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全力を軽くする

今年の夏至は日曜日でした。

日が長くなると元気になる。

いつまでも明るいのが嬉しいし、マジックアワーの光を長く楽しめる。

というか今の私は元気だ。前の職場で休職したのは2023年で、時期もちょうど今頃だった。三年かけてやっと元気になった。

三ケ月の休職期間中は創作に没頭した。

あともう数か月、時間を独り占めできれば、作品はもっと深まると思えるところまで来た。自転車で豊平川まで行って、橋の上から川を見下ろした。黄昏時でキラキラしていた。

ミスチルの「Hypnosis」を聴き、文字通り黄昏ていた。現実に戻りたくないし、引き返せなくてもいいかもしれないと。泣いたかどうかは思い出せない。当時は毎日何かにつけて泣いていた。

仕事にも人間にも疲れたし、お金はないしで、橋から飛び降りてもおかしくなかった。

飛ぶことにはした。仕事には戻らなかった。(退職手続きは自分でやりました。念のため)

今思い出してもいい職場だった。

なんでそんなことを思い出したか。2026年夏至の日曜日のこと。

一日中ソワソワしていた。何をやっても考えがまとまらない。自転車で緑の多いところに行こうと思った。

あの公園がいいかもしれない。ほぼ山だ。オゾン爆発。

でも今日は人の気配もほしい。

大通公園に行くことにした。西12丁目のサンクガーデンの薔薇は、きっともう終わってしまう。

予想通り、満開の、少し盛りを過ぎて萎び始めた薔薇園には、夕刻にもかかわらずたくさんの人がいた。

薔薇に満足して、まだ緑が足りなかったので、北大札幌キャンパスに行く。

予想通り、というかいつものように、キャンパスの広くて長い中央通りには、ランニングやサイクリング、散歩の人々が行き交っていた。

ちなみに、北大札幌キャンパスは観光地でもあり、夏場は建物が隠れるくらい緑が茂る。

私も緑のトンネルの下を延々と走る。

そのうちに気が付く。

もしかして

さ み(・∀・)し い!

今週中には、日本ファンタジーノベル大賞に作品を出さなければいけない。

出品する時は、一回手放す気持ちになる。他人に評価をゆだねるからかな。

もしかして出さなくてもいいかな? みたいな気持ちがもたげる。

あとほんの少し気持ちが重たければ、何もなかったことにしてしまいそう。それを待つつもりで時間を潰す。

いつまで経っても気持ちは沈殿しそうにない。頑なさからは程遠い。

もうちょい意固地に生まれたかった。北大札幌キャンパスが美しいせいで応募をやめたみたいな、
無垢さを守りたいがために冒険をあきらめるみたいな、
他力本願な人間になってみたかった。

前の職場では営業事務からスタートした。デザインもできる営業事務。歌って踊れるアイドルみたいな、いたらとりあえず便利な奴みたいなポジショニングだ。

一日にクライアントに何十本も電話する、みたいなこともやった。

その傍らイラレもいじる。HTMLも書く。メールマガジンも書くし配信設定もする。だんだんデータ分析までやるようになる。

そもそもはデザイナーだったから、営業電話なんてかけたくない。

楽に仕事したい。でも逃げられない。だったら上手になることで楽になりたい。

マネージャーに相談した。

「打席に立ってみないとわかんないよ」

電話してみて何が起こるか、マネージャーにだって、誰にだってわからないものだと。とりあえず電話しろと。

何も解決してない。言われたことには納得した。

呼吸するかの如く電話してみよう。

本当に営業が向いてる人の十分の一くらいの得意さではあるけど、お客さんにお願いしたり、相談に乗ったりするのが、ほどほど怖くなくなった。

お願い事を伝える。約束する。それを守ってもらう。向こうから頼まれた約束事は守る。

そこまで作法を単純にすることができた。

私にはできる。コツコツ積み上げればいい。それができる人は多くない。多くないということは価値が見出されるチャンスがある。

そういうことを教えてくれて、まがりなりに社会人にしてくれた職場だった。

やめてしまったけど作法は引き継いでる。

公募への応募準備を進める。

原稿を整える。梗概を書く、登場人物説明を作る。文字数を確認する。指定の添え状を作る。印刷する。クリップで留める。レターパックに宛先と住所を書く。レターパックのシールをはがす。封入する。

全部の作業はささやかだ。でも気が重い。作業中ずっとため息をする。「打席に立ってみないとわかんないよな」って繰り返す。

添え状の印刷を見て、ちょっとインクが掠れてる? と思う間もなく、原稿の印刷でプリンターに紙が詰まった。

アクシデントきた。頭を掠める。すぐ直らなければ、出さなくてもいいってことだなと。

モノクロ印刷専用プリンターだ。作りがシンプルなので、思ってたよりあっさり解決した。

50ページくらい印刷したところで、ここは書かなくてよかったなっていうセンテンスを削り取る。1行減る。

印刷済みのページとの辻褄を合わせるために、容赦してもらえそうなところで空行を開ける。

作品にしてやれることはこれで最後だ。

200ページの印刷が完了した。

レターパックの厚みを確かめる。これだったらポストに投函できそう。

なんならちょっと抱きしめてみる。少し誇らしい気持ちになる。

私の全力だけど、いい感じに軽いなって。

コンテストの規定文字数を守ったら軽くなっただけだけど。

全力を軽くできるようになってきた。

技術的に簡単にっていう意味じゃなくて、受け取った相手が潰されないであろう重さに変換できるようになってきた。

現時点でこのレベルだったら、もうしばらく時間をかければ、絶対もっといい作品が作れる。とか思っちゃう。

翌朝、自転車のカゴにレターパックを入れて、ポストまで行く。

するっと投函……

かと思ったら引っ掛かる。

紙の厚みはクリアした。

犯人はダブルクリップだ。厚みがポストの投函口に引っ掛かる。

全然入らないわけではない、微妙なレベル。

レターパックの外装に穴が開きそう。

やれる。いける。君ならできる。頑張れ。

押し込む。

もし、集荷した郵便局の人が、「この破れはやばい」ってなったら、テープとかで補強してくれるはずだと妄信する。

たまにそういうことしてくれたような気がするから。日本人だから。

そう信じる理由は600円払ってるからっていう消費者根性が9割だけど。

穴開いてるから雨に濡れないように扱わなきゃ、とはちらりと思ってくれるはず。

それ以前にレターパックの防水性能って、ほぼ皆無っぽいボール紙製だから、扱い方を心得てるはず。

送り出してしまった。紙の重さの分軽くなったと思うことにしてる。

打席に立ち、見えない球を打つ。

次は北海道新聞文学賞だ!


#北大 #夏至 #サンクガーデン #日本ファンタジーノベル大賞 #北海道新聞文学賞


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