BLACKPINKとBLINKのあいだ ― “in your area”の意味
Prologue - JUMP!
2025年7月。
BLACKPINK、3年ぶりの完全体。
私はずっと、不意に数えていました。
そろそろかな、まだかな、と。
新曲のタイトルは「JUMP」。
ティザーが公開されてから、何度も再生しました。
ほんの数秒なのに、何かが違う。
ただ強いだけではない。
進化して、戻ってくる気配。
けれど、正直に言えば、少し怖さもありました。
グループとしての最後のM/Vは
「Shut Down」でした(THE GIRLSを除く)。
あのM/Vには過去のモチーフが散りばめられ、
どこか総集編のような空気があったからです。
もちろん、圧巻の映像でした。
でも、「これで一区切りなのかもしれない」という、
言葉にしてしまうのが怖い予感が確かにありました。
SNSで同じような投稿を見るたびに、
「解散…じゃないよね」と
私は少しだけソワソワしていました。
ソロ活動は華やかでした。
4人はそれぞれ、世界の舞台で成功を収め、
ラグジュアリーブランドの顔になり、
自分の名前で評価されていった。
誇らしくて、頼もしくて、眩しい。
でも、
私たちは、なにか落ち着かない気持ちで、
「BLACKPINKはいま、どこにいるのだろう」と
考えていたのではないでしょうか。
4人はいる。
ニュースもある。
インスタを開けば、
毎日のように姿を見られる。
だけど…
待っていたもの
あの4人が横一列に並んだときの感覚が忘れられない。
限界まで練習を重ね、息を揃えて立つ4人。
ステージに登場したときの後ろ姿。
……
2025年7月11日(金)13:00(日本時間)、
「JUMP」のM/V解禁。
仕事の合間に、ちょっと呼吸を整え、再生ボタンを押しました。
音が鳴る。
ビルの上に4人が立つ。
強い。
鋭い。
洗練されている。
演出も、ぎりぎりまで攻めている。
これはすごい。
鳥肌が立ちました。
でも、
私はまだ待っていました。
もっと別の何かを。
アップテンポで駆け抜けていく。
これまでのBLACKPINKの曲調よりも
明らかに速い。
「今回は、言わないのかもしれない」
一瞬、そんな考えがよぎりました。
4人が飛ぶ。
日が落ちゆく都市の上空、
彼女たちの姿が消え、
ピンクの光がもれるライブ会場が現れ、
完璧です。
隙がない。
美しい。
それでも私は、心のどこかで、
ずっと確認したかったのです。
私たちの中に、
まだいるのかどうかを。
3年ぶりの言葉
ハート型の円盤のようなステージに4人が立ち、
空気が、少しだけ重たくなる。
私は息を止めていました。
そして、
あの間。
ほんのわずかな、ため。
一瞬、音がすっと細くなり、
少し低くて、
確信に満ちた響き。
―― “BLACKPINK in your area”
「あ……」
その瞬間、
目頭があつくなりました。
自分でも驚くほど自然に
理由を考えるまでもなく、
戻ってきたという実感が。
BLACKPINKは期待を裏切らない。
やっぱり言ってくれた。
わかってくれている。
私は、熱狂的なファンというわけではありません。
むしろ最初は、ブランディング研究の対象として
彼女たちを見始めました。
今も、すべてを追いかけているわけではない。
ライブに行きたいと思いながらも、
高倍率に怯んで断念しています。
どちらかといえば、
少し引いた距離から、
ブランドとしてのBLACKPINKを見つめてきた人間です。
それでも、
気づけば6年以上、
ほぼ毎日のように彼女たちが生活のどこかにいました。
そして、あの一言で、
胸の奥にあった曖昧な不安が、静かに溶けました。
“BLACKPINK in your area”
なぜ、たった一言で、
こんなにも安心するのでしょうか。
なぜ私たちは、BLACKPINKに涙を流すのでしょうか。
本稿では、
その「涙」が生まれる局面を丁寧に見つめます。
BLINKが涙する場面。
4人が涙する場面。
そのとき、何が起きているのか。
なぜ、その瞬間に、
感情は結晶のように固まるのか。
私は、感動の渦の中に溶けきるのではなく、
半歩だけ距離を取りながら、
その美しい現象を考えてみたいと思います。
なぜなら、心がふるえた瞬間に、
BLACKPINKというブランドが、
何度も、何度も立ち上がっているからです。
理解するまでにとても時間がかかりました。
でも、ようやく今、
「わかった」と感じています。
これは、エンタメ史のなかでも特別な存在であるBLACKPINKについて、
6年以上考え続けてきた記録です。
BLINKの心のどこかに、
そっと触れられるように。
その手が作るハートの意味を探り、
できるだけ正確に、誠実に、言葉を編んでいきます。
どうぞ、最後までお付き合いください。
Part 1 - ジスの不在
2023年6月3日。
大阪・京セラドーム。
BLACKPINK WORLD TOUR [BORN PINK] JAPANの来日公演でした。
本来なら、4人で立つはずだったステージ。
けれど公演直前、一つのニュースが流れます。
ジスが新型コロナウイルスに感染し、
京セラドーム公演への不参加を余儀なくされた、と。
私は、もともとこの公演をぜひ見に行きたいと思っていました。
京セラドーム公演はそれまでに2回行われており、
BLACKPINKにとって記念碑的な場所だからです。
しかし結局、仕事の都合でまたもや行くことはできませんでした。
だから配信で観ようと思い、
U-NEXTを契約し、当日を待っていました。
そこに届いた、「ジス不参加」の知らせ。
正直に言えば、最初に出た言葉はこれでした。
「ああ、そっか……」
