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【書籍】部下の出来は6割で上出来。プレイングマネジャーが黄金比「2:8」を実現するためのロードマップ

 池本克之著『今日もまた「プレイングマネジャー」から抜け出せないあなたへ』(三笠書房、2026年)を拝読しました 。

プレイングマネジャーが抱える苦悩の根本原因

 現代の日本企業において、自らもプレイヤーとして成果を上げながら部下の管理や育成を担う「プレイングマネジャー」の割合は、全体の約9割近くに達しているといわれています。多くのリーダーが現場の最前線で走り続けながら、部下が育たないことやチームの成果が上がらないことに頭を悩ませています 。本書の著者である池本克之氏は、この苦悩の根本には「プレイヤー」と「マネジャー」という本質的に求められる役割が正反対であるという矛盾が存在していると指摘します。

 プレイヤーは自ら行動して直接的な成果を出すことが求められるのに対し、マネジャーは部下を通じて成果を出させることが求められます。アプローチすべき対象も必要なスキルも全く異なるにもかかわらず、多くのマネジャーは適切な教育を受けないまま現場に放り込まれてしまいます。その結果、なまじ優秀なプレイヤーであったがゆえに「自分でやったほうが早い」という病に陥り、自分の時間をすり減らしていく悪循環が生まれてしまうのです 。

「劣化コピー」の量産から「部下の成長」への視点転換

 マネジャーが陥りがちな最大の罠は、無意識のうちに「自分のやり方」を部下に押し付け、自身の「劣化コピー」を量産してしまうことです 。優秀なプレイヤーとしての成功体験が強すぎるあまり、言語化されていない属入的な「我流」を真似させようとしますが、経験やスキルの異なる部下はそれを再現できず、マネジャーの苛立ちは募るばかりとなります。この泥沼から脱却するためには、視点を百八十度変え、チームの目標達成を「部下の成長のための手段」と再定義する覚悟が必要であると著者は説きます 。

 特に、タイムパフォーマンスや自身の成長をシビアに見極める現代の若い世代に対しては、「どこへ行っても通用する人材に育てる」という本気の姿勢を示すことが、その内発的動機を呼び起こす唯一の道となります。部下を自社の目標達成のための道具として扱うのではなく、彼らが望む人生や幸せのために仕事を活用させるというスタンスを示すことで、強固な信頼関係が築かれていくといえるでしょう。

「6割の出来」を許容し、采配で信頼を醸成する

部下に仕事を任せられないマネジャーに対して、本書は「部下の仕事は6割できていれば上出来」という極めて実践的な心得を提示します 。最初から10割の完璧さを求め、マネジャーが抱え込み続ける限り、部下が育つ機会は永遠に失われます。仮に全体の1割の業務を部下に任せ、その出来が6割であったとしても、チーム全体の完成度としてのマイナスはごくわずかであり、その不足分を経験豊富なマネジャーが手直しするほうが、長期的な生産性ははるかに高くなります。

 また、信頼とは最初から存在するものではなく、部下の得意分野や能力値を見極め、適切なレベルの仕事を割り振る「采配」の積み重ねによって少しずつ醸成されるものです 。子どもの能力に合わせた「はじめてのおつかい」のように、失敗するかもしれないが工夫すれば達成できるレベルのハードルを設定し、成功体験を積ませることが能力開発の基本となります。

人を動かす「5つの欲求」と内発的動機へのアプローチ

 部下のやる気を引き出し、自走する人材へと育てるためには、人間の根底にある5つの欲求(自律性・有能性・関係性・成長・生存)を満たすアプローチが有効です 。仕事を一方的に命じるのではなく「どこまでできそうか」を本人に決めさせることで自律性を刺激し、得意なことを活かせる機会を与えることで有能性を実感させます。さらに、他部署のマネジャーとの交流や共同プロジェクトを通じて関係性を深め、正当な評価によって生存の欲求をサポートしていくことが求められます。

 これらを通じて、外部からの報酬や罰則ではなく、部下の内側から湧き出る「これがやりたい」という内発的動機を呼び起こすことが可能になります。マネジャーは、部下が「なりたい自分」を共に描き、今ここにある仕事が将来の市場価値をどう高めるかを丁寧に結びつけて語る役割を担っているのです。

自走するチームをつくるための「5つのステップ」

 部下が自律的に動き、自分がいなくても回るチームをつくるための仕組みは、5つのステップで体系化されています。まず、部署全体の存在意義や目標を共有する「理論的な教育」から始まり、次いでマニュアルの作成やロールプレイングを行う「ワークショップとトレーニング」へと移ります。この際、マニュアル作成そのものに部下を巻き込むことで、当事者意識を高める工夫が凝らされます。

 現場に送り出した後は、「定期的なフォローアップ」を通じて成長に伴走し、部下の権限では突破できない壁を取り除くための「実践的なツールやリソースの用意」という後方支援に努めます 。そして最後は、がんばった成果に対してしっかりとした高評価を与える「評価と人事制度」による報いです。このサイクルを仕組み化することで、部下の得意分野がさらに引き出され、苦手な部分も自然と底上げされていく好循環が生まれます 。

黄金比「2:8」を実現するためのタイムマネジメント

 仕組みを整えたマネジャーが最終的に目指すべきは、自身の業務割合を「プレイヤー2割:マネジャー8割」へとシフトさせることです。現場感覚を失わない最小限の関与に留め、未来の組織をつくるマネジメントに大半の時間を注力する戦略です。これを実現するために、まずは「業務の棚卸し」を行い、付箋を用いて自身の稼働を可視化することで、やらなくていい業務や他人に任せられる業務、デジタルツールで代替できる業務を徹底的に仕分けます。

