運勢を読むことと、人生を聴くこと
カウンセリングと、運勢鑑定の共通点、そして決定的な違い
2026年新書大賞第一位となった『カウンセリングとは何か 変化するということ』(東畑開人著)を読み終えたとき、私は「これは運勢鑑定の本でもある」と感じました。
もちろん、本書は心理臨床をテーマにした本です。しかし、相談者と向き合う姿勢や、人が変わっていく過程を支える考え方には、私が長年携わってきた運勢鑑定と驚くほど重なる部分がありました。

私は運勢鑑定師として、鑑定の前に必ず生年月日を伺います。宿曜では宿を出し、九星気学では本命星・月命星・傾斜宮を確認し、四柱推命では命式を作成して百歳までの運気の流れを読み解きます。判断に迷う場面では易で卦を立てることもあります。
一つの占術だけでは見えないものも、複数の占術を重ね合わせることで、その人の資質や人生のテーマが立体的に浮かび上がってきます。私はこの鑑定法を「ハイブリッド鑑定」と呼んでいます。
ところが、実際の鑑定では、それらの命式や運気の説明をしている時間は意外なほど短いのです。本当に大切なのは、その後に始まる対話だからです。
初めてお会いする方の多くは、緊張しています。悩みの核心を最初から話される方は決して多くありません。だから私は、いきなり答えを伝えることはしません。
まず、その方が安心して話せる空気をつくることから始めます。私は過去20年間、新聞やテレビ、ラジオ、雑誌など様々な媒体で記者として取材を続けてきました。取材相手が胸の内を語ってくださるまで待つ姿勢と、鑑定で相談者を迎える姿勢は驚くほど似ています。
質問を重ねることが目的ではありません。相手が「この人なら話してもいい」と感じられる関係を築くこと。その土台があって初めて、本当の言葉が生まれます。

だから一時間で終わる予定だった鑑定が三時間、時には五時間になることも珍しくありません。その頃には、占いというよりカウンセリングに近い時間になっています。
東畑氏は本書の中で、カウンセリングを「現実を動かす作戦会議」と表現しています。相談者の苦しみを整理し、現実を理解し、これからどう生きるかを一緒に考える営みだというのです。
私は、この表現に深く共感しました。世間では、占いは未来を当てるもの、カウンセリングは悩み相談と思われがちです。しかし、どちらも本質は「答えを与える仕事」ではありません。人生を整理する仕事なのです。
運勢鑑定も同じです。命式は未来を決める設計図ではありません。人生という長い旅の地図です。今どこに立ち、追い風なのか向かい風なのか、力を蓄える時なのか挑戦する時なのか。その「時間の地形」を読むことが、運勢鑑定の役割です。
私はよく「宿命と運命」を分けて考えます。宿命は、生まれ持った資質や人生の土台です。しかし人生は、その上に自分自身が築いていくものです。川の流れを変えることは難しくても、舟の漕ぎ方を工夫することはできます。
運勢鑑定とは、その漕ぎ方を一緒に考える時間なのです。東畑氏が語る「変化」とは、自分を無理に変えることではなく、自分と世界との関係が変わることでした。
私はこの言葉を読んで、「運勢を変える」のではなく、「運勢との付き合い方を変える」という、自分自身が長年大切にしてきた考えと重なりました。
一方で、両者には決定的な違いもあります。カウンセリングは、相談者自身の語りを中心に進みます。心理学や臨床経験を土台に、その人が自ら答えを見つけていく過程を支える専門的実践です。
それに対して運勢鑑定には、命式や易、九星気学、宿曜、四柱推命など、長い年月をかけて受け継がれてきた「時間を読む知」があります。
言い換えれば、カウンセリングは内面から人生を見る。運勢鑑定は時間の流れから人生を観る。方向は違います。しかし目指す場所は同じです。
相談者が、自分らしい人生を歩けるようになることです。ここで私は、以前書いた「聞く」と「聴く」の違いを思い出します。音が耳に入るだけなのが「聞く」。相手の存在そのものに耳を傾けるのが「聴く」。
運勢鑑定で本当に必要なのは、この「聴く」という姿勢です。さらに、右眼の視力を取り戻してから、私は「見る」と「観る」の違いも強く意識するようになりました。
見るとは、目に映るものを認識すること。観るとは、その奥にある意味や背景、人の本質まで感じ取ろうとすることです。
鑑定でも同じです。命式を見るだけでは足りません。相談者の人生を観ることが必要なのです。東洋医学には「望・聞・問・切」という四診があります。望は観察し、聞は声を聴き、問は問い、切は脈に触れる。病気だけを見るのではなく、その人全体を理解しようとする智慧です。
私はこの四診の考え方は、優れた運勢鑑定にも通じると考えています。表情を観る。声を聴く。問いを重ねる。そして、命式という人生の脈を読む。
だから私は近年、東洋運勢学を医療人類学の視点から捉え直すようになりました。医療人類学は、病気だけではなく、その人が生きる文化や価値観、人間関係まで含めて理解しようとする学問です。
運勢鑑定もまた、「運が良い・悪い」という単純な判断ではなく、その人がどんな環境で育ち、どんな価値観を持ち、どんな人生を歩もうとしているのかまで含めて理解してこそ、本当の意味を持つのだと思います。
経験を重ねるほど、私は確信するようになりました。優れた運勢鑑定師とは、未来を言い当てる人ではありません。人生を深く聴ける人です。人を丁寧に観られる人です。
そして、その人がまだ気づいていない可能性を静かに照らし、「あなたなら歩いていけますよ」と伴走できる人です。
未来は、予言されるものではありません。対話の中で形になっていくものです。運勢鑑定もカウンセリングも、人を変える魔法ではありません。変わるのは、いつも本人です。
けれど、人は一人では変われないことがあります。誰かに深く聴かれ、ありのままを観てもらい、自分の可能性を信じてもらえたとき、人は初めて次の一歩を踏み出せます。
だから私は今日も、命式を読む前に、人の人生に耳を傾けます。運勢を読むことは、人生を決めることではありません。人生を聴き、その人自身が自分の未来を選び取る力を取り戻すための、小さな灯をともすことなのです。
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