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「手ざわり」が大事 デジタルで挑戦

エンジニア出身ではないからこそ

「全ての人にテクノロジーの力を」
愛媛新聞社などと協業してLINEサービス「#ヒキダシ」を展開しているTECH I.S.(テックアイエス、本社松山市)は企業理念のトップにこの言葉を据えている。
少々大げさ、ではあるが社長の植松洋平さん(36)は大真面目だった。
テックアイエスはデジタル人材を育てる会社。愛媛県内中心に企業などに赴き、講師と少人数の生徒(受講する社員)という体制でデジタルスキルを教える。
単純な少人数スクール…ではない。
植松さんは言う。
「いろんな課題を解決するのにテクノロジーは必要。でも全員が高度なことやる必要はない。みんなで好奇心を持って、少しのスキルを身に付けて『カッコイイ大人』になれれば良いな、と」

デジタルスキルと、それを向上させるもモチベーションが大切と語る植松さん

エンジニア出身ではない。愛媛大学在学中の20代から塾を起業した。子どもや若者と接しているうちに「学校の勉強を教えることで自分は成長できているのか。子どもたちが『カッコイイ大人』になるのか」と悩んだ。
生徒が居ない昼間の時間を使って企業サイトのスマホ対応などのビジネスを手掛けたり、異業種交流会を主宰し、多様な人たちから話を聞いたりした。
ある日、超絶スキルを持ったエンジニアと出会い、考え方が固まっていった。彼は1人で「200馬力ぐらい」の仕事をこなしているように見えた。デジタルスキルを駆使した自動化技術だ。
生活のあらゆるシーンにITが入り込み始めた時代。
勉強で知識や思考を身に付けることも大事だが、これからはスキルだ。
塾生を前に宣言した。
「君たちの面倒を見終えたら塾をたたむ」
卒業生を見送った後、プログラミングスクールを立ち上げた。それが今のテックアイエスの原型だ。

塾での経験が生きているのか、植松さんの話は分かりやすく表情は柔和。だが“青くさい信念”は変わらない。
人がいること、自分たちが地域で暮らしていること。
そこを中心に据えたビジネスを続けている。
「大事なのは手触りとか、人との関わりです」

デジタル人材って何だろう?

経済産業省は2022年12月に「デジタルスキル標準」を策定概要版
曰く、企業がDXを推進するためには(中略)全社的な底上げ、人材要件の明確化、人材確保・育成施策検討を後押し(中略) DXを通じて実現したい経営ビジョン策定 • デジタル技術による社会及び競争環境の変化の 影響を踏まえた経営ビジョン及びビジネスモデルを設計 • 上記を実現するための戦略及びその推進に(以下略)

途中から読む気がなくなるぐらい高度な人材が求められている。
植松さんの定義はもっと簡単だ。
「デジタルを活用できる人」
ただし活用と使用は違う。
YouTubeを見るのと(使用)、動画を作ってYouTubeにアップし会社の商品やブランディングをする(活用)という違い。
それほど難しい話ではなく、今、自分がやってる業務を効率化するために、ちょっとパソコンをうまく使うぐらいで良さそうだ。

が、企業がそれを社員にやってもらうのは簡単ではない。
世の中がDX、ICT、AIと賑やかなため経営者がデジタル人材をほしがる。採用担当者が募集する。結果としてその会社には過ぎたデジタル人材を採用してしまう…ということも。
植松さんは何社かから「高度な人材を雇いたい。紹介してほしい」と依頼を受けたことがある。
それは草サッカーチームがバリバリのJリーガーを連れてくることと同じ。(ちなみに植松さんは松山北高サッカー部OB。30歳までスポーツ少年団でコーチもしていた)
当然、不幸なミスマッチが企業にも入社した社員に起きる。

トッププロが突然草サッカーチームに参加した図(AIで生成)