少し間を置いて、もう一つの言葉が浮かびました。
「4人じゃない」
がっかりしました。
それは、当然です。
だってBLACKPINKは、
4人で完全体のイメージが、あまりにも強いグループだから。
体調管理も徹底していて、プロとしての完成度も高い。
どんな舞台でも崩れない。
だからこそ私は、
これまでほとんど想像したことがありませんでした。
「メンバーが欠けるBLACKPINK」
という状況を。
でも、
そのあとすぐに別の感情が湧いてきました。
興味でした。
どうやるのだろう
BLACKPINKのライブは、とても緻密に設計されています。
歌割り。
フォーメーション。
カメラワーク。
すべてが4人を前提に作られている。
だから私は思いました。
どうするんだろう。
誰かがジスのパートを歌うのか。
声質的には誰が一番近いのだろう。
それとも構成自体を変えるのか。
でも、ツアーの途中です。
時間があるとは思えない。
つまり、本来の設計を変えることは、ほぼ不可能。
だとしたらどうやってこのステージを成立させるのか。
ファンとしては心配でした。
でももう一人の私は、
ブランドとして、このピンチをどう乗り越えるのかに
興味を持っていました。
画面の前で
そして、配信の時間。
見慣れたBORN PINKツアーのオープニング。
演出も、音も、
YouTubeで何度か見ていた構成です。
そしてメンバーが登場しました。
……
3人。
「ああ、やっぱりいない」
事前に知ってはいたものの、
実際に目にすると寂しい光景でした。
京セラドームの数万人の観客も
配信を見ている人たちも
きっと同じことを思っていたはずです。
ジスはいない。
それは、初めてのBLACKPINKでした。
How You Like That
そして1曲目。
「How You Like That」は、
私にとってBLACKPINKを強く意識した曲です。
イントロ。
ステージ中央。
ジェ二が歌い始めます。
目が強い。
覚悟のようなものが画面越しにも伝わってきました。
そして、
次は――
本来なら、ジスのパート。
ほんの一瞬、
ステージの空気が、少しだけ静かになりました。
観客も、
配信で見ている私も、
同じことを思っていました。
ここ、どうするんだろう。
京セラドーム全体が、ほんの一拍だけ息を止めたように感じました。
その瞬間、
ジスの声が、いつも通りに流れました。
特別な演出ではありませんでした。
3人は、フォーメーションも変えませんでした。
いつもの位置。
いつもの動き。
そこにジスがいる前提で。
まるで4人でステージに立っているかのように。
私は、その様子に胸の奥が締めつけられました。
そして浮かんだ言葉は、
いないのに、いる。
不在が描き出す感覚
3人は空白を埋めようとはしませんでした。
誰かが代わりに歌うわけでもない。
ただ、そこにいる前提で歌い、踊る。
ロゼは、いつも以上に丁寧で繊細に見え、
リサは、笑顔を絶やさずキレのある動きをし、
ジェニは、強さと少し憂いのある表情で、
これまでと同じように、
まるでそこにジスがいるかのように進行しました。
その様子を見たとき、
私は「欠けている」とはほとんど感じませんでした。
むしろ逆でした。
ああ、いるんだな。
そう思ったのです。
約束と気持ち
ジス本人も、公演前にメッセージを残していました。
以下は、彼女のインスタグラムのストーリーズに
日本語でアップされたコメントです。
「約3年ぶりに大阪にいるBLINKと会えるこの瞬間をすごく待っていましたが、このような形で挨拶することになり、みんなに申し訳なく悲しい気持ちです。この前のサイン会で、大阪で会いましょうと言ったファンの皆様にも私が必ず会いに行って挨拶すると約束したのに、約束を守れなくて心が痛いです」
続けて、
「いつもBLINKと一緒にいることを忘れないでほしいし、私が急に参加できなくても、もっと頑張ってステージパフォーマンスしてくれるメンバーたちの大きな応援と力になってください!そしてBLINKが幸せな思い出をたくさん作ってほしいです!」
そう呼びかけ、
最後に、
「私も早く回復して、良い姿で必ずまた会いにいきます。いつも応援してくれてありがとう。愛してます!BLINKみんな元気で早く会いましょう」
と書かれていました。
約束と、その気持ち。
ジスの想いが、
いつも以上にわかる気がしました。
FLOWERの時間
「Pink Venom」の後、
本来なら、ここはジスのソロステージでした。
曲は「FLOWER」。
けれどその日ステージに現れたのは
過去のライブ映像でした。
スクリーンの中で彼女が踊っています。
「キム・ジス!」
恒例の掛け声(合いの手)が響きわたり、
京セラドームが一つになりました。
何万人もの声で。
ジスがいないステージで、
ジスの歌が一番大きく響いた瞬間でした。
そして不思議なことに、
そのとき、「ジスがいない」という感覚が消えていました。
この夜、
いちばん強く存在していたのは、
ジスだった。
SNSでも多くの言葉が流れていました。
“今日は3人のBLACKPINKだけど、ジスちゃんも「いっぱい楽しんでね」って思ってくれてる気がして頼れるオンニがいないぶん、BLINKがもっと声出さなきゃって思ったよ”
“ずっとジスちゃんに会えるの楽しみにしてたから正直さみしかった。でも、また日本に来てくれるって、ちゃんと信じられる”
“ジスオンニって、本当にみんなに愛されてる”
“京セラで、もう今日は出ないと思ってたジスちゃんがスクリーンに映って、気づいたら泣きながら名前呼んでた”
“It almost felt like Jisoo was still there in those Osaka videos.”
