最速の学習か、思考停止の始まりかー組織における「模倣」の功罪と、人事として打つべき一手:いまのたかの組織ラジオ#255
今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。
今回は、第255回目「模倣の功罪〜負の面を予防するには」でした。
組織に潜む「似てくる」現象の正体
職場では、部署や階層が違うにもかかわらず、社員の話し方や反応の仕方、さらには物事の捉え方まで、どこか似ていると感じることがあると思います。これは単なる「企業文化」という言葉で片付けられるものではなく、もっと根源的な人間の習性、すなわち「模倣」に起因しているのかもしれません。
同じ会社で役員から課長まで、複数の階層の社員と対話する中で見えてくる、驚くほどの類似性。落ち着いていると言えば聞こえは良いですが、問いかけに対するレスポンスが全体的に遅い傾向があったり、「何を大事にするか」という価値観の優先順位が酷似していたりするのです。
この無意識のうちに価値観が継承されていく現象は、組織の安定性や一体感に寄与する一方で、非常に恐ろしい側面も持っています。今回のテーマである「模倣」は、組織の成長を加速させる最速の学習方法であると同時に、思考停止や組織の脆弱化を招く危険な罠でもあるのです。本要約では、この「模倣」が組織に与える影響の功罪を明らかにし、その負の側面を乗り越えるためのヒントを探っています。
模倣の3つのレベルと、最も厄介な「思考の模倣」
番組では、組織における模倣を3つのレベルに分類していました。
言葉の模倣:口調や話法、使う単語などが似てくる現象です。
態度の模倣:表情や立ち居振る舞い、反応の仕方などが似てくる現象です。映画を見た後に登場人物のような歩き方をしてしまう、といった経験は誰にでもあるでしょう。
思考・価値観の模倣:物事を考える際の優先順位や判断基準といった、内面的な部分が似てくる現象です。
この中で最も厄介で、組織に深刻な影響を及ぼすのが、3つ目の「思考・価値観の模倣」とのこと。言葉や態度が似ることは、ある意味で組織の一体感の表れと捉えることもできますが、思考や価値観までが均一化してしまうと、組織は多様性を失い、硬直化していきます。
例えば、新しくチームに加わったメンバーが、上司の厳しい指導方法に「いつか意見を言わなくては」と問題意識を持っていたとします。しかし、その違和感を口に出さないまま1年、2年と過ごすうちに、その問題意識は次第に麻痺していきます。そして恐ろしいことに、気づいた時には自分も後輩に対して同じような厳しい指導をするようになっていた、ということが起こり得るのです。
これは、良くない価値観や偏見までもが、無批判に人から人へと「伝染」していく現象です。課長は部長を模倣し、メンバーは課長を模倣する。この連鎖は無意識下で行われるため、自覚することが非常に困難です。そして、自分が上の立場になった時、かつて自分が批判的だったはずの言動を、何の疑問も持たずに繰り返してしまうのです。
もちろん、模倣にはポジティブな側面も存在します。「学ぶ」は「真似る」から始まると言われるように、模倣は最速の学習方法です。上司が手本となる素晴らしい行動を示せば、部下はそれを見て自然と成長していきます。だからこそ、私たちは模倣の力を、組織にとって良い方向に活用していく必要があるのです。

負の模倣を断ち切り、健全な組織文化を育むための4つの処方箋
では、どのようにすれば「負の模倣」の連鎖を断ち切り、その力を組織の成長のために活かすことができるのでしょうか。番組では、そのための具体的な方法が4つ提示されています。
1. 上司が「模倣される存在」としての自覚を持つ
まず最も重要なのは、管理職やリーダーが「自分は部下に真似される存在であり、その影響力は絶大である」という事実を深く自覚することです。「メンバーはマネージャーの鏡」という言葉があるように、部下の言動は、上司の無意識の言動を映し出しています。この自覚こそが、負の模倣を防ぐための全ての出発点となります。
2. 自分の考えを「正解」として押し付けない対話
