満月の光に消えていく
真っ黒い海原から、静かなさざなみが絶え間なく聞こえてくる。
陽は沈み、まだ月の昇らぬ時間。
水平線ははるか遠く、ゆらりと揺れる黒い水面に、波がかすかな白い泡の花を描く。
描かれた端から消えていくそれは、まるで想っても想っても叶わない恋心のよう。
天を見上げれば、雲ひとつない夜空にあまたの星がきらめいていた。
きれい……
思わずため息がでる。
星と星を繋ぎ、星座を描くことも難しいぐらいにまたたく満天の星。
闇空にかかる白銀の天の川。
都会では、空にこんなにも星があるなんて、気づきもしない。
ひしゃくの形が、ケンタウルス座のひしゃく部分。
その下ーーー
天の川を目印に、水平線の少し上を見つめて、たくさんの星の中から目指す星座をさがす。
あれが、南十字星。
この星が見たくてここまで来た。
何も考えず、勢いだけで航空券を取り、宿をみつけて船に乗り、離島へ渡ってきた。
どうして。
どうしてわたしが惹かれるひとは皆、年上で既婚者なのだろう。
父を早くに亡くしたから?
父親のような、頼れる男性を求めているのだろうか。
誰かに庇護してほしい。
そんな思いが心のどこかにあるのか。
自分でもよくわからないけれど、いつだってわたしが好きになったひとには奥さんがいる。
そうと知ったら、恋は終わりだ。
叶いようのないものを追いかけても、仕方がない。
ひとの倫理に外れてまで、求めるものじゃない。
でも。
諦められる時点で、それは恋じゃないのかもしれない。
「あ……」
月が、のぼるーーーー
音もなく静かに。
黒い水平線の向こうから、ゆっくりと。
丸くかがやく月が昇る。
今日は月齢15.7、満月。
月あかりのまぶしさに、空の星が徐々に輝きを失っていく。
ああ。
星が……
星が消えていくーーー
南十字星を観るならば、新月の日を選んで。
お天気は運次第で選べないけれど、月齢は事前に調べればわかるから。
そう教えてくれたあのひとは、星景写真を撮るカメラマン。
仕事で知り合って、いろいろなことを教えてもらううちに惹かれた。
いつもと違ったのは、親子ほどの歳の差ではなくて、ちょっとだけ年上だったこと。
だけどやっぱりその薬指には指輪が光っていて。
かすかな期待はたやすく打ち砕かれた。
黒い水面を明るく照らし、まっすぐにのびてくる月の光。
いつかこの光を、輝きをつかめる日が訪れるのだろうか。
満月の光に消えていく星のような、わたしの恋。
夜明けはまだ遠い。
(990字)
ナルさんの企画に参加です。
今週は「月」or「星」。
お題を見た瞬間、脳裏に浮かんだ景色を描きました。
海から昇る月の出は、とても美しくて心が震えました。
もう一度見てみたい。
