間に引き込む。

さあ、ここからは美香子の独壇場だ。大人しくて従順だった美香子が大胆に覚醒する。城のような建物で展示される秀吉の金茶碗。それをどうやって盗むのか。夫と土岡を操り、あれこれと策を練る美香子。

そして、いよいよ現場に到着。日吉によって特別に招かれた美香子と夫だが、なぜか夫は車いす姿。いったい彼らは何を考えているのか。

ここからの詳細は観てのお楽しみというところだが、とにかく奇抜な作戦の連続だ。ハラハラドキドキの場面も用意されている。もちろん計画通りには進まないものの、それに対する対処法も美香子はちゃんと考えている。最後はドローンまで登場。よくもまあ、ここまでやるもの。これはもう笑うしかない。萱野監督は、この手のコメディのツボを心得ている。あまりにも奇抜な展開の連続なのに、やりすぎ手前で寸止めするさじ加減も絶妙。

美香子は犯罪を通じて憧れの「特別な人」になる。それは同時に男どもへの反撃でもある。美香子の周囲の男どもは、優柔不断な夫、美香子を利用しようとする金城など、しょうもないやつらばかり。そんな最低な男どもに振り回され、それに大人しく従っていた美香子が犯罪によって豹変し、男どもに反撃の一撃をくらわすのだ。この構図が面白くて痛快!

この話は実話をベースに考えついたらしい。とはいえ、話の大半は創作だろうし、強引さは拭いようもない。それでも、テンポの良い描き方をしているし、主人公の自己実現欲求をドラマの背景に据えているので、観ている間はそれほど気にならない。おかげで十分に楽しめた。

しかし、まあ、何と言っても田中麗奈の演技が素晴らしい。シリアスな役もいいけれど、こういう役も似合うなぁ。前半の生真面目で愛嬌のある演技があるから、後半の爆裂ぶりがさらに際立つ。彼女の魅力がはじけまくっている映画だ。

他のキャストも面白い。金城役の森崎ウィンの詐欺師然とした佇まい、夫の路範役の阿諏訪泰義の優柔不断さ、日吉役の岩谷健司のいかがわしさ、そのほか、土岡役の石川恋、ルナ月浦役の中村祐美子、SGC社長役の勝野洋、路範の母役の宮崎美子など、みんな個性的な演技をしている。ちなみに中村祐美子は本作のプロデューサーでもある。

犯罪コメディはかくあるべし。愉快で痛快なエンタメ映画だ。何より田中麗奈の魅力が炸裂している。鑑賞料金分は十分にモトが取れた。あ、吾輩はタダで鑑賞したんだっけ……。

◆「黄金泥棒」
(2026年 日本)(上映時価館1時間52分)
監督・脚本:萱野孝幸
出演:田中麗奈、森崎ウィン、阿諏訪泰義、石川恋、岩谷健司、中村祐美子、勝野洋、宮崎美子
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
公式ホームページ 
https://ougondorobo.jp/
(外部のサイトに移動します。外部のサイトの内容については責任を負いませんので)

●鑑賞データ
2026年4月9日(木)TOHOシネマズ 池袋にて。午前11時10分より鑑賞(スクリーン5/D-8)


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集