(大阪の映像を見ていると、そこにまだジスがいるような気がする)
“You can tell how much everyone missed Jisoo.”
(みんながどれだけジスを恋しく思っていたか伝わってくる)
その夜、
「いない人の歌」が会場を満たしていました。
そして、公演終盤の「Forever Young」。
冒頭のジェニのパートの後、
3人が叫びます。
「ジスー!」
ジスのパートで歌声が流れ、
ロゼは笑顔で「FLOWER」の動きをしました。
私はそのとき、あらためて4人の絆を感じ、
とても嬉しくなりました。
完璧ではない夜
BLACKPINKはきわめて完成度の高いグループです。
ステージも、ビジュアルも、パフォーマンスも、
ほとんど完璧に設計されている。
でも、あの日は違いました。
欠けている。
4人のうち、1人がいない。
それでも3人はステージに立った。
しかも
「3人でやります」
ではなく
「4人としてやります」
という姿勢で。
完璧ではない。
でもだからこそ美しかった。
彼女たちの新たな一面、
それは
脆さ、儚さ、
いつもと違う強さを見せてくれました。
花が咲いた瞬間
ツアーでは、メンバーが客席をバックに記念写真を撮るのが恒例です。
その日も京セラドームは
ピンクの光で満たされていました。
3人が並びます。
でも、ほんの少し間が空いています。
ジスの場所。
そして3人は同時にポーズを作りました。
「FLOWER」のサビの振り付け。
花がパッと咲くポーズ。
不思議な光景でした。
ステージの上には花はありません。
でも、その瞬間、
「咲いている」
そう思いました。
ジスがいない夜に、花が見える。
何度も。
そのとき私は、気づきました。
ああ、ジスはこのステージにいたんだ、と。
さらに、
アンコールの「AS IF IT’S YOUR LAST」。
3人は日本語で
「おおさか、あいしてるでー」とお別れの挨拶をし、
ジェニは少し涙を浮かべながら、言いました。
「ジスオンニ、見てるー?」
そして、リサがジスコールをします。
「ジス、ジス、ジス!」
あの瞬間、
確かにみんながジスの笑顔を見た気がしました。
心の中に住みはじめる
BLINKはBLACKPINKと一緒に暮らしているわけではありません。
同じ街にいるわけでもない。
直接会うこともほとんどない。
それでも私たちはこう感じています。
BLACKPINKは自分の中にいる。
通勤中に曲を聴く。
疲れた夜にM/Vを見て、
明日も仕事がんばろうって思う。
SNSを開くと4人の姿がある。
そうしているうちに、
彼女たちはどこか
自分の内側に住み始める。
だから、あの日、
京セラドームで起きたことはとても象徴的でした。
実際にはジスはいない。
でもステージは「いる前提」で進んでいく。
つまり、BLINKが普段感じていることが
そのまま可視化され、
見えた瞬間だったのです。
仕事帰りの電車の中、
イヤホンで「WHISTLE」を聴くとき。
寝る前、
「Lovesick Girls」のDANCE PRACTICEを見るとき。
インスタで目にする4人の笑顔に癒されるとき。
私たちは何度も感じています。
いないのに、いる。
10年前から
昨日も
今日も
明日も
ずっと、いてくれる。
だから
涙が出るのだと思います。
いないのに、会えた
あの日、
京セラドームには一つの花が咲いていた。
それはステージの上ではなく、
BLINKの心の中に。
そして私は、
一つの疑問を持つようになります。
なぜこのグループは、
ここまで世界を動かすのだろうか。
心がこんなに揺れるのはなぜだろうか。
その答えはBLACKPINKの音楽の中にありました。
そして、
世界と共鳴するとき、
必ずこの言葉があります。
“BLACKPINK in your area”
いないのに、会える。
だから、
BLACKPINKは
特別なブランドなのです。
Part 2 - STAYの合唱
BLACKPINKのライブで、
多くのBLINKが泣く瞬間のこと。
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