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マコノヒー主演『ロストバス』は大火災脱出の力作だがドラマ感動度は『オンリー・ザ・ブレイブ』に負ける

アメリカ史上最大規模の山火事から子どもたちを救い出すべく奔走するスクールバス運転手の姿を、実話に着想を得て描いたドラマ。
カリフォルニア州北部の山に囲まれた町パラダイスで、大規模火災が発生。いつも通り子どもたちをバスで学校に送り届け帰路に着いていたスクールバス運転手ケビンのもとに、小学校に22人の生徒が取り残されているという連絡が入る。同僚たちのバスにはまだ生徒が乗っているため、空のバスを運転していたケビンが小学校へバスを走らせ、生徒22人と教師メアリーを乗せて避難場所へ向かう。しかしパラダイスには市街地へ抜ける道路が少なく、どこも大渋滞に陥っていた。迫りくる炎から子どもたちを守るため、ケビンは別の道を選ぶ決断を下すが……。
スクールバスの運転手ケビンをマシュー・マコノヒー、小学校教師メアリーをアメリカ・フェレーラが演じた。「ラン・オールナイト」のブラッド・イングルスビーがグリーングラス監督と共同で脚本を手がけ、製作には俳優ジェイミー・リー・カーティスと「M3GAN ミーガン」のジェイソン・ブラムが名を連ねた

映画.com

グリーングラス監督は手振れ撮影の名手

数週間前、マシュー・マコノヒー主演、ポール・グリーングラス監督の新作『ロストバス』がApple TVでリリースされると聞いた。予告では実際カリフォルニア州で発生した記録的な森林大火災を描いており、『オンリー・ザ・ブレイブ』クラスの傑作ドラマであることを期待して待ち望んでいた。

マシュー・マコノヒーの熱演

特にグリーングラス作品はアクションサスペンスの大家でドキュメンタリータッチの撮影が見事だ。戦闘シーンの迫力や追跡シーンでは臨場感を盛り立てるために手振れカメラによる撮影を用いる。

編集ではカット割りを増やしてテンポよくアクションをまとめる。照明も落としてるので映像がよく見えない。その手法は戦争映画やスパイ映画の撮影に大きな影響を与えたと思う。

たとえば『ジェイソンボーン』シリーズや『グリーンゾーン』、そしてノルウェーの悲惨なテロ事件を描く『7月22日』。いずれもサスペンスアクションの分野で記憶に残る作品であり、いまだに古さを感じない。

火災現場のCGはお見事

リアルの大災害ならではの物足りなさも

実話ベースの作品なのでストーリー展開がややもたつき、迫力不足になるのは否めない。原作本にもとづいているため、エンタメ目的で大げさにトピックを創造するには多少のハードルがあるのかもしれない。

それは原作者との話し合いもあるし、そもそも史上最悪レベルの大火災で多数の被害者がいるのでドラマチックな挿話を挟みにくいのだろう。完全なフィクションと違って、実話モノの難しいところだ。

主役であるスクールバス運転手ケヴィンと家族との複雑な関係。消防隊チーム内の人間関係。現場消防隊の勇気ある活動。政治家や警察幹部、軍隊などの幹部が集まった会議風景など緊張感が漂うシーンがほとんどなかった。

プライバシーの問題で細部を明かせなかったのか、それとも観客の感情を揺さぶるようなセンチメンタルなトピックがなかったのか。
せっかくのBIGテーマのパニックサスペンス作品なのにそれらの点がいまいち物足りなかった。マコノヒーは下層労働者の風体でその悲哀を多感に演じているだけに残念だ。

『オンリー・ザ・ブレイブ』も実話ベース

本作同様『オンリー・ザ・ブレイブ』は実在の大火災をネタとするパニックサスペンスだ。舞台はアリゾナ州のエリート森林消防隊である。部隊内部の確執や師弟関係、恋愛関係なども盛り込み、ドラマ性は高い。
超弩級の山火事を鎮火させるための活躍を描くだけでなく、感動シーンも用意され、泣かせる仕掛けもしている。

『トップガン・マーヴェリック』のジョセフ・コシンスキー監督、ジョシュ・ブローリン、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、テイラー・キッチュらプロ役者陣が顔をそろえ、消防隊カテゴリーの映画の中では『バックドラフト』クラスの傑作だ。

『オンリー・ザ・ブレイブ』も舞台は森林大火災

人間ドラマの掘り下げが弱い

後半スクールバスが炎に囲まれてニッチもサッチもいかなくなるシーンや、次々と炎がバスを取り囲もうとするシーンなどでは、まるで炎が邪悪なテロリストの攻撃のように見える。

グリーングラス監督の演出は戦場で敵と死闘を繰り広げるかのような緊迫感があり、炎の恐ろしさをまざまざと見せつけてくれた。バス内を映すときもケヴィンや女性教師メアリー(アメリカ・フェレーラ)や子どもたちが炎に脅える表情を順番に切り取り、サスペンス感を演出した。
大火災のCGも豪快で潤沢な予算を感じる。

しかし、人間の本性についての掘り下げやドラマ性が弱かった。
大災害からの脱出系映画では、人間の美点や醜悪な部分を描くことがある。たとえば、われ先に救出ボートに殺到したためにボートが重みで沈むとか、他人の持ち物や食べ物を盗んだりして諍いになるとか。

ただ、ひとつだけ心を揺さぶられるシーンがあった。
ケヴィンが病の息子と車椅子姿の母親を救いに行くか、それとも学校に取り残された子どもたちをバスで迎えにいくかを逡巡するシーンだ。

あの数秒間のためらい。つぶやき。迷い。
バス運転手の職務にもとづき、子どもたちを救うべきか、息子と母親をわが家まで助けに行くべきか。
トロッコ問題とも言えるし、最も印象に残る好演出だった。

大災害映画カテゴリーの中で記憶に残るべき傑作とは言い切れないが、はまずまずの良作だ。
Apple TVやNetflixオリジナル作品は「予算をふんだんに使えるものだな~」と改めて感じた。
ラストのワンシーンは偶然にしては出来すぎな感じもするし、創作かな。

評点:★★★★☆(3.8/5.0)

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