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埼玉 三峯神社『白き氣の守り』


埼玉県の 三峯神社 は関東屈指の霊験あらたかな神社で、「オオカミ(山犬)を眷属とする守護神」や「白い氣守」で知られています。標高1,100mの深山に鎮座し、参拝すると空気が一変するほどの荘厳な雰囲気があるといわれる。


『白き氣の守り』

 十二歳の真央は、父に連れられて埼玉県秩父の山奥へと向かっていた。車の窓から見える景色は、街の喧噪を遠く離れ、険しい山道と深い森ばかりだった。

 「お父さん、本当にこんな奥に神社があるの?」
 思わず不安を口にした真央に、父は静かに笑った。
 「あるさ。三峯神社は昔から山の神様が守っている場所だ。だからこそ、特別なんだ」

 標高千メートルを超える山に立つ三峯神社。その鳥居をくぐった瞬間、真央は息をのんだ。

 ――空気が違う。

 深い森の静けさが境内を包み、澄みきった冷気が肌を刺すように感じられるのに、不思議と心は温かかった。両脇には狼を象った狛犬ならぬ狛狼が立ち、鋭い眼差しで参道を睨んでいた。

 「ここでは狼が神様のお使いなんだ」
 父の説明に、真央は目を丸くした。
 狛犬ではなく、狼。けれどその姿は恐ろしさよりも、凛とした頼もしさを感じさせた。

 本殿に進み参拝を終えた帰り道、授与所の前で父が声をかけた。
 「せっかくだから、御守りをいただこう。ここには特別な『白い氣守』があるんだ」

 白い氣守――月に一度しか頒布されず、手にした者には不思議な力を授けると噂される御守りだ。ちょうどその日は頒布の日だった。小さな布袋に「氣」の字が刺繍され、白布は朝霧のように淡く光っているように見えた。

 真央が手のひらに載せた瞬間、胸の奥で小さな音が鳴ったように感じた。

 その夜、山中の宿に泊まった真央は、不思議な夢を見た。

 ――満月に照らされた境内。
 白い狼が一頭、彼女の前に現れた。

 「怯えることはない」

 声は口からではなく、心に直接響いた。狼の金色の瞳が彼女を見つめる。

 「お前の中には弱さも迷いもある。しかし、それは力の源にもなる。氣を忘れるな。氣を失えば闇に飲まれるが、氣を信じればどんな道も切り拓ける」

 真央は言葉を返せなかった。ただ、その瞳に見守られていることを全身で感じた。やがて狼は姿を霞のように消し、代わりに白い御守りだけが胸元で輝いていた。

 目が覚めると、御守りは枕元にあり、手のひらにしっかりと温もりを残していた。

 翌朝、神社へと戻ると、境内は薄い霧に包まれていた。真央は狛狼の前に立ち、深く一礼した。すると風が一陣吹き抜け、狼の像の目が一瞬だけ光を放ったように見えた。

 「……ありがとう」

 小さくつぶやいたその声は、森の中へ吸い込まれていった。

 帰宅してからの日々、真央は少しずつ変わっていった。クラスで発表することを怖がらなくなり、友達とも自然に笑えるようになった。家では両親の支えを素直に受け止められるようになった。

 ポケットの中の白い氣守を握りしめるたび、真央は夢の中の狼の瞳を思い出す。

 ――氣を忘れるな。

 三峯の山に吹く風のように、彼女の心には確かな力が宿っていた。


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2018年6月より白い氣の御守の頒布は中止しています。2025年頒布の再開は、未定のようです。
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