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「ハラスメントが怖い」上司を救う、侍ジャパン流・チームビルディングの極意ー元・侍ジャパン白井氏:日経ビジネス記事より考察

 白井一幸氏の日経ビジネス記事『元・侍ジャパン白井氏 完璧じゃないメンバーで最高のチームをつくる3つの柱』(2025年12月3日)を拝読しました。

 2023年のWBCで侍ジャパンを世界一へ導いた白井一幸氏は、勝負の不確定要素を超え、最高のチームを作るための「3つの柱」を提唱しています。

 第一の柱は「ゴールの共有」です。多様な個性が集まる組織だからこそ、全員が「何が何でもあのゴールへ行く」という熱量を自分事として共有することが不可欠です。一つの焦点が定まって初めて、個々の強みが活かされます。

 第二の柱は「役割と責任の全う」です。しかし、人間は完璧ではないため、役割を果たせないメンバーも現れます。ここで重要となるのが第三の柱、「組織のゴールに焦点を当てた関わり」です。

 リーダーは、ハラスメントへの恐れや個人的感情で接するのではなく、「その行動は組織のゴールに向かっているか」という基準で問いかけ続けます。リーダー自身の率先垂範と成長が、メンバーと組織の成長を促す唯一の順番であると説かれています。

【人事視点】「世界一のチームビルディング」を企業組織にどう実装するか

 白井氏が語るWBCでのチームビルディングは、決してスポーツの世界だけの話ではなく、私たち企業組織、ひいては人事の日々の営みにそのまま通じる普遍的な真理が詰まっていると感じます。ここでは、この「3つの柱」を、私たち人事が現場でどのように噛み砕き、施策や風土づくりに活かしていけるか、いくつかの視点から深掘りしてみたいと思います。

「共有」の解像度をどこまで高められるか

 一つ目の柱である「ゴールの共有」。これは企業で言えば、パーパスやビジョン、あるいは中期経営計画の浸透にあたるでしょう。多くの企業でこれらは既に提示されていますが、白井氏が指摘する「熱量」を持って「自分事」にできているか、と問われると、ドキッとする場面があるかもしれません。

 人事が社内広報やトップメッセージの発信を支援する際、単に「情報を伝達する」ことと「ゴールを共有する」ことの間には、大きな溝があるように思えます。ともすると、数値目標やタスクの割り振りが先行してしまいがちですが、大切なのは「なぜその山に登るのか」「登った先にどんな景色(私たちへのメリットや感動)があるのか」というストーリーの部分です。

 研修や全社総会などの場において、会社のゴールを個人のキャリアや人生のゴールといかに接続させるか。この「意味付け」のプロセスを支援することが、人事としての一つの手だと考えられます。例えば、目標設定面談のトレーニングにおいて、単なるKPIの確認だけでなく、「この仕事が会社のゴールにどう繋がり、それがあなた自身のどんな成長(=個人のゴール)に繋がるのか」を語り合えるようなマネジメントスタイルを推奨していく。そうした地道な働きかけが、「何が何でもやる」という熱量を生む土壌になるのではないでしょうか。

「役割」の不履行に対する、組織的な「放置」を防ぐ

 二つ目の柱である「役割と責任の全う」に関連して、非常に考えさせられるのが「役割を果たさない人を見て見ぬふりをするリスク」についての指摘です。これは、組織開発の文脈でもよく語られる「腐ったリンゴ」の議論や、「割れ窓理論」に通じるものがあります。

 一生懸命やっている人が「馬鹿らしい」と感じてしまう瞬間、組織のエンゲージメントは音を立てて崩れていきます。人事制度や評価制度を運用する立場として、この「公平感」の維持は最も繊細かつ重要なテーマの一つです。

 しかし、現場のマネジャーからは「強く言うと辞められてしまう」「ハラスメントと言われるのが怖い」という声が上がるのも事実です。ここで人事ができることは、制度というハード面だけでなく、マネジャーが適正な指導を行えるような心理的な安全基地を用意することかもしれません。

