【太宰になろう系】コールミー、エドワード
こちらの企画に参加します。
お題:ラストキス&執筆時間30分のみの即興
おっしゃ聞かせたるで担当編集!
(文字数:約1000文字)残り6分30秒で見直し推敲
「コールミー、エドワード」
と名乗ってきた彼は黒髪黒目の明らかに東洋人だったが、「そう名乗ってきたからには責任を取れ」と言わんばかりに私は「エドワード」と呼び続けたので、彼の本名など忘れた。
イギリスかぶれでオスカー・ワイルドの詩なんぞそらんじ切れる人間だったから、耽美的な文章の裏側に滲む渇望など、気付いたところで真に受けるものか。そもそもオスカー・ワイルドは、アイルランド人だしな。
筆を折るか命を断つかのどちらかだ、と深刻ぶられても今時、私同様真に受けなかった人々が葬祭場には集まっており、皆どこかぼんやりした様子でいた。夢を見ているのか、かつがれているんじゃないか、などと口に出せるほどには明るい場でも無ければ、「エドワード」ではない本名で呼ばれた上に戒名まで付けられた彼本人と、格別に親しくしている者も誰一人いなかったのだから。
それにしても死化粧というものは、棺の中の顔をいかにも白々しく浮かび上がらせてくれる。決して若いわけでもないので刻まれたシワを白粉が際立たせ、最後にわざとらしく乗せられた唇の紅が痛々しい。
明日の告別式を控えて会場からは次々に人がいなくなる。死を悼んでくれるような両親も、配偶者も子も持たなかった男だ。書き続けていた物語も、私以外の誰に読まれるわけでもなく、小説投稿サイトで読了数ヒト桁を晒し続けた。時代がかって気取っているし読んでいても面白くない。たまにそうしたコメントすら来ないで、人づてに遠回しに届いてくる程度では、私一人がいくら絶賛したところで耳に届くわけもない。
棺のそばには誰もいなくなって、葬祭場の照明も弱められた。むしろ格好の舞台じゃないかね、なんて苦笑しながら私は、棺の中の唇に指を当てる。
白粉の上に紅も乗ってザラザラゴツゴツした唇だ。衛生面を考えればさぞ気違い沙汰に思えるだろうが、知ったことか。どうせこの男も私も、元より世間様に認められてなど来なかった。
少し屈み込んで唇を押し当てた私の姿を、目にした者は幸か不幸か誰一人いなかったようだ。
「コールミー、エドワード」
と呟いた時にひと粒だけの涙が落ちた。
了
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