ソーセージ座流星群 #毎週ショートショートnote
「今宵、流星群」
深夜、老人が古びた劇場のドアノブに、小さなチョークボードを掛ける。
町で唯一の劇場、ソーセージ座。
この町の人々は、たまに現れる流星群の札を見ると、少しだけ浮き足立つ。クリーニング屋は早じまいを決め、豆腐屋は店先に翌日臨時休業の札を出す。普段は静かな通りも、その夜だけは自然と劇場に人が吸い寄せられていく。
いつも閑散としているロビーはにわかに賑わい、今日は売店も開く。貸出用の枕とブランケット、温かい飲み物にお酒類、そしてフードにはケチャップとマスタードがたっぷり乗ったソーセージ。
常連の老婆が杖をつきながら現れると、受付の青年に声を掛けた。
「久しぶりだわね。お爺さん、元気にしてる?」
「相変わらずみたいですよ」
青年は何事もないように答える。
しばらくして客が席につくと、劇場の扉が閉まり上映が始まった。
ソーセージ座は、流星群のボードが出た日だけ特別な夜になる。上映といっても、スクリーンに映像はない。客たちは座席で眠り、それぞれ別の夢を見るのだ。
幼い頃に見た母親。煙草をふかす祖父。手を繋ぐ我が子。隣で笑う妻。もう声も思い出せなくなった恋人。
静かな寝息だけが満ちる劇場の中で、誰かとの記憶がそれぞれの中できらきらと瞬いていく。
町の人々は不思議がることもなく、もう会えなくなった人と再会できる夜として、その日が来るのをいつも心待ちにしているのだ。
やがて夜が明け、上映が終わった。
少し眠そうな顔の客たちは、どこか満たされた様子で劇場をあとにしていく。
「おじいちゃんって、あんな顔だったんだね」
男の子が父親に手を引かれながら言う。
「パパに似てただろ?…あ、ちょっとここで待ってて。トイレ行ってくる」
父親がロビーの奥へ消え、男の子は受付にいた青年を見上げた。
「ねえ、なんでここソーセージ座っていうの?」
「ん?ずっと昔にこの劇場を作ったおじさんが、ソーセージが好きだったからだよ」
「ふぅん」
男の子は少し考えてから、もう一度尋ねた。
「今日、来てた?」
「もちろん」
青年は受付の床に落ちていたソーセージの棒を拾い上げ、小さく笑った。
「相変わらず散らかすのが得意なんだから…」
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