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やさしい嘘~「鶴二人」スピンオフ@チャレがや参加作品

 瀬戸内の海は、今日も優しく揺蕩っている。
 
 「……」
 鶴姫は、兄・安舎やすおくからの文を握りしめ、双眸に涙を浮かべて、ただ海が波打つ様を見つめている。
 その傍らには、婚約者の越智安成おちやすなり
 (鶴姫殿……)
 安成は、鶴姫に触れることも出来ず。
 ただ、寄り添うより他になかった。

 「安成殿。何故です。何故、かようなことに」
 ややあって、鶴姫は涙声で問いかけた。
 「……」
 「我は、このような顛末なぞ望んでおりませんでしたのに」
 鶴姫は、ぎゅっと書状を握りしめた。
 「鶴姫殿。全てはあなたを守るためのことです」
 安成はそう答えるので精一杯だった。
 

 鶴姫は、何も知らなかった。
 大内勢が示してきた、講和の条件を。
 その条件とは。
 三島水軍の解体。現大祝おおほうり職の隠居。
 そして。
 鶴姫を人質として差し出すこと。

 このことを知っていたなら。
 ……我は、微笑みさえ浮かべて大内に降りもしたものを——。
 
 安成との別れは確かに辛い。
 この秋には祝言を上げる筈だった、心から愛しているこの男と別れることは。
 だが。
 それで大三島を、愛する島の民を守ることが出来るのであれば。
 涙を呑んでそれを受け入れる覚悟は、ある。
 
 それなのに。
 何故、我の知らぬところで。
 勝手にこのようなことを。
 
 

 鶴姫と安成は、鶴姫の兄たちがついた「嘘」によってここにいる。
 
 ここは、来島くるしま村上氏の居城・来島城。
 二人は当主・村上通康むらかみみちやすをして、この城に匿われている。
 通泰は、鶴姫の長兄・安舎たっての願いを受け入れたのだ。

 鶴姫の兄たちは、妹を人質に出すことを良しとしなかった。
 鶴姫は、神の島・大三島が懐く三島大明神に愛された、まごうことなき神の娘。
 彼らにしてみれば、その娘を陸の者に奪われることなど、あってはならないことであった。
 
 そのために安舎は一計を案じた。
 鶴姫は生死不明。安成は戦で受けた傷が元で命を落としたことにする。
 安舎はその結末を導き出すべく、綿密に計略を練り上げた。
 そして、その計略が恙なく遂行された結果。
 鶴姫と安成は既にこの世にいない者として「生かされた」のだ。
 
 生かされただけなら、良い。
 生かされただけであれば。

 この計略では、鶴姫のために犠牲になった男がいる。
 それは。
 鶴姫の双子の兄・鶴丸。
 彼は「畜生腹」として、産まれたことさえ秘せられた存在。
 その兄が、「鶴姫」として、大内勢に最後の戦いを挑んだ。
 全ては、妹の存在を「生死不明」に導くために。
 
 先ほど届いた安舎からの書状は、鶴丸の行方を知らせるものだった。
 居合わせた兵達の証言では、「鶴姫」は唯一人、敵の総大将・陶隆房すえたかふさを追って敵船に躍り込んだ。
 味方の舟はその後を追おうとしたが、大内勢の舟に阻まれて見失った。
 そこで、鶴姫——鶴丸の消息は途絶えたという。
 「何の手がかりもない故、断言することは憚られるが、恐らく鶴丸は……」
 安舎の文は言葉尻を濁して終わっていた。

 「鶴丸……何故じゃ」
 鶴姫の怒りと悲しみの矛先は、消えた双子の兄へ向かう。
 「我はかようなこと、頼んではおらぬぞ。何故……どうして……」
 遂に、鶴姫の双眸から大粒の涙が零れ落ちた。

 兄の犠牲の上に己の人生が続くなど。
 鶴姫には到底受け入れられるものではなかった。

 それでも。

 「鶴姫殿」
 安成は、愛しい女の肩に触れた。
 そして、そのまま力強く抱き寄せた。
 「うう……」
 鶴姫は、男の胸に額を寄せ、声を殺して泣いた。

 「鶴姫殿。過日、通康殿が申された通りです」
 「……」
 「我らがこれから為すべきこと。それは、皆の思いを無にせぬこと。これのみです」
 安成は意を決して、この言葉を口にした。

 これは——。
 あまりにも残酷で。
 そして。
 なんと美しい顛末か。

 ー 完 ー


みなさん、こんにちは!
みくまゆ会かながわ支部(僭称)のひつぎ ひなたです。

今回もみくまゆ会さまの「チャレがや」に参加させて頂きました。
お題は「嘘」

このお題にかこつけて、先日「小説家になろう」に掲載した「鶴二人~もうひとつの鶴姫伝説」のスピンオフを書くという暴挙に出ました 笑
いやマジいい作品作れたと思うので、本当に多くの方に読んで欲しいです。
なろう掲載なのは本当に申し訳ないす。

あ、創作者なら皆さん同じことを思ってますよね。
良い作品書いた。書けた。だから読んで欲しい。
それは創作者として至極まっとうな欲求だと、私は思います。

どちら様も正直で宜しい!
ついでにわたくしも自らの欲望に正直になりませう!

最後にちょこっとだけ宣伝させて下さい。
じゆうに文庫小説大賞応募作・「鶴二人~もう一つの鶴姫伝説」を
宜しくお願い致します!!!

↓↓リンクはこちら(サムネは出ませんw)↓↓
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