次に、部下とのコミュニケーションの取り方です。自分の意見を伝える際に、「俺はこう思うんだけど、君はどう思う?」と問いかける姿勢が重要です。さらに、「なぜならば、こうこうこういう理由で、私はそう考えている」と、自身の思考のプロセスや背景を丁寧に説明することが求められます。これにより、部下は上司の考えを鵜呑みにするのではなく、それを参考にしながら自分自身の頭で考える機会を得ることができます。上司の考えを一方的に押し付けることは、部下の思考の選択肢を狭め、結果として無批判な模倣につながってしまいます。
3. 「違い」を強みとする文化を醸成する
組織の文化そのものを変えていく視点も不可欠です。メンバー一人ひとりが違う個性や考えを持っていることを前提とし、その「違い」を弱点ではなく、組織の強みとして捉える文化を根付かせる必要があります。全員が同じ方向を向くことは、一見効率的に見えますが、それは同時に、環境の変化に対応できない脆弱な組織を生み出します。物理学の世界で、純粋な鉄よりも不純物が混ざっている方が強度を増すように、組織もまた、多様な人材や考え方という「不純物」があるからこそ強くなれるのです。
4. 一人ひとりが「自分で考えて選ぶ」主体性を持つ
最後に、これは上司だけでなく、部下も含めた全員に必要な姿勢です。それは、他者の言動に対して「自分はどうありたいか」「自分のスタイルはどうあるべきか」を常に考え、主体的に「選ぶ」ということです。良いと思ったものは積極的に取り入れ、違和感を持つものとは距離を置く。この批判的な精神(なぜそうするのかを問う姿勢)を全員が持つことで、無批判な模倣の伝染を防ぐことができます。
番組の最後には、ミクロネシア連邦の憲法の話が紹介されました。多くの島々から成るこの国では、憲法の前文に「文化の違いこそが我々の強みである」と記されているそうです。組織も同様に、多様な個性が集まり、互いの違いを尊重し合うことで、初めて強靭で持続可能なものになるのではないでしょうか。
【人事視点】「模倣」の力を組織の成長エンジンに変える人事戦略
「模倣」は、人事の視点から見ても非常に示唆に富んでおり、人材育成、組織開発、採用戦略など、人事のあらゆる機能に応用できる重要な示唆を与えてくれます。ここからは、この「模倣」という概念をどのように捉え、良い方向で、具体的な施策に活かしていくべきかを考察します。
人材育成における「模倣」の戦略的活用とリーダーシップ開発
人事の最も重要な役割の一つは、社員の成長を支援することです。その根幹をなすOJTやメンター制度は、まさに「模倣」のメカニズムを意図的に活用した仕組みと言えます。しかし、その運用を間違えれば、負の模倣を再生産するだけの場になりかねません。
OJT・メンター制度の再設計
私たちは、OJTやメンター制度を単なる「業務の教え・教えられる場」から、「思考プロセスと価値観を共有する場」へと昇華させる必要があります。指導役となる先輩社員やメンターには、単に「やり方」を教えるだけでなく、「なぜこのやり方を選択するのか」「過去にどのような失敗があり、そこから何を学んだのか」といった背景や思考のプロセスを言語化して伝えることを求めなくてはなりません。そのためには、メンター向けの研修プログラムを充実させ、効果的なティーチングやコーチングのスキル、そして「模倣される存在」としての心構えを学んでもらうことが不可欠です。優れた実務家が、必ずしも優れた指導者ではないことを人事は認識し、適切な人材をメンターとしてアサインし、育成していく責任があります。
リーダーシップ開発への組み込み
管理職研修においては、「メンバーはマネージャーの鏡である」という概念を中核に据えるべきです。360度評価などを活用し、自身の言動が部下にどのような影響を与えているかを客観的にフィードバックする機会を設けます。
そして、部下の思考を停止させる「答えを与えるマネジメント」から、部下の主体性を引き出す「問いかけるマネジメント」へと転換するためのコミュニケーション研修を徹底します。「私はこう思うが、君の意見を聞かせてほしい」という対話スタイルを、ロールプレイングなどを通じて身体に染み込ませていくのです。これにより、リーダー自身が負の模倣の起点となることを防ぎ、むしろ健全な思考を促す触媒としての役割を果たせるようになります。
