短編小説 | 女性専用車両 〜『彼女が「花園」へ消えた理由』〜
【本小説は実話をリメイクしたものです】
お盆休み。
東京へ向かう電車の中。
席が一つ空いたので、僕は彼女を先に座るように促した。
彼女はカバンを胸に抱えながらアイコンタクトをして席に腰掛けた。
カタンコトンと音を立て、電車は数駅ほど走った。

彼女は周りを気にする様子もなく、スマホで何かを調べているようだった。
しばらくすると、僕のスマホにメッセージが飛んできた。
〈女性専用車両に乗ってみたいの。〉
僕はスマホでアプリを開き、不思議に思いながら彼女に返信した。
〈え?でも、せっかく座れたんだから、東京までそのままでいいんじゃない?〉
僕は大きな荷物を抱えている彼女の身体への負担を心配して言ったつもりだった。
彼女は黙って、スマホの画面を見ている。
〈一度乗ってみたいの…私の席はあなたが座ってね。〉
〈わかった、好きなようにすればいいよ。無理はしないでね。〉
僕は彼女を一瞥しながら送信した。
彼女は、カバンにスマホをしまい、電車が停車するタイミングを見計らって先頭車両へと向かっていった。
🚃 🚃 🚃
僕は空いた席に一人で座り、のんびり音楽を聴いた。
旅に出る時は、いつもこの曲から始まる。
何もないな 誰もいないな
快適なスピードで 道はただ延々続く
話しながら 歌いながら
カレンダーも 目的地も
テレビもましてやビデオなんて
いりませんノンノン僕ら
退屈ならそれもまたグー
女性専用車両、そんな花園が電車の中にあるのか。
しかし、なぜ急にそんな事を言い出したのだろう。
流れる景色をぼーっと眺めたあと、スマホでAIに質問してみる。
彼の答えはこうだ。
①とにかく女性専用車両に乗ってみたかった
②たまたま空いていて快適そうだった
③何か女性専用車両に乗る必要・安心感があった
④あるいは……単純に一人になりたかった?
ドキッとした。
もしかしたら、単純に一人になりたかったのかもしれない。
僕が自分の事ばかり話すから?
興味のない話で、疲れさせてしまったのかもしれないな。
急に不安に駆られ、彼女にメッセージを送った。
〈座れた?〉
〈座れたよ。半分の人が、ミニ扇風機してるから、こちらは良い香りで満ちてるよ〉
〈そっか、良かったね。〉
僕はスマホをしまうと、あることに気がついた。
僕、臭かった?
夏だから男の汗の匂いに耐えられなかった?
昨日ラーメン食べちゃったし、口臭か!?
汗拭きシートをカバンから取り出し、Tシャツの中でモゾモゾさせた。
僕は少し落ち込みながらも、自分の身体の匂いをチェックしていた。
くんくん。
🍜 🍜 🍜
しばらくすると、彼女からメッセージが届いた。
〈最高。満たされる。〉
〈何が?〉僕は恐る恐る聞いた。
彼女は、うるさい男から離れ、女性のバラのような香りに包まれ、癒されているに違いない。
走る花園には、美しいアゲハが舞っている。
やわらかな風に乗り、ゆらゆらと飛ぶアゲハ蝶。
✨ 🦋 🌷 🚃 🌷 🦋 ✨
僕の脳裏にそんな美しい映像が浮かび上がったとき、最後の返信が来た。
〈広告が全部、目黒蓮❤️〉
…忘れていた。
彼女は大のSnow Manファンであり、目黒蓮推し。
僕は周りを見回し
なるほどな。と呟いた。
僕がいる車両には、その広告は見当たらない。さっき彼女は広告のことをスマホで調べていんだな。
僕はほっとして、Spotifyのアプリを立ち上げる。
東京駅に着くまでずっと、彼らの歌を聴きながら笑っていた。
出会った日から恋をしてる
好きって想いが溢れてゆく
いつもそばに君は僕のもの
My dear, All my love
君は僕のもの
My dear, All my love
僕は君のもの
了
終わりに
最後までお読みいただきありがとうございました。 もし気に入っていただけましたら、「スキ」やご感想をいただけますと励みになります。 フォローもお待ちしております!
質問箱はこちら
旅におすすめな一曲。
