琥珀の矜持 第三章 〜京の飴・いしざき御所乃石本舗物語〜
第三章:一口の救い 一言の目醒め
激励
二〇二〇年春、epidemicからpandemicとなり世の中は変貌し緊急事態宣言下となる
買物をする事ですら人の眼と目に見えない恐怖に支配され人々の心の限界もピークに達して居た、そんなある日、一通の手紙が届いた。
『どこも閉まっていて、大好きな豆平糖が手に入りませんでした。でも、いしざきさんが開いていると知って、勇気を出してお取り寄せしました。この一口で、明日も頑張れそうです』
秀生の手が震えた。
親の急死によりバンドマン兼DTMerから急転し四代目になった事によるコチラ側とのアチラの世界の違いで、業界内では異端児扱いの問題児である秀生の眼から一筋の……
いしざきの豆平糖は、着物を汚さない一口サイズ。それは先々代が「食べる人の所作」を想って編み出した形だ。
「そうか、みんな別に甘いもんが欲しいんと違う。変わらへん『日常』が欲しいんやな」
そして四代目秀生は確信した。コロナ禍で作り続ける意味。それは、世界がどれだけ変わっても、職人が火の前に立ち、変わらぬ味を提供し続けるという事
「安心と平穏な日常」を届けることに他ならないと。
かつてやって居たバンドと同じで、空元気であったとしても、お客さんを喜ばせる為楽しませる為にはバンドも飴屋も関係無い、ふんぞり返ってるだけでは何も届かないのは歌詞にもした位思い知ってる
これまでも秀生は店の売れ行きが芳しく無くても、泣き言は言わずに来て居た、コロナ禍でも俺はビビったらアカン側なんだと心に決めた。
世の中の他店が潰れる助けてと声を上げる中、一言もその言葉を口にしなかった。それまでふんぞり返ってた店までお客さんに恐怖を与えるくらいギャーギャー言って居たが秀生は戦争もスペイン風邪もペストも超えて来た店の四代目として、恐怖に蓋をした。

