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世界最高の脚本チームの仕事術 プロット編 『ブレキング・バッド』はどのように発想されたか? 

世界最高のチームはどのように脚本を組み立てているのか?

ビンス・ギリガンは『ブレイキング・バッド』や『ベター・コール・ソウル』といった傑作ドラマのクリエイターとして知られ、そのストーリー構成やキャラクター描写の巧みさで高い評価を受けている。彼の作品はプロットの緻密さ、キャラクターの深み、葛藤の描き方、そして時折挟まれるユーモアまで、非常にリアルで感情を揺さぶるものだ。そんなギリガンがどのような方法論と哲学に基づいて脚本を作り上げているのか、本記事は、様々な記事をもとにその具体的なメソッドを探り、すべてのクリエイターの創作のヒントとなることを目的としている。さらに、彼のチームでの仕事ぶりは、創作だけではなく、多くの現場で参考になるものばかりである。

チームによるストーリー開発とコラボレーション

ビンス・ギリガンは「ショーランナー=独裁者」というイメージを覆し、徹底したチーム主義で脚本開発を行っている。本人曰く「映画やテレビシリーズは決して一人で作れるものじゃない」という信念があり、いわゆる作家主義は「たわごとだ(horseshit)」とまで言い切っている。これは、日本が概ね1人の作家で作業が完結するのと対照的だ。

ライターズルーム:脚本制作の共同体制

ギリガンの作るライターズルーム(脚本会議の場)では、肩書や経験に関係なく「全てのライターは平等」というアプローチが取られている。アイデア出しの場では誰もが自由に発言できる、この協働スタイルは理想論ではなく「純粋におもしろい脚本を生み出せる」からだという。脚本家が物語に真に投資(没頭)すればするほど作品にとって力になるとギリガンは語っており、全員が自分ごととして物語と向き合うことでより良い脚本が生まれるからだ。

ストーリー・ブレイキング プロットがすべて

脚本を書く前にすべてをやり切る

ギリガンの脚本開発でもっとも特徴的なのが、「ストーリー・ブレイキング (story breaking)」と呼ばれるプロット構築手法だ。これは脚本執筆に入る前に物語の青写真(設計図)を徹底的に作り込む工程で、ハリウッドでは広く使われている手法である。ギリガン自身、「プロットの複雑なドラマでは、ただ漠然としたひらめきだけで書き始めることはできない」と語り、入念な設計抜きには良い脚本は書けないと強調している。

コルクボードと大量のカード、そしてマジックペン

具体的には、ライターズルームには巨大なコルクボードと小さなカード用紙、そして色とりどりのマジックペンを用意されている。

7人ほどの脚本チームがテーブルを囲み、エピソードの全場面・全プロットポイントを一つ残らずカードに書き出していく。カード1枚には物語上不可欠な「プロット上の出来事」が一つ書かれる。

1つのシーンを表現するのに3~8枚程度のカードを使うこともあり、細かな要素まで洗い出して貼り付けていく。カードは物語の順序に沿ってボードに配置され、例えば『ブレイキング・バッド』では各回のオープニングの「見出し映像」から始まり、第1幕・第2幕…とテレビドラマの商業ブレイクに合わせた4幕構成でボード上に展開される。こうしてコルクボード一面がカードで埋め尽くされる頃には、そのエピソードの設計図が完成するのだ。

プロットの完成には約3週間以上

ギリガンはこのブレイキング作業こそが「脚本家の仕事で一番骨の折れる部分であり、最も重要な部分だ」と明言している。
事実、『ブレイキング・バッド』では1話のプロットをブレイクするのに約2週間以上かけるのが通常だったといい、物語が進むにつれてアイデア出しも難しくなるため、シーズン後半には1話のブレイクに3週間近く費やしたこともあったという。

何が起きるか全員が隅々まで把握

時間をかけてでも全プロットポイントを洗い出し矛盾なく並べることで、脚本執筆の段階では「何が起きるか全員が隅々まで把握している」状態を作り出す。ギリガンはこの状態を、「建築士がビルの設計図を描き上げたようなもの」だと喩えている。

