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1/3も伝わらないし1/3は間違って伝わってる #下書き再生工場


壊れるほど愛しても 1/3も伝わらない

って、歌っていたのは誰だったっけ。
本当は何のアニメの曲だったかまでちゃんと思い出せるけど、そのアーティストを知っているのも今の私にはちょっと憂鬱だ。
あの頃の音楽を彼はきっと知らないし、そんなことを少し悲観的に思っている私の気持ちはむしろ知られちゃいけない。


「高橋先輩!この前送った動画、見てくれました?めちゃおもろくなかったすか?」

「んーん、まだ見てない」

「え〜なんですか、早く見てくださいよ!あれ絶対先輩もツボると思ったんすよ!」

「そんなことより、私がさっき送ったチャット読んだ?」

「もちろんす!山田にも共有しました。あと、木下さんには明日納品ですって伝えました!」

「...違う。あれは全体周知じゃなくて園田くん、君への指摘事項。それに納品は、明日になったかどうかを木下さんに確認してって書いたんだけど...」

「うわっすんません!了解す、確認します!」

「おーい...本当にわかってる?」

「はい!」

返事だけはいい。でも、やっぱり今日も私の伝えたことの1/3も伝わってないし、1/3は間違って伝わってる。

管理職になって部下ができて、もっと彼らとの関わり方を変えた方がいいのかと考えたり、マネジメントの本を読んだりもしたけれど、正直自分は管理職に向いてないなと感じる。私は全体把握をして誰かを動かすよりも、みんなと同じ目線でプレーヤーとして仕事をする方が好きだ。
とはいえ、年齢的にも勤続年数的にも他に適任者がいないし、私も私を管理職として動かす誰かの指示に結局は従うしかないのだけど。


半年前に新しく入ってきた園田くんはいつも元気がいい。
話し方は運動部の高校生かノリのいい大学生みたいだけど、リバースショートの髪をぴたっと固めていて、見た目は爽やかなビジネスマンという感じ。さっきのような早とちりも多いけど社内で人嫌いとして有名なあの木下さんがそこそこ可愛がっているという噂もあって、みんなからも一目置かれている。人懐っこいというか人たらしというか、人間力みたいなものでどの人にも好かれているんだと思う。

コンプライアンスや色々なハラスメントに気を遣ってコミュニケーションを取らなければいけない昨今。素直でよく笑う明るい部下が入ってきてくれて嬉しい限りではあるけれど、同時にうまくやれていない自分と比べてしまう。実力さえつけば、彼のような人望のある人がみんなの上に立つ方が向いているのではなんて思うこともある。

そして園田くんの他に、私には頭を悩ませている部下がもう一人。


「飯島さん、おつかれさま。先週共有したデータ、修正どんな感じかな?順調?」

「あー、ちょっとまだできてなくて」

「そっか。えーと、何かわかんないところあった?今週までにできそうって話だったと思うけど、大丈夫そう?」

「いえ、あ、もし急ぎだったら山田くんにやってもらった方が早いと思うんで、そっちに振ってください」

「うーん…山田くんには今もう一つ大きめの任せてるし...これは来期飯島さんにメインでやってもらうことになると思うから、今から見てた方が今後やりやすいと思うんだよね」

「でも私、忘年会の幹事任されてるんで、今日は早く出なきゃで残れないです」

「...そっか、わかった。じゃあ一旦私が引き取るね」

「すみません、お願いします」


あーあ、またやってしまった。
飯島さんは新卒で入って5年目。そろそろ中堅としてリーダーを任せたいところなんだけど、彼女はとにかく人にボールを投げるのがうまい。
自分のやりたいことは率先して手を挙げるのに、面倒なことは右から左へさらりと渡してしまう癖がある。けれど、危機管理能力というか察知能力はすば抜けているので立ち回りも上手く、上から特に何も言われることなくここまできてしまった。
「同じ女性同士の方が接しやすいだろうから」なんて体のいい理由で、私は今年から彼女の教育を任されたのだ。

自分が仕事を回収したって彼女のためにならないことは百も承知だけど、飯島さんはどうしても先週頼んだこのタスクには手をつけたくない様子。もう少しやりやすいものから投げていくべきだったか。だけどそれじゃあきっと彼女は変われない。
そもそも本人が変わりたいと思っていないのに、教育も何もないじゃない。

