琥珀色の嘘をつかれて。
昼間の陽だまりが
あまりに柔らかかったから
私はすっかり勘違いしてしまったみたい。
玄関から一歩踏み出した瞬間
空気の色が変わったのを感じた。
さっきまで
あんなに眩しかった
春の色に輝いていた世界は
いつの間にか灰色の雲が
退屈そうに寝転んでいて。
春のなんて知らないよって
プイって顔をしている。
えらんだ長袖シャツと
薄手のカーディガンは
心もとなくて、思わず肩をすくめる。
頼りないニットの編み目から、夕暮れの
湿った気配が忍び込んでくるけれど。
それでも、この一枚があるだけで、
少しだけ寒さと距離を置ける気がした。
「いったん戻ろうかな…でも…」
独り言が、声になる
手前の温度で消えていった。
冷え性な指先は、少し感覚が遠のいて、
陶器に触れているみたいにひんやりとして。
守りを求めさまよう指先が、
カーディガンのボタンを見つけた。
一番下のボタンをとめる。
真ん中、そして首に近いところまで。
一つひとつボタンを通すごとに、
体温を小さな箱に閉じ込めているような。
そんな心細い、でも安心感に包まれる。
少し早足で歩き出すと、
街灯がパッと瞬きを始めた。
だれかの夕食の支度の音。
換気扇から流れてくる
イワシの煮つけの香りが、
肺の奥まで入り込んできて、
こおばった体を優しくほぐしてくれる。
街を歩けば、ため息が出るほど
物価が上がっていくけれど。
スーパーの片隅で見つけた
イワシはあまりに安くて、
目まぐるしく変わっていく中で、
そこだけ時間が止まっているみたい。
変わらずにいてくれることに救われながらも
横たわった
銀色の小さな命たちに
なんだか申し訳なくて
愛おしくて、泣きそうになった。
それが今の私には何よりも
ぜいたくなごちそうに感じられる。
明日はもう少し、空の機嫌を
伺ってから出かけようかな。
でも、琥珀色に勘違いした
銀色の夕暮れも、なんだか悪くない。
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昼間の青空のままで
夕暮れになった光景を想像して
ドアを開けた瞬間
しょぼんとした気持ちを昇華して
見つけた、温もり。
今日はいつもよりも
推敲してみました。
noterの詩旅 紡さんの本を購入しました。
ご出版、おめでとうございます…!
最後までお読みいただき
ありがとうございます。
みなさんの春の空が
素晴らしいものでありますように。
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少しでも、あなたの心に残ったのなら嬉しいです。