 具体的には、成果を出していないメンバーへの対応を現場任せにせず、人事として相談窓口を設けたり、改善プラン(PIP)の運用を伴走したりすることで、「組織として役割不履行を見過ごさない」というメッセージを発信し続けることが可能です。真面目に頑張る人が報われる組織であると信じてもらうために、あえて厳しい現実に目を向ける勇気を、組織全体で持ちたいところです。

「ハラスメントの壁」を超えるための技術的支援

 今回の記事で最も実務的なヒントとなると感じたのが、三つ目の柱にある「ゴールに焦点を当てたコミュニケーション」です。

 昨今、管理職研修を企画すると、必ずと言っていいほど「パワハラにならない叱り方」へのニーズが挙がります。多くのリーダーが、メンバーへのフィードバックに萎縮してしまっています。白井氏の提唱する「君の行動はゴールに向かっているか?」という問いかけは、この課題に対する極めて有効な処方箋になり得ます。

 叱責や注意という行為は、ともすると「あなた(上司)対 わたし(部下)」の人間関係の対立構造になりがちです。しかし、主語を「組織のゴール」に置き換えることで、上司と部下は対立する関係ではなく、「ゴールに向かって並走し、ズレを修正し合うパートナー」という関係に再定義できます。

 このコミュニケーション手法は、1on1ミーティングや評価面談の研修プログラムにぜひ組み込みたい要素です。「あなたのここがダメだ」と人格や能力を指摘するのではなく、「私たちの目指すゴールはここで、現状の行動はここにある。このギャップをどう埋めようか」と、ファクトとゴールベースで対話をする技術。これを管理職が習得できれば、ハラスメントリスクを恐れずに、必要な指導ができるようになるのではないでしょうか。

 人事は「ハラスメントはダメ」と禁止事項を伝えるだけでなく、「では、どうすれば健全な指導ができるのか」という具体的な「武器」や「言葉」を現場に渡していく役目を担いたいものです。

多様性の時代だからこそ「求心力」の設計を

 記事の中で「多様性の時代こそ、ゴールの共有がより重要」とありましたが、これはダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進する人事にとって、非常に示唆に富んだ視点です。

 D&Iというと、どうしても「個の違いを認める」「働き方の多様性を広げる」といった「遠心力」の施策に目が行きがちです。しかし、組織がバラバラにならないためには、それと同じだけの強さの「求心力(=共通のゴール)」が必要です。

 「みんな違って、みんないい」で終わらせず、「みんな違うけれど、見ている先は同じ」という状態をどう作るか。採用活動においても、スキルやバックグラウンドの多様性を求めつつ、最後の砦として「カルチャーへの共感」や「ミッションへの共鳴」をブラさないことが、強い組織を作る上で譲れないポイントになると考えられます。

 採用基準や評価基準において、「成果」だけでなく「バリュー(行動指針)の実践」を重視する企業が増えているのも、この求心力を維持するための工夫と言えるでしょう。私たちも改めて、自社の施策が「個の尊重」と「組織の統合」のバランスを保てているか、点検してみたいところです。

まずは人事自身の「率先垂範」から

 最後に、白井氏がリーダーの心得として説く「率先垂範」についてです。「まず自分が成長し、それを通じてメンバーも成長し、組織が成長していく」。この順番は、私たち人事担当者自身にも鋭く突き刺さります。

 人事は、社員に対して「成長しましょう」「変化に対応しましょう」「自律的に動きましょう」と呼びかける立場にあります。しかし、発信している私たち自身が、誰よりも学び、変化し、成長を楽しんでいるでしょうか。

 もし人事が、旧態依然とした慣習に囚われていたり、変化を恐れていたりすれば、その言葉は誰の心にも響かないでしょう。組織を変えようとするならば、まずは人事が変わり、その背中で「変わることの楽しさ」や「挑戦することの価値」を体現していく。そうした姿勢こそが、最も説得力のある施策になるのかもしれません。

 完璧な人間などいませんし、完璧な組織もありません。だからこそ、私たちも現場の社員と共に悩み、共に学びながら、「世界一のチーム」とまではいかずとも、「昨日より少し良いチーム」を目指して、一歩ずつ進んでいきたいものです。白井氏の言葉は、そんな私たちの背中を優しく、しかし力強く押してくれるエールのように感じられました。

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