でも、こうやって彼女とのコミュニケーションに難儀して、結局自分が手を動かしているのも、結果的には私もやりたいことしかやってないってことになるのかな。

あぁ、もう。


回収した仕事を終わらせて少し遅れて忘年会の会場に向かうと、みんなはほどほどに盛り上がっているところだった。今日も元気な園田くんが到着した私に気づいて大きな声で言う。

「あー先輩!お疲れす!ここ空いてますここ!何飲みます?」

「ありがと。ちょっとその前にお手洗い行ってくるね」

園田くんが示していたのは隣が別部署の部長、向かいに木下さんが座る超S席。
正直、見ただけで座る前からパワーを吸い取られてしまいそうになった私は、一度トイレに逃げることにした。これだけ人数がいるなら、戻った時にちょうどいい端の方の席が空いたりしてないだろうかなんて考えながら。


「っていうかさぁ、高橋さん、忘年会なのに遅れてくるとかなくない?」

トイレに向かうと、通路を曲がる手前で飯島さんの声がした。話しているのは彼女の同期だ。

「え?なんで遅れてるの?」

「しらなぁい。今日もさぁ、"やっぱり私がやるから"とか言って仕事奪われちゃったし。今週までにやるって言ってたのに。今頃それでもやってるんじゃない?結局自分がやらなきゃ気が済まないんだよあの人」

「でも明日は午後から大掃除だからやる時間なくない?」

「たいしたことないから明日だってできるよあんなの」


...じゃあ、先週早々に渡したんだからもっと早くできたのでは...?
喉の上まで出かかった言葉を飲み込んで、踵を返す。
ダメだ。もう、帰ろう。このまま席に戻っても、多分私、笑えない。

「ごめんなさい、せっかくだから少しだけでもと思ったんですけど、実はちょっと風邪気味っぽくて。移したら申し訳ないので、今日はお先に失礼します」

私は宴会の席に戻って言った。きっと顔色は、ちゃんと悪かったと思う。

「高橋さん今週結構残ってたもんなー無理しないで!」

「えー先輩帰っちゃうんすか?大丈夫すか?」

「ありがとう、大丈夫。明日に響かないように帰って速攻直しますね!おつかれさまです!」

私はなんとなく園田くんの顔を見れずに、そのまま店を出た。


やっぱり、自分の言い方がいけなかったのかな。
上に言われたからというのもあるけど、もっとできることが増えたら飯島さんにとってもスキルアップになると思って、なるべく彼女の気が向くような感じで接していたと思うんだけど。
私は一人帰り道を歩きながらさっきの飯島さんの言葉を反芻していた。
”やっぱり私がやるから"なんて、そんな言い方してないじゃない。あぁ、全然伝わらない。
向いてないよ。自分のことで精一杯なのに、人を育てるなんてできない。
どんどん気持ちが下を向いて、頭まで垂れ下がるようにして歩いていると、後ろから声がした。

「先輩!高橋先輩!待ってください、俺も帰ります!」

え...?
振り返ると、園田くんが上着とバッグを雑に持って追いかけてくる。

「え?園田くん出てきたの?なんで?」

「いや俺、さっき参永工業から電話きて。明日朝イチで行かなきゃいけなくなっちゃったんすよ。なんで早めに切り上げてきました!」

「えっ何かトラブル?」

「いえ全然!サンプル渡したいって言われて。あと、向こうの社長が年末の挨拶に来いって言ってるらしくて。木下さんが、ただ会いたいだけだろうけどそういう人だから行っといた方がいいって」

