CALIFORNIA DREAMIN` 第九話
翌朝、ステフの顔はより白くなっていた。死んでいるのか、と息を確かめたくらいだ。
「辛うじてある」とマクギブンの問いに答える形で俺。
「なら医者に連れていかなきゃ、だな」
至極当然の事を、かなりの善意の様にマクギブンが言った。だが山の中では当然が当然ではない。その分は引いて考えなければならないが、それでも恩着せがましい成分は拭えなかった。
「医者なら炭鉱町に行きゃ居るぜ」とシャバルが口を挟んだ。
「炭鉱町?」
「こな辺はよく採れるらしい。この穴だって炭鉱の名残さ」
「こっから近いのか?」
「山の中、馬では飛ばせねえからな、まあ下って半日ってとこか。行くか? なら道案内するから、手の縄を外してくれ」
「道案内に手はいらねえだろ。口だけあればいい」マクギブンがシャバルも見ずに言った。無慈悲この上なかった。
「手ぇ縛られて、どうやって馬に乗るんだ? 山の中だぞ」
「その心配はいらねえ。お前は歩きだ」
「勘弁しろよ」
しかし本当にそのような処置が取られた。俺達四人は馬。シャバルはマクギブンにベルトに通したロープを手繰られながらの歩き。まともに乗馬も出来ないステフの為に俺が彼の愛馬も併せて二頭を操り、山を下りた。
「つぅか、炭鉱町に真面な医者なんて居んのかよ?」と先頭を行くシャバルに俺。
「ああ。炭鉱町は怪我や病気が絶えねえからな。下手な鉄道駅の町より、いい医者が居る。炭鉱主が金を使うんだ」
「随分、扱いがいいな。人道的と言える」
「馬鹿。生産量が落ちるからだ」
馬鹿とはなんだ。熊の成り損ないが。
「しかしシャバルさんよぉ、何で嬉々として炭鉱町へ案内するんだい? 行けば保安官に引き渡されてアンタ、良くて牢獄行きだぜ」
「まず、俺は嬉々とはしちゃいねえ。ついで言うと炭鉱町に保安官は居ねえ」
「保安官は居ない?」マクギブンが訊いた。
「ああ。炭鉱自治ってやつさ。所謂、合衆国の法ではなく炭鉱主のルールが適用される。まあ、どっから来たのか分からない自警団みたいな奴(の)はいるがな」
「自警団? きな臭いな。お前の仲間なのか?」
「だったらここで話さねえだろ。虎の子にとっておくさ」
確かに。ネタ晴らしして、それに乗っかる阿呆は居ない。たとえ頭のねじが飛んだピンカートン探偵社の人間でもだ。
しかしマクギブンの言う様に自警団ってのは、どうもきな臭い。俺らが言うのもなんだが、真面な奴がやる職業ではない。ひと悶着なければいいが。

結論から言う。ひと悶着あった。
炭鉱町に着くなり、自警団長とかいう役職のスミスなる利かん気の強そうな老人にシャバルを渡せ、と迫られた。
彼が言うには炭鉱夫たちへ支払う賃金を運ぶ輸送馬を何度か襲われたのだそうだ。金銭的でない被害も出ている、と付け加えられた。
しかしこちらも「はいそうですか」と身柄を渡すわけにはいかない。四千ドルだ。ただで渡せば金銭的被害を蒙る。
マクギブンが四千五百の値札を付けて売ろうとしたが、スミスは頑として受け付けず、無償提供一択だ、と言い張った。
老人にフレキシブルを求める事は無駄骨折りとなる。皆が分かっていたので、早々に交渉決裂と切り上げた。
炭鉱町に関してはこんな山の中にこんなものが、と感嘆の声を上げるほどの一大都市であった。
谷底に町が広がりマクギブンの言う保安官事務所と常設の娼館以外の町の機能が全部あった。狭い場所に町の機能を集約させているので建物の背がすべて高い。三階建ても数棟あった。周りの山には坑道が幾本も張り巡らされているそうだ。昼の時間の往来はそれほどでもないが夜になると各坑道近くにある掘立小屋の炭鉱住宅から男たちが押し寄せる。女に関してはこの日は少なく空きが無かったが、麓から馬車に乗って何日かに一度、補充兵が来るのだそうだ。
炭鉱に前科を咎める奴はいない。炭鉱主にしても安定した採掘量が担保できればいいのだ。誰が掘ろうが。
それを自警団が治める。
自警団なる大人し目の名を関しているが要は炭鉱主の雇った私設軍隊だ。あのスミスにしても他に二十人ばかり居るという自警団員にしてもかなりの遣い手なのだろう。
揉めるべき相手では無い。
ステフは、町に来て早々に病院に担ぎ込んだ。シャバルの言った通りの医者が三人も常駐する立派な病院で、きっと腕のいい筈の外科医により、鉛玉をほじくり出す緊急手術が執り行われた。医師の見立てによると数日は眠り続けるとの事。
「どうするよ?」
「何が?」俺の問いにマクギブンが、主語が何なのか分かっていながら訊き返してきた。
「ステフさ。数日掛かるって」
「置いていくしかねえだろ。歩けねえ奴連れて行ってもしょうがねえ」
「此処にかい?」とは言っても、俺もそうするほかないとは思っていた。
「荒野に捨てていくわけじゃ無え。病院のベッドに置いていくんだ。紳士としての嗜みはこなしている」マクギブンが自説を展開。
「だよな」と俺。
俺達が優先すべきは看病じゃない。ランドン宣教師の捜索だ。まるで盲目の手探りだったが。
谷の底の町だ。太陽が傾けばすぐに暗くなった。となると一晩はこの町、という事になる。宿屋の数は十分。女は無し。やはりと言うべきかブロンソンとマクギブン、俺とシャバルという部屋割りになった。
なんかあったら対処しろ、との仰せだと理解した。そして多分、なんかある。
