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『ハンチバック』を読んだ感想

『ハンチバック』
市川沙央 著作
文藝春秋

長い作品だと思い込んでいけど、実際に読み始めると意外なほど読みやすかった。
作者について詳しくは知らないまま読んだ。病の描写があまりに細かく、生々しく、まるで当事者が書いているかのような迫真性がある。読んでいて苦しくなる場面も多いけど、主人公の軽口が挟まり独特のバランスになっていて、嫌いではなかった。

身体の不自由が少ない自分は、主人公の世界を「なるほど」と知らない世界の知識として読み進めてしまう。でもその読み方がもうすでに上から目線な気もするし、そう思うことさえも作者に見透かされているような不気味さがある。
単に「そういう世界もあるんだな」と考えてしまうのは、見下していないと出ない感想なんじゃなかろうか。その感覚を自覚させられることがこの作品の力ではないか。難しい。難しいのは知らないし、わからない世界だからで、それは傲慢なのかもしれない。べっったりとどす黒くて粘着性のあるものを塗りたくられるような感覚。

田中という人物は社会でのやるせない立場や苛立ちを主人公や全てに向けていたと思う。田中は自分のことを弱者だというし、主人公のことも弱者だという。弱者の世界にも優劣があって、優が上か劣が下か、それは彼ないしは彼らが認識しているだけで私にはわからない。
ことが起きた後、逃げるように退職する姿がまさに「自認弱者」みがあって良かった。

第二章、あるいはエピローグ?に登場する、妹らしき人物のモノローグで、彼が主人公を襲って逮捕されたことを知る。それすらも本当なのか、全くの別人か繋がりがあるのかあやふやな書き方、語りの不安定さ、妹自身危ういキャラクター。どの人間にも「歪み」はあるのだと思わせる終わり方が印象に残った。
ただのフィクションを読んだというより、他者の身体と心の奥底に触れてしまったような感覚が残る。苦しさと衝撃と己の無知さに晒される、不思議な読書体験だった。

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