設計図さえできれば、あとはそれに従って「ビルを建てる(実際の脚本を書く)」だけなので、脚本執筆自体はブレイキングに比べればずっと気楽な作業になるのだと言う。

実際、徹底的にブレイクされたエピソードであれば、チームの誰もがその内容を把握しているため、仮に担当の脚本家が書けなくなっても別の人が代筆できるほどだ、とギリガンは述べている。

「いまこのキャラクターの頭の中は?」「で、次に何が起きる?」

ストーリー・ブレイキングの過程では2つの問いを最重要視する。
いまこのキャラクターの頭の中は?」と「で、次に何が起きる?」の二つを常に問い直す

ギリガンによれば、ほぼすべての脚本会議で突き詰めればこの二問に行き着く。「今この時点で各キャラクターは何を感じ、何を望んでいるのか?」そして「その結果として次に何が起きるのか?」──プロットを捻り出すときも、このキャラクター目線での因果関係を大事にする

例えば、『ブレイキング・バッド』のライターズルームでは「前回エピソードのラストでウォルター・ホワイト(主人公)が妻スカイラーに自分がガンであることを告白した。では次に何が起こる?」という具合に、まず前回までの流れを確認してから議論が始まる。

続けて「ウォルトは次に何を望むだろう?」「スカイラーは何を求めるか?」と人物ごとに頭の中を想像し、その衝突や折り合いから物語の具体的なシーンを組み立てていくのだ。

このプロセスは非常に有機的であり、ひとつひとつのプロットはキャラクターの欲求や行動の必然性から生まれるよう意識されている。

ご都合主義的偶然ではキャラを助けない

さらに、ギリガンの哲学として「ご都合主義的な偶然でキャラクターを助けない」というルールがある。物語上の偶然は主人公たちを窮地に追い込むために使うべきで、もしキャラクターに都合よく働くような偶然が必要になるならそれは避けるべきだ、というのである。

これは観客にとって納得感のあるドラマ作りのための鉄則であり、簡単に問題が解決してしまう展開を排除することで常に緊張感と葛藤を持続させていく。
いつでもキャラクターをさらに厳しい状況に追い込め。それが人を惹きつけるテレビドラマを生むカギだ」との教えは、まさに彼の作劇観を表している。

脚本化の作業はおおむね2週間程度

こうした徹底したブレイキングを経て完成した詳細なアウトラインを元に、各話の担当ライターが実際の脚本を書き始める。一話分のストーリーが固まった段階で担当者は執筆に取りかかるが、脚本化の作業はおおむね2週間程度で行われる。

しかも、シーズン後半の数年間はギリガンがほとんど脚本の書き直し(リライト)をせずに済んでいる。それだけ最初のストーリー構築で詰め切っているため、各ライターが書いた草稿は全体の設計意図から大きく外れることがなく、ギリガンは多少のメモや口頭での指示を与えるだけで十分なのだ。

ギリガンはあくまでマネジメント

さらに、ギリガン自身もショーランナーとして全話の出来に目を光らせているが、だからといって何でも独断で決めるわけではない。議論が停滞した際などにごくたまに「ここはこうしよう」と決断を下すことはあっても、基本的には各脚本家の創意を尊重しながら全体を舵取りしていたのだ。

徹底したチーム主義と設計図主義

ギリガンのチームは日本の脚本作成からは大きくかけ離れている。日本は一人の職人技なのに対して、ギリガンはチームとして再現性の高い方法で作り上げるのだ。

  • チームで物語を磨き上げる:脚本は一人で抱え込まず、信頼できるチームと議論することで質を高める。互いにアイデアを出し合い、ベストな発想を採用する。全員が作品にコミットする環境を作れば、作品への情熱と責任感が生まれる。

  • 徹底したプロット設計: 執筆前にストーリー・ブレイキングを行い、エピソードの全ての出来事をカードに書き出して構成する。キャラクターの心理に基づいて「次に何が起きるか」を論理的に積み上げ、偶然やご都合主義に頼らない骨太な物語を作る。

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