見出し画像

落としものと恋心


あれ?どこいった?

スカートの右ポケットに手を入れて中をさぐり、左もごそごそ。
そこにあるはずのものが、入っていない。


まさか落とした?
あれ、お気に入りなのに。
ヤダもう。
最後に使ったのいつだっけ?
トイレに行って、会議に出て。
あー。会議室かな。
システム見るか。


社内の落とし物は、総務に届けば社内システムの落とし物一覧に載る。

誰かが拾ってくれてたら見つかるハズ。

一縷の望みを胸に自席へ戻り、パソコンのスリープモードを解除する。
パスコードを入力して、社内システムにログイン。
総務部のタブから落とし物一覧を選択した。

ハンカチ、タオル、髪留め、スマホ、Bluetoothイヤホン、ボールペン、万年筆、タブレット、傘、老眼鏡、衣類、スカーフ、ポーチ。

ありとあらゆるものが、特徴と拾得場所つきでリストになっている。

なんでスマホとかタブレットをなくして、気がつかないんだろう。

膨大な落とし物の数に驚いて日時でソートしてみれば、上から2番目にそれはあった。

タオルハンカチ リラックマ柄 第三会議室

「あったー」

思わず口に出して、肩の力が抜ける。

良かった。
あれはいただきものだから、なくしたくなかった。

しかし。

落とし物の受け取りは総務部。

総務部には、あのひとがいる。

去年、社内プロジェクトで一緒に働いた時は、係長だった。
成果を認められて課長に昇進。総務部に異動した。


背が高くて、明るくおおらか。
頼りになる人。
そんな第一印象通り、トラブル対応にも声を荒くすることなく、的確な指示で解決していった。

素敵だなあと思ったし、仕事がとてもやりやすくて、楽しかった。
プロジェクトが終わって解散した時は、残念で泣けた。
そのあとの人事異動で、部署まで離れてしまい、昇進はめでたいことだからお祝いは伝えたけれど、正直ひどく落ち込んだ。

ああ、わたし、このひとが好きなんだ。

自覚したのはあの時だ。

だけど、彼の左手薬指にはプラチナの指輪がきらりと光っていた。
奥さんも素敵なひとらしい。
自覚するなり失恋決定。

でもさ。想うのは自由でしょ。

仕事にだって、潤いは必要だもん。

推し活よろしく、手が届かないひとを遠くから眺めて、心を躍らせていれば、憂鬱な日もなんとかなる。

さてと。
引き取りに行ってこよう。
なくした時はどうしようかと思ったけど、彼の顔が見られるチャンスと思えばラッキーだ。

彼からもらったタオルハンカチを落としたなんて、知られちゃうのは気まずいけれど。


(1000字)

#片想い文芸部
#33日ライラン



ナルさんの企画に今週も参加です。
リラックマ柄のタオルハンカチ、リラックマ好きなのに持ってないや。

いいなと思ったら応援しよう!