 さらに、日中の時間をマネジャー業務に全振りし、自身の作業時間をカレンダー上でブロックするなど、徹底した時間管理を行います。この変革を維持するためには、かつてのプレイヤーとしての習性に引き戻されないよう、自分を初心に立ち返らせてくれる社内外の「メンター」や思い出の場所を生活の中に組み込むことが重要であると結論づけられています。

人事の視点から:本書の知見を組織開発と仕組みづくりにどう活かすか

プレイングマネジャーの孤立を防ぐためのマインドセット浸透

 多くの企業において、プレイヤーとして抜群の実績を残した社員がそのままマネジャーへと昇進するケースは一般的です 。しかし本書が指摘する通り、「自分が成果を出すスキル」と「他人に成果を出させ、育てるスキル」は全くの別物です 。現場のリーダーたちが「誰もマネジャーのなり方を教えてくれない」という言いようのないモヤモヤや孤独感を抱えている現状に対して、組織の側から寄り添うアプローチを検討したいところです 。

 具体的には、昇格のタイミングにおいて「これからは仕事の優先順位が逆転し、部下育成こそがメイン業務になる」というマインドセットの切り替えを、公式なメッセージとして明確に伝える一手がいえるでしょう 。単に新しい役職と高い目標を課すだけでなく、彼らの悩みが能力の問題ではなく役割の矛盾から生じていることを認め、心理的な負担を軽減するような共通言語を社内に醸成することが考えられます 。

「2:8」の実現を支える業務の棚卸しと権限委譲のインフラ支援

 マネジャーに対して「プレイヤー業務を減らし、マネジメントの比率を高めよ」と要求するだけでは、現場は破綻してしまいます 。彼らが実際に「2:8」の黄金比を目指せるよう、組織としてのサポート体制を整えることが重要です 。本書で紹介されている「付箋を用いた業務の棚卸しワーク」などは、全社的な生産性向上プロジェクトとして、人事の主導で行うプログラムに取り入れたいアプローチです 。

 マネジャー自身が気づいていない「名もなき雑務」を洗い出し、それらを廃止するか、あるいはAIやDX、アウトソーシングによって物理的に削減するインフラを提供することが考えられます 。また、数千円の備品購入から数万円の決済にいたるまで、現場の裁量を広げる「権限規定の明文化」を後押しすることで、マネジャーが本当に注力すべき部下との対話時間を強制的に捻出する環境をつくり出したいところです 。

「親戚のおじさん・おばさん」作戦を仕組み化するクロスメンター制度

 本書の中で非常に興味深いのは、直属の上司の言葉よりも、少し離れた立場にある他部署のリーダーの言葉のほうが、部下の心にすんなり届くという「親戚のおじさん・おばさん」作戦です 。これは、現代の組織開発において非常に有効なヒントを示しています。直属のマネジャーと部下の一対一の関係性だけに育成を依存させるのではなく、組織全体で部下を囲い込み、育てる仕組みをデザインすることが考えられます。

 たとえば、他部署のプレイングマネジャー同士をペアにし、お互いの部下とカジュアルな1on1を実施したり、ランチを奨励したりする「クロスメンター制度」の導入は有効な一手です。部下にとっては、直属の上司には言い出しにくい本音やキャリアの悩みを打ち明ける安全なサードプレイスとなり、マネジャーにとっては、第三者の視点から自らの部下の意外な長所や指導法のフィードバックを受け取る貴重な機会となります 。このように、部署の垣根を越えた「横のつながり」を意図的に創出することで、社内全体の関係性の欲求を満たし、風通しの良い組織文化を醸成することが期待できます 。

個人の「得意」に焦点を当てた能力開発と適材適所の再定義

 従来の評価や育成の現場では、レーダーチャートの凹んでいる部分、すなわち「苦手なこと」を克服させて平均的な人材をつくろうとする傾向が少なからずありました。しかし本書が説くように、苦手なことの克服には膨大な労力がかかる反面、尖っている「得意なこと」をビヨンと伸ばすほうが、本人の自信と成功体験に繋がり、結果として苦手な部分も一定レベルまで底上げされるという考え方は、今後の人材配置において大いに参考にしたいところです。

 社内の人材データや面談を通じて、個々の社員の「何が得意で、何に熱意を抱いているのか」というポテンシャルを精緻に把握する仕組みを整えることが考えられます。マネジャーが「自分がさせたい仕事」を押し付けるのではなく、部下の独自の視点や知識が付加価値となるようなプロジェクトへ柔軟にアサインできる人事異動の流動性を高めることも、組織全体の勝率を上げるための重要な一手になるいえるでしょう。

変化の「時間軸」を見据えた忍耐強い評価制度の設計

 本書で語られている通り、部風を掲げ、どれほど仕組みを整えたとしても、人の心や思考の変化は「極めてゆっくり」としか起こりません。短期的な「今日の成果」だけを追い求めてしまうと、現場のマネジャーは焦りから再び「自分でやるほうが早い」という呪いに囚われてしまいます。そのため、評価制度の側からも、マネジャーの長期的な投資を支える仕組みを設計したいところです。

 具体的には、マネジャーの評価項目において、目先の業績目標の達成度だけでなく、「1年後に向けた右腕人材の育成プロセス」や「業務の仕組み化・手放しの進捗度」といった定性的な取り組みを正当に評価する軸を組み込むことが考えられます。計画を週1ペースで見直し、1年がかりでじっくりとチームを作り変えていくリーダーたちの忍耐強い努力に対して、組織として腰を据えて報いる姿勢を示すことが、自走するチームの持続可能性を高めることに繋がるといえるでしょう。

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