Audible体験記〜自分で演出した声優たちとのジレンマ
Amazonを開いたら「Audible 3か月間 月額99円キャンペーン開催中」が表示された。本は活字で読むものと思っていたこともありAudibleを契約しようとは思っていなかったが、「月額99円」という金額を見たら体験しないわけにはいかないというAmazonの企みに乗って契約した。100均ショップが流行る理由と同じで、その100均よりも安価な99円という響きに負けてしまった。
Audibleを使い始めて感じたのは、朗読者の抑揚や呼吸、わずかな間合いによって心の揺れや語り手の温度が、活字とはまったく違う質感で伝わってくる。朗読者は単なる読み上げではなくある種の翻訳に近いのかもしれない。声のスピードや音量を調節できるのも面白い。自分の集中力や気分に合わせてテンポを変えると同じ作品でもまるで違う表情を見せる。
「追いかけるから、苦しくなる。追いかけるから、負ける。追いかけるから、捨てられる。人はすべて、一人で生まれ、一人で去っていく生き物である。失なったものはかえってこない。本物の大人はそんなことはしない。」
本書の朗読はあの大杉漣さん。役者としての柔らかさや誠実さ、そして人間味がそのまま声に宿っており、感情の起伏は感じられないもののゆっくりと「語りかけてくる」感触があった。作者の思いだけでなく、朗読者の思いも重なり深く伝わる感じがした。
ただし、小説は活字で読みたいと思った。エッセイとは異なり物語の登場人物が作品を彩っており、活字で読む際はその登場人物に勝手に声優を当てがえ、抑揚も、話し方も、呼吸の間さえも、すべて自分で演出しているからと思う。朗読者の声は洗練されておりその力量は賞賛しかないものの、どうしても「その声じゃない」と心のどこかでつぶやいてしまう。もしかすると新しい読書の形に馴染めていないだけかもしれない。これまで気づかなかった解釈を感じられることもあると思う。いつか、私の中の“勝手に選んだ声優たち”と、朗読者の声が仲良く同居できる日が来ることをどこかで密かに期待している。
声に導かれて物語へ入っていく時間は、とても豊かでやさしい。耳で読むという新しい本の読み方も有りと思う。読むことにも、聴くことにも、それぞれの喜びがあるのだとあらためて感じさせてくれる。きっと比較するものではなく、新たな読書の仕方なのかもしれない。
もう少しAudibleを使い続けて、作品の思いを感じてみようと思う。
