【テミスの不確かな法定】NHKドラマ10を視聴して思ったことを書いてみた
「テミスの不確かな法定」は直島翔 氏による小説(2023年4月、KADOKAWAより刊行)を原作としたドラマだ。
幼い頃に発達障害(ASD:自閉スペクトラム症、ADHD:注意欠乏多動症)と診断され、 生きづらさを抱えながらも、主治医のアドバイスを受けて自身の特性と向き合ってきた任官7年目の裁判官・安堂清春がさまざまな事件に挑み、人との関わりの中で成長してい く姿が描かれている。主役に松山ケンイチを迎え、NHKドラマ10で連続ドラマ化され、 1月6日に第1話が放映された。
ドラマは、次のセリフから始まった。
「ふわふわ、ふわふわ、ふわふわ。ふわふわとタンポポの種はそよ風に乗っ て飛んでいく。風に運ばれた種は、どこに落ちるかわからない」
(子どもの頃の安堂清春少年が、歩道に落ちたタンポポの種を拾って道路わきの公園の花壇の土の上に12本規則正しく並べるシーンが映る)
「僕は宇宙人。生まれながら にして地球人の普通がわからない。地球人の気持ち、立ち振る舞い、普通をずっと勉強して きた。僕の仕事は社会の約束事に則って、地球人の争いを解決するため、適切な判断を下す こと」
「当法定を受け持つ裁判官の安堂清春です。開廷をします」というセリフからドラマは流れていく。
タンポポの種は、自分の遺志では飛ぶ方向を決めることができない。風に流され、たまたま落ちた場所がアスファルトなら枯れ、土の上なら芽を出す。これを人間に置き換えると「本人の努力や善悪とは無関係に、環境や偶然によって人生が全く違う方向へ転がってしま う」という無常観を表している。裁判官が下す一つの判決が当事者たちの人生に大きな影響 を与えるが、種がその後の人生にどう芽吹くか(立ち直るか、絶望するか)までは、裁判官にもコントロールできない。
「言葉や判断は放たれた瞬間に自分たちの手から 離れ、どこへ着地するかわからない」という司法に携わる者の不安や恐れが、 投影されている。
そして、発達障害(ASD/ADHD)の特性から見た当たり前としている社会のルールが、 安堂清春からは異質なものに感じられるので、自らを「宇宙人」という言葉を使っているのであろうか。
安堂清春と主治医(山路薫子)とのテレビ電話でのシーン
安堂「疲れました。今、関わっている公判で裁判官忌避を宣告されることになっています。裁判官失格とい うことです。裁判官としてのキャリアに関わる問題なのに怖いとも思わないんです」
山路「自分の将来が どうなるのか気にならないことが悩みってわけね」
安堂「先生に診断された日から、僕は頑張ってきました。今まで先生から普通をいっぱい教えてもらった。その苦労が水の泡になろうとしているのに僕は何も感じない。苦しい。とても苦しいです」
安堂「僕は自閉スペクトラム症それと注意欠乏多動症。四六時中、人目を気にして衝動への恐れを持ち続けている。将来を心配する以前の問題が、いつまでたっても僕から離れていかない」
山路「将来の不安がなくても目の前の不安はある。変わらないことで付きまとうのが不満。変わろうとすることで生まれるのが不安。前を向いていないと不安が生まれない…」
第1話の最後に、心に残ったセリフがある。
「わからないことを、わかっていないと、わからないことは、わかりません」
不確かな推測では埋めない「たぶんこうだろう」という推測で空白を埋めることは、真実 を捏造することと同じだ。わからないことがあっては、誰も裁くことはできないという信念 があるのだろう。安堂清春なりの「真実への向き合い方」なのかもしれない。
「わからないことへの誠実さ」は、発達障害(ASD/ADHD) という特性と深く結びついている。幼い頃から発達障害の特性を 周囲に隠して「普通」を装って生きてきた。 理論的な対称性や整合性に異常なまでに「こだわり」を持っている。 だからこそ、普通の人が見逃すような「真実の欠落(わからない 部分)に誰よりも早く気づき、そこが埋まらない限り判決することができないのだ。
脳内にある論理体系は厳密で、情緒や空気で 動く人間社会とはかみ合わない部分を「宇宙人」だと自ら述べて いる要因ではないだろうか。
「正義とは何か」「普通とは何か」安堂清春の「わからない」 という姿勢は、「安易な共感や予断で人を裁かない」という究極の正義を問いかけている。「わからないという真実を知る必要がある」という言葉は、 まさにこのドラマが描こうとしている「誠実な司法の姿」そのものなのだ。

私も、わからないままでは、いつまでたっても、わからないままである。変わらないことで付きまとう不満を持ち、変わろうとすることで生まれる不安はあるかもしれないが、わからないということをそのままにせず、真実を知ることの大切さをわかるようにしていきたい。
どこにでもいるような普通の私でも、何事にも「こだわり」を持てるだろうか。
追記:全8回の今後に期待したい。親友をこん睡状態に追い込んだ高校生。そして「父は法律に殺された」と訴える娘。事件の矛盾をあぶり出し、真実へどう辿り着くのかを期待したい。
興味のある人は、「テミスの不確かな法定」を視聴してください。

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