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GOLDSMITHES ARE FOREVER 39話

 散々ぱら踏みつけられたチコは、首元を噛みつけられ、振り回すように宙を踊らされた挙句、真っ逆さまに脳天を地面に叩きつけられ、動かなくなった。
 これ以上は意味がない。係りの者がジョー・ザ・ボスの首輪にリードを填めて数人がかりで引き離した。勝負は決した。勝ち名乗りを受けるジョー・ザ・ボスと横たわるチコ。勝者と敗者のコントラストは鮮明だ。
 ビリーは気配では感じていたが、見れないでいた横に居るアンソニーに目をくれた。
 流れる涙を止めようともしなかったし、そう思っても止まる事は無かったであろうが、彼は目を逸らさず真っ直ぐチコを見つめていた。男としての義務のように。そしてサークルの中に足を踏み入れた。
 アンソニーに抱き上げられたチコは、ほんの薄い息を吐いていた。試合前はあんなに鼻息荒くいきり立っていたチコ。しかし今はなんの抵抗もなくアンソニーの腕の中だ。
 試合前には絡んできたロバーツも絡んでは来なかった。彼も闘犬士だ。アンソニーやチコの気持ちが分からない訳もない。だから黙っていた。健闘をたたえるだとか生温い事もせず。彼も男だ。ビリーはそう思った。
 
 キンセラの両足がオクラホマの大地を離れ、宙を舞った。
 民衆は熱狂した。歓声を上げるものまでいたほどだ。
 吊り上げられたキンセラは数度、足をばたつかせたが、あっけなく動かなくなった。首はポキリと小枝を折った様に不自然に曲がり、体は重力の助けを借り、だらりと垂れ下がり、ゆらゆらと揺れた。
 吊り上げた若い男たちがキンセラの首にかかる縄の先端をオリーブの幹に括りつけた。暫くの間、吊ったままにしておく算段。
 酷くも感じたが、こうなっては当然の行為とも感じた。
晒すのだ。キンセラを。否、キンセラの死体を。否、キンセラという存在を。キンセラそのものを。
 
 アンソニーはチコを抱き抱えたまま闘犬場を出た。ビリーは黙って彼に付き添った。誰にも見られない場所を求めていたのだろう。アンソニーは川面までチコを運んで、横たえた。
ビリーはこの時初めてチコの体をじっくりと眺めた。ジョー・ザ・ボスに幾度となく踏み付けられ、叩きつけられた体は前足や肩の骨を折られ、折れた肋骨は腹の外に突き出し、いたるところに噛み跡を付けられた無残なものであった。これでは息すら真面に吐けはしない。苦しみに支配されているだけだ。
「アンソニー…」ビリーは促した。
「うるさいッ」アンソニーは否定する。今を。好転するはずが無い事も弁えながらも。
「アンソニー」ビリーはホルスターから出した自分のピースメーカーを銃把を彼に向け、アンソニーに差し出した。
「嫌だ」
「俺がやってもいいんだぜ」
「それはダメだ」
「俺もそう思う。お前がやるべきだ」
 アンソニーは何も言わなかった。
 だからビリーは話を継いだ。「辛いだろうが、お前の義務だ」と。
 そしてビリーは再度、アンソニーにピースメーカーを差し出した。
 銃を受け取ったアンソニーは、やはり躊躇した。当然だ。しかしチコの苦しみは深まった。突き出た肋骨が、きっと肺を破ったのだろう。おかしな呼吸音を奏でさせた。
 アンソニーは両の手で包み込むように銃を構え、横たわるチコに銃口を向けた。
 彼の愛犬であり、相棒であり、友人であるチコに。
 チコの無規則に奏でる呼吸音に覚悟を決めたアンソニーは、ゆっくりと撃鉄を上げ、照準の先にチコを捉え、引き金を引いた。
 辺りに銃声が鳴り響いた。
 ビリーは、震えているアンソニーの肩を後ろから抱いてやった。だが顔は見なかった。男の顔だ。泣いていたろうが、それに構うのは男の流儀に反する。
 アンソニーは男になったのだ。
 望んでいた未来では無かったが、自分で始末をつけた。
 この日、アンソニーの少年の日は終わった。
 

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