「そう...なんだ」

息を荒くして走ってきた園田くんと並んで、話しながら歩く。

「木下さん、社内ではいっつもこーんな眉間にシワ寄ってるのに、社外の人にはめちゃくちゃ人当たりいいすからね〜参永工業の社長とも仲いいらしいっすよ」

「あ、そう。…君はすごいねぇ」

「え、何がすか?」

「なんか、どんどん人の懐に入っていくなぁと思って。私、木下さんのそんな一面全然知らなかったし、参永工業もメインでやってたけど社長に呼ばれたことなんてないよ」

「いやーきっとみんなシャイなだけっすよ!ところで先輩、風邪大丈夫すか?」

あんなに人嫌いで通っていた木下さんも、気難しそうな社長も、全部シャイでまとめてしまった園田くん。なんだか面白くなって、私はつい本音を漏らしてしまった。

「大丈夫、ほんとは風邪じゃないから。風邪じゃないけど色々だるいなと思って、帰ってきちゃった」

「...あはは!マジすか、パンクっすね!じゃあ今から一杯だけ飲みません?先輩1ミリも飲んでないじゃないすか」

「いや、アナタ明日朝イチで参永工業行かなきゃなんでしょ?」

「いやまぁそうなんすけど、今年もお世話になりましたーってやりたいっす。あ、じゃあそこの公園で!自販でお茶買うんでそれならいいすか?」

「...飲み切らなくてもお茶が冷めたら帰るよ、寒いから」

「あざす!俺買ってくるんで座っててください」


さっきあれほど息を切らしていたというのに、再び小走りで自動販売機に駆けていく後ろ姿を見ながらゆっくりと小さな公園に入る。

クリスマスの名残なのか、それとも冬は装飾をするのがお決まりなのか、園内の木の幹には電飾が巻かれていて、少ない街灯よりも鮮やかに光っている。
私はブランコに腰掛けて、少しだけ足で揺らした。キィっと軋む音が懐かしい。
ここで遊ぶような年の頃は、年上やら年下やらの違いは全然なくて、幼稚園児の子も小学生の子も、ただ一緒に楽しく遊んでいたのに。

いつの間にかこんなに大人になって、人との付き合い方も変わり、役割もどんどん変わっていった。
でも、そんな風に思っているから私はうまくやれていないのかもしれない。園田くんのように、もっと自然体で誰とでもにこやかに接することができたら、木下さんや飯島さんともうまくやれるんだろうか。


ぼーっと考えながらブランコを揺らす足元を眺めていると、一瞬視界がふっと暗くなった気がした。顔を上げると、園田くんが私の髪のあたりに手を伸ばして、そしてすぐに引っ込めた。

「えっ...なに?」

「いやすんません!てっきりベンチに座ってるかと思ったら先輩ブランコこいでるから、なんか、小さい頃の妹見てるみたいで可愛くて…いやなんでもないっす、すんません」

そう言いながら暖かいペットボトルのほうじ茶をずいっと前に出す。

「...足音しないからびっくりしたじゃん!」

鼓動が早くなっているのを悟られないように、私は内心必死で取り繕いながらペットボトルを受け取った。

なんか可愛くて...?って言った?今。
もしかして、頭でも撫でようとしてた?いやいやそんなまさか。
冷え切っていたはずの指先が熱を帯びていく気がして、それが本物にならないようにとペットボトルを両手で包み、熱をほうじ茶のあたたかさに置き換える。

ダメだ。気づいちゃいけない。
彼は部下で、しかも私は飯島さんにはどうやら嫌われてるらしい。
そんな風に彼を見ているだなんて万が一噂にでもなったら、社内の雰囲気は今までよりももっと変な感じになるだろう。
...っていうかこれ、こんなにお店の近くで、公園に2人でいるのを見られたりしたらまずくない?
おろおろぐるぐると、頭の中を体裁と隠した気持ちが渦を巻く。


「先輩...すんません。さっき、嘘言いました」

隣のブランコに座りながら園田くんが言った。

「え?」

「俺、妹いないす」

「...は?」

自分の中の渦に必死で、彼がなんの話をしているのかさっぱりわからない。

「普通に、先輩のこと可愛いなと思って、触りたくなっちゃいました」


やっぱり、1/3も伝わらないし1/3は間違って伝わってる。
ずっと触れたかったのは、私の方だ。



というわけで、本田すのうさんの企画「#下書き再生工場」に参加させていただき「1/3も伝わらないし1/3は間違って伝わってる」を書いてみました。

ちなみにこちらはどなたが供養に出してくれたお題だったのでしょうか。。
コメント欄を辿るもわからず…😵💦(見落としていたらごめんなさい)


頑張っても伝わらないことっていっぱいあるし、頑張って伝わらないようにしているのに伝わっちゃってることってありますよね。
伝わらないことも、間違って伝わってることも全部含めてエモくなーれ!の気持ちで書いてみました。
長い話を書くと会話がかなり多くなるという自分の特徴?(弱み?)も久しぶりに思い出しました。でもそれも自分!と書くことを楽しんでわーっと存分に会話を弾ませちゃった。
久しぶりに創作ストーリーが書けて楽しかったです!

本田さん、そしてお題を提供してくれた方、ありがとうございました。

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日野笙 / Sou Hino サポート、嬉しいです。小躍りして喜びます^^ いただいたサポートで銭湯と周辺にある居酒屋さんに行って、素敵なお店を紹介する記事を書きます。♨🍺♨