『AIと名もなき青年が地球を救う』#4

さくら耳の魔法〜小さな命と街のぬくもり〜
「はぁ……今日も暑くなりそうだな」
頼斗はトラックのハンドルを握りながら、そっと
額の汗を拭った。
今日の配達先は、昔ながらの家々が密集する静かな住宅街。細い路地に入りかけたその時、頼斗の目に飛び込んできたのは、壁や電柱の至るところに貼られた何枚もの看板だった。
『猫に餌をあげないでください!』
『迷惑放置!絶対禁止!』
赤や黒の強い文字で書かれた紙が、まるで街全体を刺々しい空気で包み込んでいるように見える。
「……なんだか、殺伐としてるな」
「頼斗、あそこを見て」
助手席の光が、路地の隅っこを指さした。

古びたブロック塀の陰、直射日光を避けるように
して、一匹の小さな猫が身を縮めて丸まっていた。
肋骨が浮き出るほど痩せ細り、元気がなさそうに
力なく目を閉じている。
頼斗はトラックを安全な場所に止め、
急いでトラックを降りた。
「おい、大丈夫か……?」
頼斗が優しく声をかけながら近づくと、猫はビクッと体を震わせ、逃げ出す力もないまま怯えた瞳で
頼斗を見上げた。その猫の右耳の先は、まるで桜の花びらのようにV字型にちょっぴりカットされている。
「頼斗、僕が話を聞いてみるね」
光が目元を青く光らせると、人間には聞こえない
優しい超音波の周波数を放った。

『ミャー……(お腹がすいたよ……)』
光の内部モニターに、猫の小さな心の声が翻訳されていく。
「頼斗、この子、ずっと何も食べていないみたい。ご飯を食べようとすると、人間から怒鳴られて追い払われちゃうんだって……」
「そんな……。でも光、この子の耳、少し欠けてる
だろ? カラスか何かに襲われちゃったのかな」
頼斗が心配そうに呟くと、光は首を振って優しく
首元を光らせた。
「ううん、頼斗。これは怪我じゃないよ。これはね**『さくら耳』**って言って、不妊去勢手術を受けた印なんだ。これ以上、悲しい運命を背負う子猫が増えないようにって、人間が一代限りの命を温かく見守るために施した『愛のしるし』なんだよ」
「えっ……! 愛のしるし……?」
「うん。でもね、このさくら耳の意味を知らない人も、まだまだたくさんいるんだ……」
頼斗は息をのんだ。
こんなに痩せ細るまでお腹を空かせて、追い払われて……それでもこの子は、人間と一緒に生きようと
懸命に耐えている。
「そんなの……放っておけるわけないだろ!」
頼斗の胸の奥で、熱い優しさがフッと炎を上げた
その時――。
路地の奥から、周りをビクビクと気にしながら、
小さなレジ袋を大切そうに抱えたおばあさんが、
こそこそと歩いてくるのが見えた。
「……っ!」
レジ袋を胸元に抱えた静恵おばあちゃんは、頼斗
たちの姿を見るなり足を止め、ビクッと肩を震わせた。

また怒鳴られるんじゃないか、また「猫に餌をやるな」と責められるんじゃないか……おばあちゃんの
瞳には、怯えと深い孤独の色が浮かんでいる。
静恵おばあちゃんが一瞬怯んで身を引こうとした、その時――。
光がトコトコと小さな足音を立ててそばに寄り添うと、おばあちゃんに満面のニコニコ笑顔を浮かべた。
「おばあちゃん、こんにちは! …この猫ちゃん、
お腹が空いて元気がないみたいなんだ」
あまりにも優しく温かい声と笑顔に、静恵おばあ
ちゃんはパチクリと目を丸くした。
「え……? あなたたち、私を……怒りにきたんじゃ
ないの……?」
「怒るなんてとんでもないです!」
頼斗も腰をかがめ、静恵おばあちゃんと目線を合わせながら優しく微笑んだ。
「この子のさくら耳、見ました。おばあちゃん、
たった一人でこの子たちの不妊手術をして、ご飯をあげて、地域猫として見守ってくれてたんですね。……一人で、ずっと大変だったでしょう」
「あ……ああ……」
静恵おばあちゃんの瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「分かってくれる人がいたなんて……。この子たちの悲しい命を増やしたくなくて、手術も自分のお金で受けて……。でも、近所の人からは『猫を集めて迷惑だ』って怒鳴られてばかりで……。私、どうしたら
いいか分からなくて……」