組織開発:「心理的安全性」と「D&I」で同質化を防ぐ
負の模倣が蔓延する組織は、裏を返せば「異論を唱えにくい組織」です。人事は、社員一人ひとりが安心して自分の意見を表明できる文化、すなわち「心理的安全性」の高い組織を作ること、そして組織の同質化を防ぐために「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」を推進することに全力を注ぐべきです。
心理的安全性の醸成と健全なコンフリクトの推奨
心理的安全性の確保は、無批判な模倣への強力なワクチンとなります。人事は、全社レベルで心理的安全性の重要性を啓蒙するとともに、管理職に対して、部下の意見を傾聴し、たとえそれが自分の考えと異なっていても尊重する姿勢をトレーニングする必要があります。
また、会議の場で意図的に反対意見を求める「デビルズ・アドボケート(悪魔の代弁者)」の役割を設けたり、失敗事例を共有し、そこからの学びを称賛する文化を作ったりすることも有効です。思考の同質化を防ぐためには、異なる意見がぶつかり合う「健全なコンフリクト(意見対立)」こそが、組織の進化に不可欠であるという価値観を浸透させることが重要です。
D&Iによる「不純物」の戦略的注入
同質性の高い組織は、変化への対応力が著しく低い、脆弱な組織です。これを防ぐためには、多様なバックグラウンドを持つ人材を意図的に組織に迎え入れ、その「違い」を活かすインクルーシブな環境を整備しなければなりません。これは単に女性や外国人を採用するといった形式的な話ではありません。キャリアパス、価値観、専門性など、あらゆる面で多様な人材が混ざり合うことで、組織内に新たな視点や健全な揺さぶりをもたらすのです。人事は、経営層と一体となってD&Iの重要性を発信し続け、無意識のバイアスを排除するための研修を実施し、多様な人材がその能力を最大限に発揮できるような評価制度や働き方の整備を進める責務があります。
採用・配置:組織の未来を創る「カルチャーアッド」の視点
最後に、組織の入り口である「採用」と、人材の最適配置について考察します。ここでも「模倣」の功罪を意識することが、組織の持続的な成長の鍵を握ります。
採用基準の再定義:「カルチャーフィット」から「カルチャーアッド」へ
多くの企業が採用において「カルチャーフィット(自社の文化に合うか)」を重視します。これは組織の一貫性を保つ上で重要ですが、行き過ぎると自分たちと似たタイプの人間ばかりを集めることになり、同質化を加速させる原因となります。
これからの人事に求められるのは、「カルチャーアッド(自社の文化に新しい価値を加えてくれるか)」という視点です。既存の社員とは異なる強みや視点を持つ人材を積極的に採用することで、組織に化学反応を起こし、イノベーションの土壌を育むことができます。そのためには、面接官が持つ無意識のバイアス(自分と似た候補者を高く評価してしまう等)を自覚し、それを排除するためのトレーニングが不可欠です。
戦略的ジョブローテーションによる「越境学習」の促進
組織内に長くいると、どうしてもその部署特有の「模倣」に染まってしまいます。これを打破するために有効なのが、戦略的なジョブローテーションです。異なる文化を持つ部署へ社員を異動させることで、個人は凝り固まった思考から解放され、新たな視点やスキルを身につける「越境学習」の機会を得ます。組織全体としても、人材の流動性が高まることで部門間の壁が低くなり、知識やノウハウの共有が促進されます。人事は、社員一人ひとりのキャリアプランと会社の事業戦略を両輪で考えながら、こうした意図的な「文化のシャッフル」を設計・実行していくことが求められます。
このように、「模倣」というレンズを通して組織を見つめ直すと、人事として取り組むべき課題が明確になります。私たちの仕事は、単に制度を運用することではありません。健全な模倣を促進し、負の模倣を抑制する「文化の庭師」として、多様な才能が花開く、強靭でしなやかな組織を育んでいくことにあるのではないでしょうか。