「身の丈にあったデジタル人材、その会社に何がどの程度必要なのか見極めることが大切です」
そのためにまず、依頼を受けた会社の中の人たちのデジタルスキルとともに、調べる重要項目がある。マインドスコア(モチベーション)だ。
一見デジタルと無関係なアナログっぽい要素だが。

モチベーションが超重要

依頼された企業の社員にアンケートして分析する。
EXCELが使えるか、マクロが書けるか、WEBサイトが作れるか、いろいろなデジタルスキルの有無が評価軸となる。
そしてもう一つの大きな評価の軸はモチベーション=やる気だ。
スキルが少々あってもやる気がなければ次のステップには進めない。
当たり前のようでいて、ここをきちんと抑えているデジタル人材育成はまだまだ多くない。だからこそ、成果を出している。
2025年までに県内だけで54社約6000名、過去1万人以上をアンケートで調べた。

現在のスキルとモチベーションの2軸で社員のレベルを0~5の6段階に分ける。
植松さんが狙うのは研修でレベル1の人を2~3にすること。
非IT企業の経営者と話していてもMicrosoft Officeを使いこなせる社員を増やしたいなど、レベル2~3で十分なケースが多いという。
ただ、ある程度モチベーションがないとレベル1~1.5の人を2に引き上げることはできないという。

やる気が十分でない社員に、講師1人対数十人の研修を受けてもらってもスキルは上がらない。受講してもそれが役に立たないまま放置されれば、モチベーションが上がらないから成長は止まる。
テックアイエスでは受講者5人に1人の講師をつける。
受講生の誰かがカリキュラムの途中で次に進めなくなると、できるまでやってもらう。他の人も次に進めない。
そこは厳しさもある。ある種強制的なスキルアップという見方もできる。
だが最初は強制でも、できた瞬間に喜びがある。
モチベーションが上がる。

「複雑化する社会こそ、人とのつながりが大切」

会社員が目の前のデジタル的な課題を解決するには自分でやるしかないことが多い。社内だけでは難しい。まずヒントがない。
そこで背中を押すのがテックアイエスの役割だという。
会社の外から課題解決に必要なスキルの入り口を示す。AIを使えば数時間の業務を数十分で終えるような効果を経験してもらう。小さくても成功体験があれば、実際の業務でスキルを生かす人は確実に増える。
1人1人に向き合ってスキルや考え方を伝えていかねば効果は薄い。
1対数十人のeラーニング(遠隔・動画学習)では効果がないことを分かっている中小の人事担当者も増えているという。
学ぶのがデジタルでも、やる気というアナログ要素がカギをにぎっていることを多くの人は気づき始めている。

テックアイエスの数時間の研修を受けることで社内の小さな課題を解決することができるようになる。前向きになる。
植松さんは「それは絶対できるようになる」と言葉に力を込めた。
社員の多くがそういう意識を持てれば会社は変わる。
そんな会社が増えたら地域や社会もーー。

常に人を真ん中に

テクノロジーは常に変化する。
TECH I.S.の社名はテクノロジー・イノベーション・スクールの略。
かつ、Technology is Xエックス(何か)という意味も持たせている。
Xはかつてエジソンの発明だった。
Xが重工業の時代もあった。
今のXは、ITやAI。
植松さんは今、デジタル人材育成を中心にテクノロジーを広めている。
だがXは刻々と変わる。
そんな変化に対応できる企業になる、という思いを込めている。

テクノロジーが高度化し続ける時代だからこそ、アナログやフィジカル(身体性)を大切にすることが重要になってきていると感じる。
植松さんは最近田畑をプライベートで借りて農業にハマっている。そこでの人との交流、できた作物を食べることで「幸福度が増してます」。
テクノロジーと身体的な幸福、両方を追求する「カッコイイ大人」を増やすのがテックアイエスの役割だと改めて任じている。

最後にTECH I.S.という社名の意味をもうひとつ。
I(アイ)を真ん中に置く。
常に人を真ん中に。



このノートでは#ヒキダシに関わる人たちを紹介していきます。
今回は第2回でした。㋶


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