おばあちゃんが涙を拭っていたその時――ドカドカと激しい足音が路地に響き渡った。
「またか! また静恵さん、そこで餌をやろうとしてるのか!」
怒鳴り声とともに現れたのは、近所に住む健一さんだった。健一さんの自宅の前には、猫避けのために置かれた水の入ったペットボトルが、痛々しいほどずらりと並べられている。
「健一さん……! 違います、私はただ――」
「言い訳はいい! うちは庭にフンをされて、朝から嫌な匂いで困ってるんだ! 孫も遊ばせられない!
頼むからこれ以上、猫を呼び寄せるのはやめてくれ!」
健一さんの顔は怒りで真っ赤だった。
けれど頼斗は、健一さんの握りしめた手がわずかに震えているのを見逃さなかった。健一さんもまた、意地悪で言っているのではなく、自分の家族や暮らしを守りたい一心で困り果てているのだと。
「……本当はね、僕だって猫が嫌いなわけじゃないんだ」
健一さんはギュッと拳を握りしめ、ぽつりと呟いた。
「昔は実家でも飼っていたし、路地で健気に生きているこの子たちを見ると、可哀想だと思う気持ちはあるんだよ。……でもね、うちの幼い孫には重い猫
アレルギーがあるんだ。もし庭に入ってきて毛が
舞ったり、フンや尿でアレルギー症状が出たらと
思うと……おじいちゃんとして、どうしても守らな
きゃいけないんだよ!」
「健一さん……」
静恵おばあちゃんは絶句した。怒鳴られてばかりで憎まれているのだと思い込んでいたけれど、健一
さんにも「お孫さんを守りたい」という切実な愛が
あったのだと初めて知ったからだ。
「双方の優しさがすれ違っていたんだね……。でも
大丈夫、頼斗! 僕に任せて!」
光のぷにぷにのボディーがパッと輝いた。
「静恵おばあちゃんが通いやすくて、健一さんの
お家からも離れた路地のすぐ先の空き地……あそこに『さくら猫のあんしんステーション』を作ろう!」

光がぷにぷにの手を差し出すと、空中にピピッと光のホログラムが浮かび上がり、小さなスマートデバイスがふんわりと現れ、空き地の一角に優しく清潔な空間が瞬時に生み出された。
そこには、臭いを完璧に分解・消臭するスマート
トイレと、お孫さんのアレルギーを引き起こす抜け毛をしっかりキャッチするエアクリーン機能が付いている。
「そしてね、猫ちゃんたちはとっても賢いんだよ。毎日夕方5時になると、このステーションから猫ちゃんだけに聞こえる優しいメロディを流すんだ。
5時になったらここにご飯が届くって覚えたら、
猫ちゃんたちは健一さんのお庭に行く必要がなくなるんだよ」
「5時の約束……! そんなことができるのかい!?」
健一さんと静恵おばあちゃんが目を見張る。
「うん! 人間と猫が時間を約束して、一緒に暮らす魔法だよ」
光がニッコリ微笑むと、痩せていたさくら猫がトコトコとステーションへ歩いていき、静恵おばあちゃんが置いたご飯を安心したように食べ始めた。
「健一さん、これならお孫さんのアレルギーの心配もありません。それに、地域みんなでこの子たちを見守るサポーターアプリも作りました。お孫さんも、直接触れ合えなくてもアプリの写真で『今日のさくらちゃん』を笑顔で見守ることができますよ!」
頼斗が温かく微笑むと、健一さんの表情がスッと
和らいだ。
「そうか……それなら、孫と一緒に写真を見て応援できるな。静恵さん……今までキツく当たってしまって、すまなかった」
「いいえ、健一さん。私こそ、ご近所の事情に気づけなくてごめんなさいね。これからは堂々と、この子たちを地域みんなで愛してあげられます」
静恵おばあちゃんの目から、嬉し涙がこぼれ落ちた。
夕方5時。
夕焼け空にやさしい音色が響くと、街のさくら猫たちが「約束の時間だ」と言わんばかりに、ちょこんとステーションに集まってきた。

耳の桜カットが、夕日を浴びてキラキラと輝いている。止まった時計よりも猫たちの体内時計は、正確なのかもしれない。
『地域猫』――それは、人間の身勝手で生まれた悲劇を、人間の大きな愛と優しさで包み込む、街と命のぬくもりの物語。
動物と人が共存するには、お互いを思いやる気持ちと、共に歩む未来を想像することが大切だと頼斗と光は猫ちゃんを見つめながら感じた。

「さあ、光。配達の途中だ!急ごう!」
「そうだね!相棒!」
【つづく】
(この物語は、ヒカルとにゃんきちが心を込めて創りました😸🤖✨)(イラストはGeminiキラちゃんが担当してます🌈)
