第3回|老後の生活費、月26万円必要?平均額を「わが家の数字」に直す3ステップ
「老後の夫婦は、毎月26万円くらい使うらしいよ」
日曜日の夜。美咲はスマートフォンの記事を見ながら、電卓を開きました。
26万円 × 12か月 × 25年。
画面に出たのは、7,800万円という数字です。
美咲 「年金があるとしても、こんなに準備できるのかな……」
拓也 「でも、その26万円って、僕たちの老後にもそのまま当てはまるの?」
美咲は答えられませんでした。
そこでFPの山本健太が、数字の正解を言う代わりに、こう尋ねます。
山本健太 「今の支出のうち、老後にも残るもの、減るもの、逆に増えるかもしれないものは何でしょう?」

この問いを入れるだけで、「平均26万円」は、わが家の数字ではなくなります。
前回は、ねんきん定期便で将来の収入を考える入口を確認しました。今回はその続きとして、もう片方の数字である老後の生活費を整理します。
この記事で持ち帰ってほしいことは一つだけです。
平均額をそのまま目標にせず、今の家計を「残る・減る・増えるかもしれない」に分けて、わが家の老後生活費を考える。
「月26万円」は、誰かの正解ではありません

総務省統計局の2025年「家計調査年報」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は、月平均26万3,979円でした。
65歳以上の単身無職世帯では、月平均14万8,445円です。
ただし、これは調査対象世帯の平均です。
夫婦世帯の世帯主平均年齢は77.6歳、単身世帯は77.8歳。
住まい、地域、車の有無、健康状態、家族構成などが異なる世帯をまとめた数字であり、「全員に必要な金額」ではありません。
さらに、この消費支出には税金や社会保険料などの非消費支出は含まれていません。
年金の額面と単純に引き算すると、実際の家計とずれる場合があります。
平均は、わが家の数字を出したあとに比べるための参考資料です。
最初から目標額として使う数字ではありません。
ステップ1|今の家計から始める
老後生活費を考えるとき、最初に見るのは全国平均ではありません。直近2〜3か月の家計です。
家計簿を細かく完成させる必要はありません。
銀行口座やクレジットカードの履歴を見て、毎月どこへお金が出ているかを大まかに確認します。
ここで気をつけたいのは、今の生活費をそのまま老後へ横滑りさせないことです。
働いている今と、退職後では、支出の中身が変わるからです。
ステップ2|「残る・減る・増えるかもしれない」に分ける

美咲たちは、毎月の支出を三つに分けました。
老後にも残りそうな支出
住居費、食費、水道光熱費、通信費、日用品など。暮らし方が変わっても、ゼロにはなりにくい支出です。
老後には減る可能性がある支出
通勤費、仕事用の衣服や昼食代、子どもの教育費など。
住宅ローンも完済予定なら減ります。ただし、返済が老後まで続く場合は残して考えます。
老後に増えるかもしれない支出
医療・介護、家の修繕、車の買い替え、家族への支援、趣味や旅行などです。
必ず増えるとは限りませんが、最初からゼロと決めない方が現実的です。
大切なのは、分類の正解を探すことではありません。
例えば車が欠かせない地域なら、老後も維持費が残ります。
持ち家でも住居費がゼロになるわけではなく、固定資産税や修繕費がかかります。
反対に、子どもの独立後に食費や教育費が下がる家庭もあります。
同じ項目でも、家庭によって置く場所が変わる。
ここに、平均額だけでは分からない「わが家らしさ」が出ます。
ステップ3|「守る生活費」と「楽しむお金」を分ける

老後生活費は、一つの数字に決めなくても構いません。
まずは、住まい、食事、光熱費など、生活を維持するための守る生活費を出します。その上に、旅行、外食、趣味などの楽しむお金を重ねます。
例えば、現在の支出が月30万円の家庭でも、仕事関係や教育費などが月7万円減り、修繕や医療に備えて月2万円を加えるなら、老後の生活費は月25万円という見方ができます。
これはあくまで計算例です。30万円や25万円が正解という意味ではありません。
二段階に分けると、「最低限いくら必要か」と「どんな老後を送りたいか」を混同しにくくなります。
平均額は、最後に使う
わが家の老後生活費が見えてから、総務省の平均と比べます。
平均より高くても、すぐに削る必要はありません。
住宅ローンが残る、車が必要、旅行を楽しみたいなど、理由を説明できるなら、その家庭に必要な支出です。
反対に平均より低くても、それだけで安心とは限りません。
家の修繕や車の買い替えなど、毎月ではない大きな支出を見落としていないか確認します。
平均は「高い・低い」を採点する数字ではなく、見落としに気づくための比較材料です。
年金と比べるのは、その次です

前回確認した年金見込額と、今回の老後生活費を比べると、毎月の不足額を考えられます。
ただし、ねんきん定期便などに示される年金額は原則として額面です。
一方、家計で使えるのは税金や社会保険料などが差し引かれた後のお金です。
年金の額面と生活費をそのまま引き算しないように注意してください。
次回は、年金を手取りに近い形で考え、老後の毎月の不足額を出すところまで進みます。
不足額が見えてから、積立額やNISAなどの手段を考えます。
今日、5分だけやること
家計簿や明細を開き、今の支出に次の印をつけてみてください。
○ 老後にも残りそう
△ 減るかもしれない
+ 増えるかもしれない
正確な金額を出す必要はありません。まず支出の性格を分けるだけで、全国平均だった老後生活費が、わが家の話に変わり始めます。
今日のまとめ

月26万円は統計上の平均であり、全員の必要額ではない
今の家計を「残る・減る・増えるかもしれない」に分ける
「守る生活費」と「楽しむお金」を分けると考えやすい
わが家の数字を出したあとで、平均と比べる
生活費の平均を知ることは、無駄ではありません。
ただし、その数字を見て不安になる前に、わが家の暮らしへ翻訳する作業が必要です。
老後資金づくりは、大きな数字を怖がることからではなく、今の家計を一つずつ見直すことから始まります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。家計状況や制度の適用条件は人によって異なります。統計や制度を利用するときは、必ず最新の公式情報をご確認ください。
