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松前町(愛媛)に研師(とぎし)が居た

とぎ屋。
#ヒキダシのクーポン紹介で伊予郡松前町をウロウロ中、北川原地区の重信川土手を原付で走ってて見つけた。
その時の印象は「ふ~ん、研屋とぎやさんが松前には残ってるんや」ぐらい。
だが。
後日行ってみたらそこは「職人の工房」だった。
職人はどん欲だった。
包丁・刃物を研ぐ技術を少しでも後進に伝えたい、そして自分もまだまだ学びたい。
「切磋琢磨したいよ」と徳本静夫さん(83)。
うまいこと言いますね、と返すと屈託なく笑う。
(切磋琢磨は切り、研ぎ、打ち、磨くという意味)
だが砥石とぎいしに向かうと眼光が変わる。
シュッ、シュッ。リズムを刻みながらやいばと対話する。

15歳から刃物と向き合ってきた。
内子町石浦(現・同町五百木)出身。
長浜町(現・大洲市長浜町)の木工所に就職、電動ノコギリなどの刃のメンテナンスを任された。
そこで刃物の魅力(魔力?)に引き込まれる。
LPガスの運送業に転職し、高松や松山、松前町と移り住みつつ、刃物の研究は絶えず続けてきた。
自腹で全国の刃物産地を訪れ、各地の研師のやり方を観察した。
今治市の造船所を見学した時は、製造工程を何時間も見続けた。プロペラは、いわば水を切る刃。飽きなかった。

35歳で独立し石油などの運送業を営んだ。
だから今の工房(自宅)は取引先の近く。
研ぎへの情熱は衰えず、予定通り60歳で職業にした。
会社のタンクローリーや自家用ジープ、持っていた船まで知人に譲渡した。
「研ぐのに必要ないけん」

徳本さんの父は山師(林業従事者)でイカダ乗りだった。
内子で切り出した木を10列ほどに並べ、イカダに結い上げ、長浜の貯木場まで小田川を下って運ぶ。
5人ほどで息を合わせ急流を乗りこなす危険な仕事。
幼心に「男冥利に尽きる仕事」と憧れたという。
ナタ、カマ、鳶口とびぐち、ノコなど家には木材を切り出すための道具が所狭しと置かれていた。刃物が多かった。
それが徳本さんの原点。

近所の人は便利だからと持ち込んでくる。
だがコアなファンは全国に散らばる。
リピーターの在日フランス人は「ここじゃないとダメ」と言ってくれる。
他の店で買った包丁を研ぎ直してと持ち込む客もいる。
近隣の同業や刃物屋から相談も多く舞い込む。
刃がない、まったく研がれてない初期状態の包丁を仕入れるのは今は難しいという。
だが鍛冶かじからの信頼が厚い徳本さんはちゃんと買える。
それを研鑽けんさんのため研がせてほしい、と頼んでくる同業者も。

刃ができる前の包丁


ある刃物店が剪定せんていバサミのメンテを引き受けたものの、ネジ(かなめ)の外し方が分からず、頼ってきた。
「ハサミは刃にカーブがあるから(研ぐのは)難しいよ」とことも無げ。
県内外から絶大な信頼を得ている。

工房には砥石はもちろん水研すいけん機をはじめ工具類がずらりと並ぶ。
機械はそれぞれカスタマイズされ、大きさや目やパワーが違う。
不調時は自分で直す。
研ぐ道具、その道具を直す道具。すべて把握している。

そもそも研ぎがうまいとは?
「(研いでいて)刃の裏が分からんといかん」
砥石が接している面は当然見えない。
それでも「どう研げているかは分かる」。
経験と感触で、頭の中で立体像ができている。
さらに言葉を重ねる。
「(触って)はがねの良し悪しが分かること」
どんな職人がどう作ったか、それが想像できるようになるという。

道具を用意して頑張って修行すれば誰でも一定のレベルにはなる。だがそこから向こうは誰でも、というわけではないらしい。
「うまくなる人は顔見たら分かるよ」と笑う。
エスパー(超能力者)と話している感覚だ。

包丁も販売している

研ぎ終えた刃は輝きが違う。
渡された包丁を眺め、刃の辺りを触ろうとすると「向きに気をつけて!」と声が飛んできた。
それだけ切れる、ということ。
「ホラ見てみろ」という表情で徳本さんがキャベツに刃を当てる。
スッと入っていく。
やはり刃物は怖い。

仕事は繊細そのもの。
一般的に包丁は10年ほどでダメになる。
包丁の柄はホウノキが多い。
刃と柄の間に水が入り込んで痛み、抜けやすくなる。
徳本さんは刃を柄に打ち込む時、必ずボンドを付ける。
接着の意味もあるが、防水の役割も大きい。
そんな工夫は積み重ねで身につけた。

出刃包丁を1本研ぐのに(サビの程度にもよるが)20分もかからない。
価格は700円から刃長3センチごとに300円アップ。だいたい1200円ぐらいで収まるという。
ただ、あまりに酷い状態だとハンマーで叩いて真っ直ぐにする工程が必要になることも。その場合はもう少しいただくことにしている。
徳本さんは胸を張る。
「ちゃんと直しますよ。どんな状態でも」

裏の畑にはヤギが居た。
客は刃を見た後、ここで一息つく。
ヤギは試し切りされた野菜をいただける。ちょっとした循環😁

研師として独立した二十数年前、松山・松前周辺には認める職人が3人居たが、今は全員居なくなった。
それに研師自体の数が少なくなった。
「研ぎを残したい」
同業や若い人に知ってもらいたい知識や技がいっぱいある。
徳本さんは交流する機会を心待ちにしている。

とぎ屋とくもとの工房

株式会社 電巧社(東京)の脱炭素経営ドットコムが8月、こんなレポートをアップした。
包丁の使い捨て化を防ごう!「包丁を研ぐ」サスティナブルな選択肢
PDF:「世界に誇る日本文化~包丁を研ぐ~」

包丁はメンテすれば長く使えるが、使い捨てが増えている、と推測されている。
切れ味が良くなれば料理がおいしくなるうえ、わずかでもロスは減る。そして研ぎの技術のニーズは今でも確かにある。

徳本さんの技は循環型社会に必要なはずの「失われつつあるスキル」のひとつなのかもしれない、とヤギをなでながら考えた。

ウェブサイトはこちら。
毎月1~3日はフジ伊予店に出店している。


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